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越境する文学の基本構造:日本各時期の唐詩受容の俯瞰的研究

研究課題

研究課題/領域番号 23K20083
補助金の研究課題番号 20H01239 (2020-2023)
研究種目

基盤研究(B)

配分区分基金 (2024)
補助金 (2020-2023)
応募区分一般
審査区分 小区分02020:中国文学関連
研究機関九州大学

研究代表者

静永 健  九州大学, 人文科学研究院, 教授 (90274406)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2024年度)
配分額 *注記
12,350千円 (直接経費: 9,500千円、間接経費: 2,850千円)
2024年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2020年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
キーワード和漢朗詠集 / 唐詩選 / 白居易 / 唐汝詢 / 目加田誠 / 唐詩 / 平仄構造 / 長恨歌 / 藤原公任 / 出版文化 / 翰苑 / 張楚金 / 吉川幸次郎 / 出版 / 唐詩解 / 杜甫 / 盲目の知識人 / 異文 / 文学とは何か
研究開始時の研究の概要

外国で生まれ、すべてその外国の人々による、その外国の言語で記された文学であるにも関わらず、「唐詩」は、我が国日本の伝統文化の中に長くそして深く関わりをもってきた。本研究課題は、五年間の研究計画に沿い、考察の対象を、(1)奈良~平安初期(8~9世紀)、(2)平安中期~鎌倉南北朝期(10~14世紀)、(3)中世室町~織豊戦国期(15~16世紀)、(4)江戸期(17~19世紀)、(5)近代(20世紀)に分ける。特に近代においては、日中戦争直前の1920~30年代に重点を置き、その当時盛んに行なわれていた日本と中国の学術交流とその成果に注目して考察をすすめる。日本の伝統文化とその学術研究の歴史を探る。

研究実績の概要

本研究は、中国古典文学の精華とも言うべき唐代の詩歌群が、日本に早くからもたらされ、その後も各時代においてさまざまなに特徴的な鑑賞方法が試みられ、我が国の伝統文化の形成に重要な役割を担い続けてきた事実を仔細に検証し、その越境の過程の分析を目的としている。
四年目の今年は、平安時代の『和漢朗詠集』そして江戸時代に流行した明の『唐詩選』、また近代1930年代の学術交流について幾つかの成果を発表した。中でも白居易の名作「長恨歌」について、新資料をもとに独自の見解を発表することができた。
まず『和漢朗詠集』については、昨年度より開始した収録漢詩句(中国・日本双方)の平仄式の分析である。中国の漢詩(唐代に確立された今体詩)には、中国語特有の高低アクセントにもとづく「平仄」があること、中国の古典研究者においてはほぼ自明だが、『和漢朗詠集』収録句についての分析は私が初めてである。今回も研究室の大学院生の教育の一環として、彼らとの共同執筆で公開できた(同書巻上「夏」部)。つぎに明代の『唐詩選』については、昨年来研究を進めている盲目の学者唐汝詢(1565~1659)とその著作『唐詩解』の考察を継続中。今年は清代に石刻版画で複製された唐汝詢ら上海の明清時代の文人肖像画拓本集を入手、その伝記研究やまた後世への影響などの分析を行った。
近代の学術交流については、目加田誠(1904~1994)の戦前期の中国旅行記の翻刻と注釈作業を継続した。また、1933~35の留学中の日記(翻刻は書籍として既刊)についても、新たに判明した事実を補注として公刊した。
白居易「長恨歌」の研究については、5月に東京で研究発表を行い、その後、論文としても掲載が叶った。はやくも国内および海外(中国)の研究者との意見交換が始まっている。これらの研究成果が日本と中国また文学と歴史学など隣接する諸分野の橋渡しとなることを願っている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度の大きな研究成果としては、まず清代の上海で石刻版画のかたちで出版された文人肖像画集『邦彦画像』(折帖形式、1冊)の発見がある。東京の古書店で偶然に発見し、九州大学図書館への納入が叶った。これは明代より清代初期において江南地域(特に上海・蘇州・杭州)で活躍した文人たちの肖像画を模写し出版したものである。唐汝詢のほか、王世貞、帰有光、陳継儒など著名な文人の肖像が含まれている。次年度も継続して図像や画讚などを分析したい。
第二の大きな成果は、白居易(772~846)の代表作「長恨歌」の日本伝来の過程と、その本文異同との関係について、新たな考察を発表できたことである。その重要資料が先の『邦彦画像』でも言及した明代の盲目文人唐汝詢(1565~1659)の唐詩選集『唐詩解』五十巻の存在である。従来「長恨歌」研究において大きな難題となっていたものが、日本の古写本(金沢文庫本白氏文集など)と、中国に伝承されている木版印刷本(宋本・明本、そして清代初期に至るまで)との本文異同である。例えば「長恨歌」の第72句、亡き楊貴妃を偲んで悲しみくれる玄宗の日常を描く場面において、中国木版本(そして現在の一般的な通行本も)では「翡翠の衾寒くして誰と共にか(翡翠衾寒誰与共)」とあるのだが、日本の金沢文庫本『白氏文集』(巻12)や藤原基俊『新撰朗詠集』、藤原定家『文集百首』、そして紫式部『源氏物語』(葵巻)では、「ふるき枕ふるき衾誰と共にか(舊枕故衾誰与共)」となっており、日本と中国の研究者間でこれまでにもさまざまな議論が展開されて来た。中には日本に伝承されるこのような本文は後世の誤写であるとの強硬な説も出されたこともあった。しかし、今回の明代の唐詩選集に「舊枕故衾」系の本文が見つかったことにより、従来には異なる新しい視点から、この「舊枕故衾」系の本文こそがまさしく白居易の原作であることが証明された。

