研究実績の概要 |
妊娠時の薬物治療において、薬物の胎盤通過に関する情報は、胎児への影響を考慮する上で重要である。近年、ヒト胎盤幹細胞 (trophoblast stem: TS) の樹立が報告され、胎盤の発生・機能を解析する上で有用なツールとなることが期待されている。しかし、本モデルが、実際の胎盤における薬物輸送機能を反映しているか否か十分な検討は行われていない。本研究は、TSより分化したsyncytiotrophoblast (ST) を使用し、薬物移行性や輸送メカニズムを予測するin vitroモデルとして応用することを目的とした。本年度は、TS由来ST (ST-TS) におけるトランスポーター発現解析ならびに排出トランスポーターの機能解析を行った。 各種マーカー (syncytin-1, syncytin-2, syndecan-1, β-hCG, E-cadherin) の発現変動により、STへの分化を確認した。PCR arrayを用いて、84種類の薬物トランスポーターの発現レベルを解析した。胎盤のモデルとして従来から汎用されるBeWo細胞と比較したところ、多くのトランスポーターについてST-TSにおいて高い発現が確認された。主要な排出トランスポーター (BCRP, P-gp, MRP2) に着目し、更なる検討を行った。その結果、mRNA、タンパク質レベルでST-TSにおいてヒト胎盤組織に近い発現が確認された。また、蛍光基質 (BCRP: Hoechst 33342, P-gp: Rhodamine 123, MRP2: CDFDA) の蓄積評価により、トランスポーターの機能を評価した。基質蓄積量は各阻害剤 (BCRP: Ko143, P-gp: Elacridar, MRP2: MK571) により増加したことから、ST-TSにおける薬物排出トランスポーターの機能的発現が示唆された。
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