研究課題/領域番号 |
23K20189
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補助金の研究課題番号 |
20H01733 (2020-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2020-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09070:教育工学関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
稲葉 光行 立命館大学, 政策科学部, 教授 (80309096)
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研究分担者 |
THAWONMAS Ruck 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (50320122)
中村 彰憲 立命館大学, 映像学部, 教授 (70367134)
細井 浩一 立命館大学, 文学部, 授業担当講師 (00268145)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2024年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2021年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2020年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | 状況学習 / 協調学習 / シリアスゲーム / メタバース / 日本文化 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、最新のメタバース技術や仮想空間技術を利用することで、日本文化学習のための新しい手法の提案を目指している。第一の目標は、留学生や研究者と日本人学生・研究者が仮想空間と現実空間を行き来しながら、互いに対話を通じて日本の文化や習慣を学べる協調学習環境を実現することである。第二に、アバターやVR機器を活用して、従来のeラーニングでは難しかった仮想空間での状況学習を可能にするモデルを開発することである。第三の目標は、協調的な遊びやシリアスゲーム、ゲームベースドラーニングを融合させた新しい学びの基盤や学習モデルを策定し、その効果を検証することである。
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研究実績の概要 |
本研究では、日本文化に興味を持つ学習者が、多人数参加型三次元仮想空間(メタバース)を介した対話や協調作業に関わることで、状況に埋め込まれた学習ができる環境の実現を目指している。また本研究では、デザイン実験アプローチに基づく学習実践を通じて、シリアスゲーム、協調的な遊び、ゲームベース学習などの概念を統合した「協調的シリアスゲーム」という学習モデルの確立を目指している。 本研究では、サンドボックス型メタバース環境(SecondLife、Minecraftなど)を用いた協調学習実験に取り組んできた。これらの学習実践では、予め用意されたコンテンツ参照による学びから、学習者による協働的なコンテンツ/空間デザインにも取り組んだ。またこれらの文化的空間を活かした、高齢者介護への援用についても検証を進めるべく仮想空間での複数プレイヤーによる同期技術についても研究を進めた。 学習過程のデータ収集は、オンラインエスノグラフィー、活動ログの自動記録、インタビュー調査によって行った。データ分析の結果、学習者の間には、文化的背景やスキル差による協働への躊躇、協調作業のビジョンの創発的形成、そのビジョンに適した自らの役割調整、個別的なコンテンツ/空間デザイン試行、さらにそれらの全体での共有・再編集、といった変遷が観察された。これはいわば多主体複雑系(ポリエージェントシステム)としての学習共同体の形成過程であり、物理的な制約が少なく、活動の自由度が高いメタバースならではの現象である。 このように本研究では、メタバースを媒介とした創発的・協働的な学習が、文化や習慣などの複雑な現象への深い理解に向かう新たな活動を生み出す可能性が示された。引き続き、メタバースの特徴を生かした新たな協調学習/状況学習モデルの確立を目指して研究を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、メタバースを媒介とした日本文化学習環境の実現と「協調的シリアスゲーム」という学習モデルの確立を目指して進めてきた。 本研究の初年度は、仮想空間による文化学習の基盤となる技術・手法の調査研究を行った。具体的には、(1) AI技術を用いた仮想空間の自動生成、(2) VRヘッドセット等を用いた仮想展示のUI研究、(3) サンドボックス型仮想空間を用いた協調的なコンテンツ構築実験に取り組んだ。 2年度は、学習者がクイズやコンテンツを制作し、自発的で探索的な学びを促す学習実践に取り組んだ。これは日中韓の学部生・大学院生、日本語教師、高校生有志、韓国の児童生徒の協力を得て実施した。 3年度は、同様の協力体制で、インタラクティブ性を持ったゲームコンテンツを学習者同士の対話や協調作業でデザイン・実装する「デザイン実験アプローチ」に基づく学習実験を行った。その結果、知識やコンテンツを共有し、参加者が教え合う「自律的・分散的な協働学習」が見出された。さらに、市民を対象とした学習環境の公開展示を4回行い、多様な世代からフィードバックを得た。 4年度は、学部生・大学院生、高校生有志、日本語教育者・研究者の協力を得て「デザイン実験アプローチ」に基づく学習実験を継続した。成果の実用化に向け、国内発のメタバースプラットフォームClusterを用いて日本語教育学会でオンラインワークショップを開催した。バーチャル茶室で茶道の作法を学ぶタスクを用意し、Zoomのブレークアウトセッションでデブリーフィングを行った。技術的・環境的ハードルがある一方で、雑談力の向上、恥ずかしさや不安の軽減、新たな自分の発見、就職支援の場での活用などのメリットが報告された。 研究最終年度に向け、汎用性を目指した研究者・教育者向けワークショップを実施し、一定の評価を得たことから「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度は、研究4年度に実施した日本語教育学会でのワークショップで試みたように、本研究で構築してきたメタバースにおける状況学習の環境・モデルの汎用性を高めるため、学習実践とデブリーフィングを繰り返すことで、学習プロセスの評価基準に関する検討を行う。また、学習実践を通して、メタバースを用いた状況学習のためのルーブリック作成など、学習プロセスの評価手法の研究に取り組む。また、多様な世代の方々が参加するイベントなどで公開展示を行っていく。 さらに、ルーブリック策定のような一定の段階性を持った学習評価の枠組みに加えて、これまでのデザインベース学習の実験で観察された、個別の学習者による自律分散的で拡張的な学習の評価基準の策定にも引き続き取り組む。このような自律分散的な拡張学習は、獲得される知識やスキルをゴールとして設定することが困難であることから、本研究では、学習科学における「活動理論」の中で、特にエンゲストロームが提案する「拡張的学習」の枠組みを手がかりとして、分析単位の活動システム、多声性、矛盾、拡張的サイクル、といった視点から、メタバースにおける文化学習のダイナミズムを把握・評価し、さらに新たな学習環境をデザインしていくための手法の確立に取り組んで行く予定である。 さらに、これまでの研究成果を基に、メタバースを用いた教育手法の実践的なガイドラインを策定し、教育現場での応用を支援する。さらに、研究成果を論文や学会発表などを通じて広く発信し、他の研究者や教育者との連携を図ることで、メタバースを活用した新しい教育の可能性を探求していく予定である。これらの取り組みを通じて、メタバースを活用した教育の新しい可能性を切り開くことを目指し、今後の教育の在り方に貢献していきたいと考えている。
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