今後の研究の推進方策

いよいよ来年度(2024)は本課題研究の最終年度である。これまでの研究成果をまとめ、学界、および可能であればより多くの一般の方々にも気軽にこの成果を参照してもらえるよう、さまざまな公開のかたちを考えたい。
まず『和漢朗詠集』を中心とする中世の唐詩享受については、従来手薄であった「音声」つまり漢詩句の平仄式からの読解が出来るような新たなテキストの作成(仮題=『音読和漢朗詠集』)を目指したい。このような読書のかたち(日本語として読み下すと同時に、中国語直読で享受する方式)こそが、中世に行われていた本来の唐詩鑑賞方法であると思う。
中国明代の唐詩選集『唐詩解』についても、新たな分析結果を論文として公表し、これも一書にまとめたい。特に、江戸時代の服部南郭『唐詩選国字解』との併読は、是非とも実現させたいと考えている。盲目の文人によってはじめて「言語化」された読書のよろこびや、識字階層の広がり(女子教育、児童教育)についても、かならずや多くの方々に興味を持っていただけることと思う。なお、本年度はまず2篇の研究論文の発表を予定している。
近代の日中学術交流については、この数年間に多くの共同研究が立ち上がってきており、私の開拓した目加田誠の北京留学などは、すでに学界では「既知」のことがらになりつつあるが、これら隣接の共同研究とのさらなるコラボレーションによって、近代の学知の発展過程を、もういちど詳細にたどってゆけるであろう。
最後に白居易「長恨歌」とその日本伝来について。これについては日本の唐詩享受の問題だけでなく、中国国内の、民間伝承としての享受にも分析を開始したい。白居易「長恨歌」は、彼の『文集』中に掲載された決定版の本文と、宴席などで妓女たちに歌い継がれてきた言わば流布版とも言える本文とが併存していたもののように考えられる(少なくともそれは明代の上海まで)。このことを明らかにしたい。

報告書

(4件)
  • 2023 実績報告書
  • 2022 実績報告書
  • 2021 実績報告書
  • 2020 実績報告書
  • 研究成果

    (25件)

すべて 2024 2023 2022 2021 その他

すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 6件) 図書 (1件)

  • [国際共同研究] 北京大学中国語言文学系/復旦大学中国語言文学系/四川大学外国語系(中国)

    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
  • [国際共同研究] 北京大学中国語言文学系/復旦大学中国語言文学系/四川大学外国語系(中国)

    • 関連する報告書
      2022 実績報告書
  • [国際共同研究] 北京大学中国語言文学系/復旦大学中国語言文学系/雲南大学文学院(中国)

    • 関連する報告書
      2021 実績報告書
  • [雑誌論文] 白居易「舊枕故衾誰與共」句の傳播と消滅2024

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 雑誌名

      東方学

      巻: 147 ページ: 59-75

    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 目加田誠『中国旅行日記(1942年)』翻刻注(上)2024

