研究実績の概要 |
令和5年度は, ①ヒトiPS細胞由来板状軟骨組織の作製, ②中大動物の大腿骨関節軟骨欠損に対する板状軟骨組織の移植固定方法の検討, ③異種移植における免疫抑制剤投与プロトコールの確立を実施した. 詳細は下記の通りである. ①ヒトiPS細胞由来軟骨は結合能を有することが報告されている. 粒状の軟骨同士を密着させ培養を続けることで, 軟骨同士が結合するという特徴を持つ. 多くの粒状の軟骨組織をin vitroで融合させることにより, 2x2cm大の板状軟骨組織の作製を実現した. ②ミニブタ死体膝を用いて, 大腿骨関節軟骨部に軟骨欠損を作成した. 欠損と同型にヒトiPS細胞由来板状軟骨組織を整形し, 移植固定方法を検討した. 欠損作成用ジグを用いて安定した同型の欠損作成を実現した. また, 接着剤や縫合糸などを用いることにより, ex-vivoにおいて移植組織の良好な固定性を確認した. ③異種移植に伴う免疫反応を抑制するため, ミニブタにタクロリムス, ミコフェノール酸モフェチル, プレドニゾロンの3剤を併用した免疫抑制方法が報告されている. 投与経路の確立, 薬剤目標血中濃度の保持, 免疫抑制効果の確認を行った. 安定した薬剤投与を目的として, 経皮内視鏡的胃瘻造設術を習得し, 胃瘻経由投与を実現させた. 予備試験として, 関節軟骨小欠損に対してヒトiPS細胞由来軟骨を移植したミニブタ(胃瘻造設モデル)に対して免疫抑制剤を投与し, 術後4週時点で移植組織評価を行い, 免疫抑制が可能であることを確認した. なお, 目標血中濃度の確認のために, 頸部大静脈洞に留置したCVカテーテルより週2-3回の頻度でタクロリムスとミコフェノール酸モフェチルの血中濃度を測定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は, ヒトiPS細胞由来板状軟骨組織の作製, 中大動物の大腿骨関節軟骨欠損に対する板状軟骨組織の移植固定方法の検討, 異種移植における免疫抑制剤投与プロトコールの確立を実施した. 本研究を実施する上で重要となるのは, 異種移植に伴う免疫反応の抑制と移植組織の固定性である. 予備試験において, 軟骨小欠損対する移植物の残存と免疫反応の抑制効果を確認することができた. 令和6年度は, 確立したプロトコールと移植物固定法を用いて, より大きな軟骨欠損に対して移植を行い, 移植後長期(最長12週目標)における生着, 力学的特性の評価を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は, ミニブタ大腿骨関節軟骨欠損に対する板状軟骨組織移植を行い, 組織の生着や機械的特性の評価を行う予定である. 具体的には以下の通りである. ① 中大動物における自然修復しない軟骨欠損のサイズは, 種によって異なるが4~7mm程度という報告がある. 使用動物であるミニブタにおいても5mm前後が自然修復不可の欠損サイズと考えられる. 径を3-5mmに設定した軟骨欠損部にヒト軟骨iPS細胞由来板状軟骨を移植し, 術後4週での生着・脱落の評価, 免疫抑制の評価を行う予定である. 術後4週における結果が得られた後, 術後12週を目標として試験を継続し, 経時的な癒合状態・組織形態の変化を確認する. 関節軟骨損傷に対するヒトiPS細胞由来軟骨移植の有用性を明らかにする. ②ヒトiPS細胞由来板状軟骨組織の力学的特性(粘弾性)の変化を評価する. 移植前, 移植後4週, 移植後12週における力学的特性の経時的評価を行う予定である.
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