研究課題
基盤研究(B)
海洋地殻とマントルに海水がどれくらい深く浸透し,どれくらいの量の水が岩石中に蓄えられるのか,また沈み込んだスラブからマントルウェッジにどれくらいの水が浸透するのか,その実態を明らかにするために,オマーンオフィオライトのマントルセクションから採取されたかんらん岩を対象に,変質鉱物の形成過程および環境を明らかにする。鏡下観察および電子顕微鏡を用いた組成解析,ラマン分光を用いた変質鉱物の同定,熱力学的解析および安定同位体組成に基づき,マントルかんらん岩に含まれる変質鉱物の形成過程を明らかにするとともに,マントルへの水の浸透の実態を解明する。
海洋地殻とマントルに水がどれくらい深く浸透し,どれくらいの量が地下深部の岩石中に蓄えられるのか,その実態を明らかにすることを最終目的に本研究課題を実施中である。オマーンオフィオライトは,1億年前の拡大海嶺で生じた海洋プレートが形成まもなく沈み込むプレート上に衝上して形成された海洋プレートの化石である。オマーンオフィオライトのマントルセクションは,広域にわたり様々な程度に蛇紋岩化作用を被っているため,本研究はその中でも比較的加水反応による変質の影響の軽微な岩石を利用し,最上部マントルの蛇紋岩化の履歴と規模を明らかにしつつある。三年目に当たる2022年度は,Covid-19感染症のために実施できないでいたオマーンオフィオライトの現地調査を2023年2月から3月にかけて実質八日間行うことができた。これまで岩石薄片を用いて行った偏光顕微鏡観察,SEM-EDSを用いた反射像観察と組成分析,レーザーラマン分光分析計を用いた鉱物種の同定の結果に基づき,高温型の蛇紋石であるアンチゴライトが多く産出する地点を中心に,オマーンオフィオライトのマントルセクションのかんらん岩の地質調査を行った。その結果,ブロック状に割れたかんらん岩に沿ってトレモラ閃石の幅数ミリから1cm程度の脈が普遍的に存在することを確認した。トレモラ閃石の形成条件を検討するとともに,アンチゴライト脈との関係を明らかにすることが望まれる。また,偏光顕微鏡観察およびSEM-EDSを用いた反射像観察により,Feに富むかんらん石の脈が,通常のかんらん石中に不規則に存在することが明らかになり,高温時のアンチゴライト形成時に,Feの拡散によって生じた可能性が明らかになった。一方,アンチゴライトが低温型のリザダイトのメッシュ組織を切断しているところもあり,低温でのシリカに富む流体との反応で形成したアンチゴライトの存在も明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
オマーンオフィオライトのサラヒ岩体マントルセクションの地質調査を2023年2月から3月にかけて実質8日間行った。これまでの岩石薄片の観察によって明らかになったアンチゴライトを多く含むかんらん岩の産状について現地で確認することができた。剥片よりもマクロな産状を確認することで,アンチゴライトを含むかんらん岩を取り巻く,より規模の大きなトレモラ閃石の変質脈の存在が明らかになった。それにより,最上部マントルの蛇紋岩化の履歴と規模の実態をより詳しく明らかにするための新たなデータが得られた。昨年度に引き続き,オマーンオフィオライトのマントルセクションのかんらん岩の薄片の偏光顕微鏡下観察とEPMAおよびSEM-EDSを用いた定量分析,反射電子像観察および元素濃度のマッピングを継続して行った。さらにラマン分光高度計を用いた変質鉱物の同定も行った。また,オマーンオフィオライトとの比較を行うために,北海道幌満かんらん岩の地質調査を行い,蛇紋岩化の程度の低いかんらん岩の観察と採取を実施した。既存の岩石の観察と記載による変質鉱物の同定と産状の記載は順調に進んでおり,今後は水の浸透が海水の熱水循環によるものか,衝上の過程で沈み込んだプレートから放出された水の下からの浸透の可能性についても検討も進めていく必要がある。
オマーンオフィオライトのマントルセクションにおける変質鉱物の種類と産状をマクロなスケールおよびミクロなスケールである程度明らかにすることができつつあるので,今後は,今年度のオマーンオフィオライトと幌満かんらん岩の調査で採取した試料を用いて,変質脈の空間的な分布を明らかにしていく予定である。同時に,未実施の以下の課題にも取り組む。(1) EBSDによる変質鉱物のファブリック解析を行い,蛇紋石の結晶方位の特徴を検討する。(2) Perple_XやSUPCRTなどのソフトウェアを使った熱力学的解析により,変質鉱物の形成環境と温度圧力を推定する。(3) 蛇紋岩の酸素,炭素,水素,鉛の各安定同位体組成分析を測定し,蛇紋岩を形成した水の起源を明らかにする。その際に,海洋マントルの深さ方向(地殻-マントル境界から最下部の基底スラストまで)および海嶺セグメントの中心から末端にかけて三次元的な空間の中で蛇紋岩の存在形態と形成履歴を把握する。また,海洋マントルの加水作用の時間変遷を明らかにするため,さまざまな程度に蛇紋岩化の進んだかんらん岩の比較検討にも取り組む予定である。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (55件) (うち国際共著 44件、 査読あり 52件、 オープンアクセス 32件) 学会発表 (61件) (うち国際学会 18件、 招待講演 6件)
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