研究課題/領域番号 |
23K19395
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0704:神経科学、ブレインサイエンスおよびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
度会 晃行 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任助教 (50980322)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 社会性記憶 / 腹側CA1 / 社会行動 / 海馬 / オスメス / 脳内表象 / 雌雄 / エングラム |
研究開始時の研究の概要 |
他者に関する記憶(社会性記憶)は、海馬腹側CA1領域内で活性化する特定の組み合わせのニューロン集団により保存される。 それらのニューロン集団内で、性別のようなカテゴライズ可能な情報が表象されるメカニズムについては明らかではない。本研究では、異なる個体についての社会性記憶を担うニューロン集団同士にも、ある一定の重なりがあることに注目し、複数のメスの間で共有されるニューロンが「メス」というプロパティ情報を表象しているのではないかと着想した(メス共通細胞)。人為的な記憶再生技術を駆使することで、「メス共通細胞」の機能と動作原理を明らかにし、社会性記憶の中の高次情報表現の探求を試みる。
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研究実績の概要 |
他者に関する記憶(社会性記憶)は、海馬腹側CA1領域内で活性化する特定の組み合わせのニューロン集団により保存されている。しかし、性別 や年齢(子供・大人)といったカテゴライズ可能なプロパティ情報が、それらのニューロン集団内でどのように表現されているのかは明らかではない。本研究では、複数のメスの間で共有されるニューロンが「メス」というプロパティ情報を表象していると着想した(メス共通細胞)。オプ トジェネティクスを用いた人為的な記憶再生技術を駆使することで、「メス共通細胞」の機能と動作原理を明らかにし、社会性記憶の中の高次情報表現の探求を試みる。 本研究によってオスとメスに関する社会性記憶(オス記憶とメス記憶)の違いを生み出すメカニズムを明らかにすることで、社会性記憶のなかのプロパティ情報を表象するニューロンの同定を目的とする。動物が性行動や敵対行動といった社会性行動を出力する上で、相手個体の性の認識は極めて重要な意味を持つ。これまでフェロモン受容やその情報処理に関わる脳領域の機能解析を通じて、目の前の相手の「性の認識」についての神経メカニズムが精力的に探索されてきた。一方で、私たちヒトは他者について思考・想像するときに、男性か女性かを含め、様々なプロパティ情報を想起することができる。本研究は、記憶のなかの「他者の性情報を思考」する神経メカニズムという未知な研究フィールドを開拓するだけでなく、将来的には「どのように私たちヒトは他者を想像するのか」という、社会性を司る神経基盤の根源的な問いに迫ることとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オプトジェネティクスを用いて、他者に関する記憶形成時に活性化した海馬腹側CA1(vCA1)のニューロン(記憶細胞)を光照射により再び活性化させることで、人為的記憶再生が可能となる。本研究では、アデノ随伴性ウイルス(AAV)を用いた記憶細胞の遺伝子編集を可能にする技術、以下 「メモリーラベリング」によって本年度は二つの課題を実施した。 【課題1:オス記憶およびメス記憶の質的比較】 メモリーラベリングにより、オスマウスのvCA1におけるオスまたはメスの記憶細胞にチャネルロドプシンを発現させた。チャネルロドプシンは青色レーザーの照射により、神経細胞を活性化することが可能である。レーザーの照射により、オス記憶またはメス記憶の人為的再生を行い、それらを強化子とする場所嗜好性テスト(CPP)を行った。CPPは強化子が報酬なのか罰なのかといった質を評価することが可能であり、オス記憶の再生には報酬効果が見られなかったのに対して、メス記憶の再生には報酬効果が見られた。 【課題2:オス・メス情報を腹側CA1に与える領域の同定】 扁桃体内側核(MeA)は神経投射する一部のニューロンによって直接的に、あるいは他の嗅覚領域または統合領域を経由して間接的に、vCA1へ性別情報を伝達していると考えられる。また、vCA1へ伝達する社会情報の統合領域として海馬背側CA2(dCA2)が知られている。AAVによりジフテリア毒素受容体を強制発現させることでMeAおよびdCA2を障害させ、オスメス記憶を構成する社会情報を欠失させた。そのうえで、課題1と同じCPP課題を行ったところ、メス記憶の報酬効果が維持されていたのに対して、オス記憶は報酬効果が得られるように変化した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では以下の二つの課題を予定している。 【課題3:オス・メス情報表象メカニズムの組織学的解析】 オスマウスに、「オスAとオスB」、「メスAとメスB」、または「オスAとメスA」という2匹のマウスを記憶させ、それら3グループについて2匹の間で共有されたvCA1の記憶細胞を可視化する。具体的には、1匹目の記憶細胞をメモリーラベリングにより蛍光タンパク質で標識し、2匹目の記憶細胞は神経活性マーカーであるc-Fosを免疫染色することで、2匹のあいだで共有された細胞が可視化される。性別情報を持つ記憶細胞が存在すれば、同性2匹で実験を行なった群でのみ共通する記憶細胞の数が多くなることが期待される。 【課題4:オス・メス情報表象メカニズムの機能的解析】 オスマウスに、「オスAとオスB」または「メスAとメスB」の組み合わせで2匹のマウスを記憶させる。このとき、複数のAAVの組み合わせたメモリーラベリングをvCA1で行うことで、2匹のマウスに共通した記憶細胞のみをチャネルロドプシンにより標識する。このオスあるいはメス共通細胞の活性化を強化子としたCPPを実施することで、課題3および課題4で得られるようなオスメス共通記憶細胞がオスメス記憶における報酬効果の差を生み出すのに十分であるのか検証する。 以上4つの課題を通して、どのような領域からの情報により、どのような細胞がオスメス記憶の質的差異を生み出しているのかを明らかにし、記憶のなかの性別という高次な社会情報を表象するニューロンの特性の理解を試みる。
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