研究課題/領域番号 |
23K20011
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
1002:人間情報学、応用情報学およびその関連分野
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
上原 由衣 神奈川大学, 情報学部, 助教 (30982459)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 音楽情報科学 / 和声分析 / 教師なし学習 / 隠れセミマルコフモデル / 潜在構造モデル |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は教師なし学習による和声の自動分析を目指すものである.和声分析の難しさの要因は,和音の解釈が調や和声進行の文脈に依存するという「和音の定義のあいまいさ」と「リズム構造の複雑さ」にある.そこで,J. S. Bachによるリズム構造の複雑さが異なる2つの楽曲群を対象として以下の課題に取り組む. (i) リズム構造が簡素な4声コラール集を対象として「和音の定義のあいまいさ」への対応方法を検討する. (ii) リズム構造が複雑なオルガン小曲集を対象として「リズム構造の複雑さ」への対応方法を検討する. これにより,リズム構造が複雑な楽曲も含め,調と和音を同時に教師なし学習するモデルの実現を目指す.
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研究実績の概要 |
2023年度はJ. S. Bachの4声体コラール集に対する自動和声分析の研究開発を行なった.具体的には,隠れセミマルコフモデルを拡張し,和声分析に必要な潜在変数の分解,転調のモデル化などを行って自動和声分析を実現することができた.隠れセミマルコフモデルを構成する確率分布(和音の根音の遷移確率分布,和音の種類の出力確率分布など)については楽譜データ集合から教師なし学習で獲得した.ただし,和音の種類(長3和音,短3和音など)の集合については事前知識として用いた.これは,和声分析で用いる和音ラベルの語彙集合を決めることと同様の意味がある.また,教師なし学習で良い解を得られやすくするために,古典的な隠れセミマルコフモデルではなく,モデルを構成する確率分布をニューラルネットワークで近似する手法も採用した.このとき,旋法の特徴を学習するための潜在表現を設け,これを確率分布の予測に共通して用いるなどの工夫を行なった.これにより,先行研究では自動和声分析の完全な教師なし学習は難しいとされていた点について研究を進展させることができた. さらに,調は旋法とTonic(旋法上の最も重要な音)の組み合わせによって表現することとし,この旋法を長調・短調の事前知識によらずに学習によって獲得した(ただし,旋法の数は2とした).また,Tonicを含む和音の重要度が,学習された隠れセミマルコフモデルの遷移確率行列の定常分布によって同定できることも示した.和声分析の精度に関しては経過音への過剰なラベリングなどの課題も明らかになったが,2024年度に予定しているリズム構造の複雑さにも関わる問題であり,これと併せて改善していきたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度に予定していた研究項目である「4声体コラール集に対する自動和声分析」を予定通り実現し,国際会議で発表することができた.また,隠れセミマルコフモデルの学習で得られた和音の根音の遷移確率行列の定常分布が音楽理論に見られる和音の重要度の知見を再現するという,興味深い結果も得た.また,2024年度に予定している「オルガン小曲集に対する自動和声分析」に向けて,国内の研究会で議論するなど準備を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度も研究計画に従って,「オルガン小曲集に対する自動和声分析」を進める予定である.「4声体コラール集に対する自動和声分析」は前年度に実現したが,その中で経過音への過剰なラベリングなどの課題も見出された.オルガン小曲集では4声コラール集よりもリズム構造が複雑であり,経過音を含むさらに多くの非和声音が存在する.そこで,オルガン小曲集に適用可能な自動和声分析を実現するために,リズム構造を考慮して非和声音を認識する仕組みを新たに追加する.このとき,和声進行の法則性については4声体コラールと同様の法則に従うと強く期待できることを利用し,和声分析の部分については4声体コラールで学習済のものを事前分布として用いる予定である.
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