研究課題/領域番号 |
23K20191
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補助金の研究課題番号 |
20H01750 (2020-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2020-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09080:科学教育関連
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研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
江森 英世 大谷大学, 教育学部, 教授 (90267526)
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研究分担者 |
森本 明 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (60289791)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 数学的コミュニケーション / 聴覚障害児教育 / 数学教育 / 認知ー非認知的能力 / 創発 / 認知的-非認知的能力 / 認知的―非認知的能力 / 認知-非認知的能力 |
研究開始時の研究の概要 |
問題解決の過程において、問題解決者は、自らが所有している知識や経験に依存した思考を行うことにより、無意識のうちに循環型の思考に落ち込むことがある。こうした循環型の連鎖を断ち切る役目を果たすのが、他者からの刺激を受けること、そしてある刺激に意識を鋭敏化させ、また、別の刺激には無関心になるという選択的知覚の鋭敏化である。そして、この過程には経験的直観が重要な役割を担っている。本年度の研究は、こうした経験的直観を「見えないものを見る力」として、認知的かつ非認知的思考プロセスの要素とそれらの相補性を踏まえ、コミュニケーション能力の一部として測定する方法を開発する。
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研究実績の概要 |
問題解決の過程において、問題解決者は、自らが所有している知識や経験に依存した思考を行うことにより、無意識のうちに循環型の思考に落ち込むことがある。こうした循環型の連鎖を断ち切る役目を果たすのが、他者からの刺激を受けること、そしてある刺激に意識を鋭敏化させ、また、別の刺激には無関心になるという選択的知覚の鋭敏化がなされる。この過程には経験的直観が重要な役割を担っている。2023年度の研究では、こうした経験的直観を「見えないものを見る力」として、認知的かつ非認知的思考プロセスの要素とそれらの相補性を踏まえ、コミュニケーション能力の一部として測定する方法を開発した。 選択的に知覚するためには、自身が所有する知識がまずは対象を照らし出すことが必要となる。それゆえ、見える人には見えるのに、見えない人には見えないという現象は、その対象に対する知識の有無で説明することが可能となる。そもそも選択的知覚が可能となるためには、「知識によって照らし出された対象」が目の前に現出してこなければならない。知識によって照らし出された対象への認識が、まさにこれまで私たちが強調してきた選択的知覚を生み出していたと言える。そして、「知識によって照らし出された対象」は、「その対象を照らし出す知識」により、さらに深く解釈される。 私たちの視覚作用は、まず、外在する図に向かう、こうした学習経験が不正確な図を数学的に抽象化された図形と見ることを可能にする。学習者は、正六角形という未知なる図をかき出し、正n角形というものが、正五角形までで止まることなく、さらにその範疇を拡大していくだろうことを予測する。こうした概念の拡大、つまり、その概念が含む対象を広げていくという行為が、「認識の作用の結果として、対象が知られる。すなわち、対象に所知性という性質が生じるので、認識作用はその所知性に基づいて推理される」と言うことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
選択的知覚に関する研究では、視覚の対象は眼前に存在していた。見えないものを見るということと選択的知覚との関係について、2023年度の研究では、仏教知識論と西洋哲学をベースとして発展してきた認識論との統合という理論的な研究をもとにして、事例の分析を踏まえながら考察を行ってきた。 研究課題を解決するために、2023年度の研究では、無形象知識論と有形象知識論という2つの仏教知識論を用いた折衷的な研究方法論を構築した。本研究で用いた無形象知識論とは、外界の認識は心に印象づけられたイメージからは生じないという教義である。有形象知識論とは、観念は外界とは無関係に存在する形やイメージからなるという教義である。本研究では、数学の問題解決過程において、見えないものを見ることを通して得られた新しい認識を問題の解決にどのように活かしているかという考察を通して、無形象知識論と有形象知識論に基づく認識論を構築した。こうした仏教知識論に基づく理論研究には、仏教古典籍に関する研究を踏まえる必要があったが、代表者が勤務する大谷大学には、仏教知識論に関する文献も、また、学内には、具体的な指導を得る環境も揃っているため、予定していた理論研究を予定通りに行うことができた。 また、今年度は、コロナの影響で中止していたタイへの研究出張もできて、久しぶりに海外の研究者(例えば、タイ王国コンケン大学のMaitree Inprasitha副学長や香港大学のNgai Ying WONG 名誉教授:仏教知識論と数学教育の専門家)との研究活動も再開することができた。事例の収集は、福島大学森本明教授の協力を得て、福島県内の学校で行うことができた。以上の理由から、2023年度の研究の報告として、「当初の計画以上に進展した」と自己評価を行うことにする。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度までの研究では、「反省的思考と反照的思考に見られる認識作用の向きの違いは、対象と学習者の所有する知識との間に生じる認識過程として、いかに説明することが可能か」という問題に対して、無形象知識論と有形象知識論という仏教知識論を研究方法論として、事例の分析と考察を行ってきた。数学の問題解決では、図に表現されていない補助線のようなものを想起できるか、あるいは、そうした見えない線を意識的に見ることができるかが、問題解決の成否の鍵を握ることがある。過去4年間の研究では、健聴児ならびに聴覚障害児の認知と非認知の様々なプロセスとそれらの相補性を踏まえた数学的コミュニケーション能力を捉え測定する方法として、「見えないものを見る力」という指標が有効であることが示された。 コミュニケーションの創発性に関する従来の研究では、「たぶん、~だろう」という蓋然的推論が新しいアイデアを生み出す原動力となると考えられてきた。こうした研究の成果は、本研究で追求してきた「見えないものを見る力」の認知的かつ非認知的プロセスの解明にも役立てられることが示された。厳密性をある程度無視した蓋然的推論がなければ、自分にとって未知の新たな体験となる視点が提供されるわけではない。その意味で、見えないものを見るということは、自身が所有する知識や経験を用いた推論が、さまざまな角度から行われる必要がある。そうした推論からもたらされる予想や予期、このように見えれば問題が解決されるかもしれないという思い、そして、自身の推論を受け入れて、具体的にそれを検証しようとする非認知的な能力が求められる。 最終年度となる2024年度の研究では、過去4年間の研究の成果をもとに、見えないものを見る力の非認知的能力の測定という研究課題に限定して、最終年として研究を総括する。
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