研究課題/領域番号 |
23K19653
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0906:生体機能および感覚に関する外科学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊吉 祥平 名古屋大学, 高等研究院(医), 特任助教 (90980566)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 卵巣癌 / 腹膜播種 / 脂肪組織 / 腹水 / 脂肪細胞 / プロテオミクス / ケミカルバイオロジー |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では、腹腔内において脂肪組織と悪性腹水が織りなす卵巣癌促進的土壌としての腹腔内エコシステムの本質に迫り、その治療標的化を目指す。具体的には新規超耐光性脂肪滴蛍光プローブと脂肪細胞モデルを用いた定量的な脂肪細胞脱分化評価システムを構築し、このアッセイ系により脱分化プロセスを抑制する候補物質を大規模化合物ライブラリーから探索する。更に、卵巣癌患者由来腹水の大規模コホートプロテオミクス解析から得られた知見に基づき、腹腔内への補体活性化阻害剤の投与が腹腔内微小環境改善に寄与する可能性についても検討を行う。
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研究実績の概要 |
腹膜播種を伴う進行卵巣癌の難治性克服には、卵巣癌細胞(種)だけではなく癌促進的に働く腹膜微小環境(土壌)を一体として捉えた新たな治療戦略を確立する必要がある。申請者はこれまでに腹膜播種微小環境における脂肪細胞と卵巣癌細胞のクロストークに着目し、大網脂肪細胞の脱分化という播種の進展に寄与する新たな分子メカニズムを解明した。この知見をもとに本研究課題では、腹腔内において脂肪組織と悪性腹水が織りなす卵巣癌促進的土壌としての腹腔内エコシステムの本質に迫り、その治療標的化を目指す。具体的には新規超耐光性脂肪滴蛍光プローブとマウス胎児線維芽細胞(3T3-L1)由来脂肪細胞モデルを用いた定量的な脱分化評価システムを構築し、このアッセイ系により脂肪細胞脱分化を抑制する候補物質を既存の承認薬を含んだ大規模化合物ライブラリーから探索する。 脂肪組織をターゲットとした戦略では、悪性腹水によって促進される癌親和的な大網脂肪細胞由来線維芽細胞(omental adipocyte-derived fibroblast; O-ADF)の生成を阻害する物質のスクリーニングを行うべく、新規超耐光性脂肪滴蛍光プローブを用いたアッセイ系を構築することに成功した。このアッセイ系を用いて小分子化合物ライブラリースクリーニングを現在実施中である。 腹水をターゲットとした戦略では、卵巣癌悪性腹水の大規模プロテオミクス解析の結果新たに得られた3つの腹水分子型サブタイプと新規予後マーカーの同定という成果を踏まえ、予後への相関が示唆された分子のリコンビナントタンパク質を用いて、機能解析実験を現在行った。 これらの成果を踏まえ、卵巣癌の腹膜播種による進展のより詳細なプロセス解明と腹膜環境の正常化を目指した研究基盤の確立を今後目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、以下の内容に関する成果を挙げることができたと考える。 脂肪組織及び脂肪細胞をターゲットとした進行卵巣癌の治療戦略では、悪性腹水による大網脂肪細胞の脱分化促進過程を追跡することが、腹水による脂肪細胞への影響をより詳細に解明するために必要となるのみならず、その阻害を通した新規治療戦略の立案を行うための阻害剤スクリーニングに必須となる。名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の研究グループと共同で新規超耐光性脂肪滴蛍光プローブを開発し、これを用いた卵巣癌細胞との長時間直接共培養タイムラプスイメージングに成功した。 また腹水をターゲットとした治療戦略においては、これまでに高悪性度漿液性卵巣癌(HGSOC)91例から採取した患者由来腹水を用いて、大規模プロテオミクス解析を行い、3つの異なる分子型サブグループを同定するとともに、予後に関連するバイオマーカー分子を同定している。本年度は、この結果を発展させ、予後と強く相関するタンパク質Aのin vitroでの機能解析実験と、リコンビナントタンパク質Aを用いた腹腔内環境の改変を試みている。大網手術検体から得られるヒト腹膜中皮細胞に、卵巣癌患者由来腹水中にも高い濃度で存在することが知られているTGF-bを添加すると、中皮-間葉転換が誘導され、卵巣癌細胞の接着及び増殖が亢進することが知られている。蛍光標識した卵巣癌細胞株(Ov-90-GFP)を用い癌細胞接着実験の結果から、リコンビナントタンパク質Aによって中皮細胞への卵巣癌細胞の接着が抑制されることを見出した。具体的な分子メカニズムについては、現在オミクス解析により分析中である。これらの結果は腹膜播種を伴う進行卵巣癌に対する新規治療法の開発に示唆を与えるものである。今後、卵巣癌実験モデル動物を使用した検証実験を行い、順次論文作成を行うべく準備をしている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られている基礎的データをもとに、in vivo実験に力を入れて研究を推進していく。具体的にはマウスの卵巣癌腹膜播種モデルを用いて、腹腔内環境の改善に寄与すると思われる腹水中の候補タンパク質や、脂肪細胞脱分化阻害剤のスクリーニング実験におけるヒット化合物を用いて、これらをモデルマウスに投与することで、卵巣癌の進展抑止作用の有無や毒性の評価などを行う予定である。これらの研究推進を通して、本研究課題の目的である腹腔内エコシステムにおける卵巣癌細胞の悪性化プロセスの解明と腹膜環境の正常化を目指した研究基盤の確立を目指す。
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