研究課題/領域番号 |
23K19374
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0702:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
成 英瀾 日本医科大学, 大学院医学研究科, ポストドクター (70979567)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | macrophage / MAFLD / TMEM189 |
研究開始時の研究の概要 |
代謝性関連脂肪肝病(MAFLD)に焦点を当てており、炎症誘発型マクロファージにおけるTMEM189欠損の影響を解明し、RNA-seqおよびリピドミクス解析を通じてそのメカニズムを詳細に明らかにします。また、高脂肪食下でのTMEM189欠損マウスとコントロールマウスのフェノタイプを比較し、肥満と脂肪肝の病態進行における違いを詳細に調査します。最後に、プラスマロゲンの補給が治療および疾患予防に与える効果を検証し、臨床応用への展望を探求します。研究の成果は、MAFLDの病態理解を深め、新たな治療法の開発に向けた重要な前進をもたらすことが期待されています。
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研究実績の概要 |
今年度の研究では、マクロファージを中心に据え、プラスマロゲン生合成に重要な不飽和化酵素であるTMEM189の生理学的意義を検討しました。マクロファージ特異的Tmem189欠損マウス(Tmem189 flox/flox; LysM-cre+/-)、クッパー細胞特異的Tmem189欠損マウス(Tmem189 flox/flox; Clec4f-cre+/-)を用いて、これらの脂質代謝酵素の欠損がマクロファージの炎症反応における脂質の調節に与える影響を探求のため、下記の実験を行いました: 1.マクロファージ特異的Tmem189欠損マウスから骨髄由来マクロファージ を抽出して、TMEM189欠損を確認しました。ポジティブコントロールには、3XFLAG-TMEM189もしくはEGFP-Tmem189強発現細胞を用いました。2.クッパー細胞の遺伝子発現解析:コントロール及びマクロファージ特異的Tmem189欠損マウスの肝臓から、肝臓の組織マクロファージであるクッパー細胞をセルソーターにより分取して、RNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を実施しました。RNA-seqの結果、Tmem189、Dusp6、Syngap1、Sik1、Rgs5が有意な発現変動遺伝子として同定されました。これらの遺伝子は、MAPK経路、アポトーシスなどの炎症応答と細胞死に関連することが報告されています。また、TMEM189はがん細胞においてferroptosisと関連する論文があり、マクロファージの細胞死にも関与が示唆されています。3.肝臓の組織学的解析:コントロール及びマクロファージ特異的Tmem189欠損マウスの肝臓および脂肪組織の切片のヘマトキシリン・エオジン染色を行い、組織学的な検討を実施しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のAPAP投与による急性肝損傷モデルよりも、TMEM189欠損マウスとコントロールマウス(n=2)に対して、APAP投与後24時間経過後にクッパー細胞と単球由来マクロファージを分取し、肝臓組織RNAと共にRNA-seqを用いて網羅的な遺伝子発現解析を行いました。その結果、TMEM189欠損マウスでは急性薬剤性肝障害後に、クッパー細胞と肝臓組織全体でインターフェロンαおよびインターフェロンβに関連する遺伝子の発現が上昇したことが示されました。一方で、肝臓組織全体における免疫反応とNF-KB誘導に関連するTNFAに関連する遺伝子の発現は上昇しましたが、クッパー細胞内ではこれらの遺伝子の発現が低下しました。現在、結果再現のために、TMEM189欠損マウスとコントロールマウス(n=3)でAPAP投与後24時間のクッパー細胞、単球由来マクロファージ、肝臓組織RNAを再度RNA-seq解析を行います。また、肝臓組織の病理学的解析を行い、病変の特徴や炎症反応を評価しています。ヘマトキシリンとエオシン染色を行い、肝細胞の損傷と形態を比較しました。染色結果から、APAP投与後8時間において、TMEM189欠損マウスの損傷エリアはコントロールマウスよりも広くなる傾向が見られました。TMEM189欠損マウスAPAP投与8時間後、F4/80染色された細胞はコントロールよりも減少しました。TMEM189欠損クッパー細胞では、炎症反応が低下し、より多くのマクロファージを動員されなくなりましたと考えられます。これらの結果より、TMEM189を介したプラスマロゲン生合成がクッパー細胞やマクロファージの機能調節、さらには急性薬剤性肝障害(DILI)や慢性代謝異常関連脂肪肝(MASLD)など、肝臓疾患の病態進展に対する影響を検討します。
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今後の研究の推進方策 |
今後、クッパー細胞の炎症応答と細胞死におけるプラスマロゲン生合成の意義に焦点を当てた検討を実施していく予定です: 1.クッパー細胞のTMEM189欠損が脂肪肝形成に与える影響の解析:クッパー細胞特異的Tmem189欠損マウス(Tmem189 flox/flox; Clec4f-cre+/-)及びそのコントロール(Tmem189 flox/flox; Clec4f-cre-/-)に8週間の高脂肪食(HFD)負荷を実施しました(n=2)。今回の検証ではクッパー細胞におけるTMEM189欠損が脂肪肝形成に及ぼす効果は明らかとなりませんでした。今後、マウスの数を増やすとともにHFDの期間を3ヶ月に延長し、実験予定です。 2.クッパー細胞の3D観察:肝臓の組織学的解析の基礎検討として、核染色抗体による免疫染色とクッパー細胞が発現するtdTomatoの蛍光を利用して、肝臓の3D観察を共焦点顕微鏡により実施しました。今後の研究では、炎症誘導を行い、クッパー細胞と複数の単球マクロファージ集団と肝細胞などの位置関係を明らかにしていく予定です。 3.クッパー細胞のTMEM189欠損が炎症応答に与える影響の解析:クッパー細胞特異的Tmem189欠損マウス及びそのコントロールにLPS(5ug/kg)を投与することで全身炎症反応と急性肝不全を誘発するLPSチャレンジモデルを作製しました。肝臓において、定量的PCRによりTnf、Il1b、Il6などの炎症性遺伝子の遺伝子発現解析を実施した結果、クッパー細胞におけるTMEM189欠損により炎症応答が減弱する傾向が明らかとなりました。今後、アセトアミノフェン(APAP)による薬剤性肝障害モデルにおいても、クッパー細胞の細胞死と炎症応答に与える効果を検討します。
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