研究課題/領域番号 |
23K19570
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0902:内科学一般およびその関連分野
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
渡邉 知佳 自治医科大学, 医学部, 助教 (90528506)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | Niemann-Pick病C型 / バイオマーカー / 遺伝子治療 / マス・スクリーニング |
研究開始時の研究の概要 |
Niemann-Pick病C型 (NPC) は、根治療法である遺伝子治療が開発され治験計画中で、早期診断・治療が期待されるが、早期診断のための、また遺伝子治療の効果判定のためのバイオマーカーが確立していない。本研究では、新規バイオマーカーの探索と、遺伝子治療効果判定の指標となるバイオマーカーを検討し、治験実施時に患者への応用を目指す。さらに、早期診断法を開発し、発症前/発症早期の治療に繋げる。
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研究実績の概要 |
Niemann-Pick病C1型 (NPC1) は、NPC1遺伝子変異による常染色体潜性遺伝性疾患である。NPC1はライソゾーム膜蛋白でコレステロール輸送に関与しているため、その障害によりコレステロールやスフィンゴ脂質が神経細胞や肝に過剰に蓄積し、神経症状(重度発達遅滞、小脳症状)や肝障害をきたす。早期発症ほど進行が早く、予後が悪い。 現在承認されているミグルスタット(基質合成阻害薬)は、症状の進行を遅延させる効果しかない。そのため、所属研究室では遺伝子治療を開発し、治験計画中である。 遺伝子治療の効果を上げるためには早期診断、早期治療が重要で、さらに治療効果は客観的に評価される必要があるが、様々な課題がある。1つ目は、早期診断に繋げるためのバイオマーカーが確立されていないことである。臨床症状から本症が疑われた場合には、初めにスクリーニング検査として血液のバイオマーカーを測定し、最終的に遺伝子検査で確定診断されるが、既存のバイオマーカーは疾患特異的性において課題がある。2つ目は、マス・スクリーニング法が開発されておらず、未診断例が多いことである。欧米での発症頻度は出生12万人に1人と推定されているが、わが国での診断例は約40名と少ない。3つ目は、遺伝子治療の効果判定の指標となるバイオマーカーが確立されていないことである。 本研究では、マウス血漿を用い新規バイオマーカーの探索を行う。疾患特異性が高い新規の物質が同定された場合、早期診断およびマス・スクリーニング法へ応用でき、発症前・発症早期の治療に繋がる可能性がある。また、遺伝子治療マウスで効果判定の指標となるバイオマーカーを検討する。NPC遺伝子治療を実施する施設は現時点ではなく、またマウス遺伝子治療前後でバイオマーカーを検討した既報もなく、新規の解析である。有用なバイオマーカーが同定できれば、治験実施時に患者へ応用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1. 新規バイオマーカーの探索:5週齢のNpc1ホモ欠失型マウス、野生型マウス各5匹の血漿で、ノンターゲット・メタボローム解析を行った(外注)。393種類の化合物(イオン性化合物216種類、脂溶性化合物177種類)を同定した。同定された化合物のうち、ホモ欠失型と野生型マウスで差がみられた17種類の化合物を、新規バイオマーカーの候補物質とした。次いで、新規バイオマーカー候補物質がヒトで有用であるか、NPC1患者、コントロール、疾患コントロールの血漿で検証した。NPC1患者で、Guanidoacetic acid、N1-Methylguanosine、Sphingosineなどの化合物が上昇したが、年齢によって異なり、有用な新規バイオマーカーは同定できなかった。 2. 遺伝子治療の効果判定の指標となるバイオマーカーの検討:ホモ欠失型マウスと野生型マウスに、遺伝子治療として、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを用いたアデノ随伴ウイルス(AAV)9ベクター(AAV-CMV-hNPC1)を、生後3-5日のマウスの左側脳室と大槽へ注入した。ベクター投与5週後に、AAV治療群/無治療群それぞれから血液、肝臓、脳を採取し、既存のバイオマーカーである7-ketocholesterol(7-KC) 、コレステロール、 Lyso-sphingomyeline (lyso-SM) 、N-palmitoyl-O-phosphocholine-serine (PPCS)を測定した。ホモ欠失型では野生型マウスと比較し、AAV治療群/無治療群ともに、血漿のPPCS、肝臓の7-KC、コレステロール、lyso-SMが上昇していた。しかし、ホモ欠失型マウスにおいて、無治療群と比較し、AAV治療群でバイオマーカーの低下はみられなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1.遺伝子治療の効果判定の指標となるバイオマーカーの検討:AAV治療群ホモ欠失型マウスでは、無治療群と比較し、ロータロッド試験(rotarod test)による運動機能の改善や、小脳プルキンエ細胞脱落の抑制、体重増加や生存期間の延長を認めている。しかし、これまでの検討では、コレステロールやスフィンゴ脂質に関連するバイオマーカーの低下はみられなかった。生命予後を左右する神経系への効果は確認されたが、コレステロール代謝の改善は不十分であることが示唆された。投与ベクター量が不十分であった可能性や、サンプル数が少なく有意差がみられなかった可能性などが考えられた。今後は、より精度の高いAAVベクターを製造し、投与ベクター量を増量し、サンプル数も増やして、再度バイオマーカーを測定する方針である。なお、側脳室と大槽へのベクター注入は投与量が限られるため、投与経路は腹腔を予定する。 2. マス・スクリーニング法の開発:多数の未診断例が存在する可能性、また早期発症例は予後が悪いため今後遺伝子治療の対象となるが早期治療が必須であることから、早期診断のための検査体制の構築は喫緊の課題である。新生児スクリーニング法開発について、ろ紙血の胆汁酸測定の有用性が示されている(Jiang, et al. 2016. Mazzacuva, et al. 2016) 。血漿スフィンゴ糖脂質もろ紙血で検出されることが見込まれるが、実施した報告はない (Sobrido MJ, et al. 2019) 。まず、各バイオマーカーが、ろ紙血で測定可能か検討する。解析は、タンデムマス法で行う。解析可能であれば、NPC患者および正常・疾患コントロールのろ紙血で、有用であるか検証する。次いで、マス・スクリ ーニングのパイロット検査に繋げていく。
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