    • 著者名/発表者名
      静永健、稲森雅子
    • 雑誌名

      文学研究

      巻: 121 ページ: 1-48

    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 音読和漢朗詠集漢詩句初稿(巻上、夏)2023

    • 著者名/発表者名
      静永健、汪洋、陳イセン;、張茜、樊致遠、李岳陽、遇イ揚
    • 雑誌名

      中国文学論集

      巻: 52 ページ: 159-165

    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 『目加田誠「北平日記」』補注一則(其二)2023

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 雑誌名

      中国文学論集

      巻: 52 ページ: 166-166

    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 路(みち)が熟するとき2023

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 雑誌名

      TONGXUE

      巻: 66 ページ: 12-13

    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
  • [雑誌論文] 目加田誠『北京旅行日記(1936年)』翻刻注(終)―11月21日~12月24日、付楠本正継宛書簡・書斎対聯2023

    • 著者名/発表者名
      静永健、稲森雅子
    • 雑誌名

      文学研究

      巻: 120 ページ: 1-56

    • 関連する報告書
      2022 実績報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 音読和漢朗詠集漢詩句初稿(巻上、春)2022

    • 著者名/発表者名
      静永健、汪洋、陳イセン、張茜、樊致遠、李岳陽
    • 雑誌名

      中国文学論集

      巻: 51 ページ: 130-149

    • 関連する報告書
      2022 実績報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 明末の異人唐汝詢とその唐詩註釈2022

    • 著者名/発表者名
      静永健
    • 雑誌名

      中国文学報

      巻: 95 ページ: 32-52

    • 関連する報告書
      2022 実績報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 目加田誠『北京旅行日記(1936年)』翻刻注(二)11月2~20日2022

    • 著者名/発表者名
      静永 健・稲森雅子
    • 雑誌名

      文学研究

      巻: 119 ページ: 1-43

    • 関連する報告書
      2021 実績報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 唐詩の微韻2021

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 雑誌名

      中国文学論集

      巻: 50 ページ: 41-59

    • NAID

      40022824806

    • 関連する報告書
      2021 実績報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 日本人は本が好き2021

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 雑誌名

      大野城心のふるさと館開館3周年記念特別展「国宝翰苑の世界」図録

      巻: 1 ページ: 60-63

    • 関連する報告書
      2021 実績報告書
    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 大学一年生に「漢文」を教えることについて2021

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 雑誌名

      基幹教育紀要(九州大学基幹教育院)

      巻: 8 ページ: 111-122

    • 関連する報告書
      2021 実績報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 〈舊枕故衾誰與共〉本文の伝播と消滅2023

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 学会等名
      九州大学中国文学会(第324回中国文芸座談会)
    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] 「旧き枕故き衾誰とともにか」本文の伝播と消滅2023

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 学会等名
      東方学会(第67回国際東方学者会議)
    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 白髪三千丈は何メートル?―漢詩の読み方の基礎講座2023

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 学会等名
      大野城心のふるさと館中国文学講演会
    • 関連する報告書
      2023 実績報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] 盲目の注釈家唐汝詢とその唐詩選集2022

    • 著者名/発表者名
      静永健
    • 学会等名
      朝日カルチャーセンター・九州大学文学部提携講座
    • 関連する報告書
      2022 実績報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] 博多の津と中国文化―金印から最後の遣唐使まで―2022

    • 著者名/発表者名
      静永健
    • 学会等名
      大野城心のふるさと館中国文学講演会
    • 関連する報告書
      2022 実績報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] 唐汝詢と日本2022

    • 著者名/発表者名
      静永健
    • 学会等名
      第321回中国文芸座談会
    • 関連する報告書
      2022 実績報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] 唐詩の微韻について2021

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 学会等名
      九州大学中国文藝座談会(第314回)
    • 関連する報告書
      2021 実績報告書
  • [学会発表] 日本人は本が好き2021

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 学会等名
      大野城心のふるさと館特別展「国宝翰苑の世界」関連古典文学講演会
    • 関連する報告書
      2021 実績報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] 水をたのしみ、山をたのしむ:中国古典の世界2021

    • 著者名/発表者名
      静永 健
    • 学会等名
      大野城心のふるさと館中国古典文学講演会
    • 関連する報告書
      2021 実績報告書
    • 招待講演
  • [図書] 目加田誠北平日記2022

    • 著者名/発表者名
      静永健
    • 総ページ数
      337
    • 出版者
      鳳凰出版社(中国)
    • ISBN
      9787550636217
    • 関連する報告書
      2022 実績報告書

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公開日: 2020-04-28   更新日: 2024-12-25  

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