研究課題/領域番号 |
23K19241
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0501:物理化学、機能物性化学、有機化学、高分子、有機材料、生体分子化学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森 達哉 名古屋大学, 学際統合物質科学研究機構, 特任助教 (60908440)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ホウ素 / 蛍光 / 励起状態 / 刺激応答性 / 二重発光 / π電子系 / 発光 / 刺激応答 |
研究開始時の研究の概要 |
光解離とは励起状態で結合が分断する現象であり、いくつかのホウ素π電子系は分子内および分子間のホウ素-ヘテロ原子配位結合が励起状態で解離することで二重発光を示す。本研究では、分子内ホウ素-硫黄結合を有する分子を系統的に合成し、その光解離メカニズムを解き明かす。さらに、光解離が分子の周囲環境に依存することを活用して、固体薄膜の機械的特性をセンシングする蛍光プローブとしての応用に挑む。
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研究実績の概要 |
ホウ素π電子系の分子内配位結合の励起状態解離現象(光解離)の自在制御に向けた分子設計の確立に向けて,二つのアリールをヘテロ原子架橋したジアリールボリル基を含む電子ドナーアクセプター分子を合成した.すでに合成済みであった硫黄架橋体へ用いた手法を活用して,他のカルコゲン元素や別周期元素を架橋部位に含む分子を合成した.加えて,電子ドナーアクセプター分子の励起状態および発光特性に摂動を与えるべく,ジメチルアミノ基をはじめとする種々の電子ドナー性アミノ基を網羅的に導入した. 合成した分子の一つにおいて,X線単結晶構造解析に成功した.分子内でホウ素と架橋ヘテロ元素の距離はファンデルワールス半径和より顕著に短く,かつホウ素が四配位構造であることから,配位結合を形成していることが明らかとなった.溶液状態でもこの分子内配位結合は存在し,かつ溶媒や温度に関わらず基底状態では安定であることが示された.一連の分子の発光特性をしらべたところ,励起状態にて配位結合が一切解離せず四配位ホウ素種からの発光を示したものや,極低温や固体環境下でも容易に解離して三配位ホウ素種からの発光を示すものなど,架橋ヘテロ元素およびアミノ基の電子ドナー性に大きく依存して異なる結果が得られた.その中で,センシング応用等へ有用性が高い二重発光特性を実現するには,中程度の電子ドナー性アミノ基とLewis塩基性ヘテロ原子を用いることが肝要であることがわかった.ここまでで得られた結果を踏まえて二重発光の環境依存性の評価にも着手しており,温度や粘度変化に応じて二重発光の強度比が変わることが明らかにしている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していたとおり,励起状態のエネルギー制御の観点から,電子ドナーアクセプター分子のアミノ基を系統的に置換した分子を合成した.加えて架橋ヘテロ原子の種類を拡張できる汎用性の高い合成手法を確立することができた.合成した一連の分子の吸収・蛍光スペクトルやX線単結晶構造解析,ホウ素NMRなどを網羅的に測定し,分子内配位結合の挙動および発光特性の評価をおおむね完了させた.それらの結果を比較することで,光解離現象の正確な描写および自在制御に向けた設計指針の確立に向けた端緒をつかむことができた.いくつかの分子ではポリマーマトリクス中や極低温ガラス環境において光解離とともに三配位ホウ素からの発光が得られ,固体センシング応用へ向けた大きな潜在性を示す結果が得られた.さらに,温度や粘度に依存して変化する二重発光特性が,電子ドナー性アミノ基を置換することで制御できることも明らかとなり,センシングの応答範囲を分子修飾により容易に制御できる有用な分子系であることが確認された.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに合成した一連の分子を用いて,センシング応用を念頭において温度や粘度,極性等の環境変化に対する二重発光特性の応答性を詳細に評価していく.粘度応答性についてはDMSO-グリセロール混合溶媒を用いる予定である.上記の溶液系に加えて,ポリマーや液晶,細胞など,固体下もしくは高粘度環境下での二重発光特性も同様に評価する.ポリメタクリル酸メチルやポリスチレン,ポリエチレンなどの汎用ポリマーをマトリクスとして用いて発光分子を分散させた薄膜を試料として用いる.骨格全体の大きな分子運動を利用する一般的な分子ローターなどでは実現できない固体薄膜の蛍光センシングに挑む. 加えて,量子化学計算により光解離過程の正確な描写を得ることを目指す.励起状態について分子内配位結合の有無とそれぞれに関しての最適化構造およびエネルギーを求める.励起状態において結合解離とともに四配位から三配位へと変換する際の熱力学的安定化のエネルギーを算出し,光解離挙動に差が見られた分子に関しての実験結果と併せて考察することで,光解離を制御するためのアプローチを実験・理論両方の観点から明らかにしていく.
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