研究課題/領域番号 |
23K20327
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補助金の研究課題番号 |
20H03777 (2020-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2020-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55050:麻酔科学関連
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
古賀 浩平 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (50768455)
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研究分担者 |
内田 仁司 新潟大学, 脳研究所, 助教 (30549621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2020年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
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キーワード | 慢性疼痛 / 不安 / 前帯状回 / 持続痛 / シナプス可塑性 / 疼痛 |
研究開始時の研究の概要 |
慢性疼痛は不安やうつなど負の情動を形成することが臨床で問題になっている。しかし、急性痛が慢性疼痛に発達していく仕組みは不明である。これまで、前帯状回の興奮性シナプス前終末の長期増強が、慢性疼痛で起こる不安のシナプス可塑性であることを同定した。さらに、後期ではシナプス可塑性の仕組みが異なる予備実験から、痛みが後期へ移行するシナプス可塑性を明らかにすることが慢性化の解明に重要である。本研究では、慢性期の発達時期におけるシナプス可塑性のメカニズムを明らかにする。本研究により、疼痛の発達に伴う特異的なシナプス可塑性の機構が明らかとなり、慢性化を予防する新たな治療法の確立につながる。
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研究実績の概要 |
急性侵害刺激は、外的及び内的環境の変化を伝える危険信号として生体に重要な感覚であるが、侵害刺激が生体に持続的に加えられると、持続痛へと発達していく。痛みの持続化の特徴として、不快感など負の情動の形成がある。持続痛は、身体的要因と心因的要因の両要因が複雑かつ相互に影響を及ぼし合うと考えられているが、身体的要因と心因的要因を司るシナプス伝達機構や神経回路は不明である。 本研究では、この急性から持続痛に発達する時の持続痛初期と後期に着目し、持続痛に発達する時の神経基盤を調べている。 我々は、この持続痛を構成する身体的及び心因的要因の両要因に重要な前帯状回領域に着目し、持続痛モデルマウスの初期(1-2日)と後期(3-4週)におけるシナプス伝達の異常を解析した。電気生理学的手法と光遺伝学的手法を組み合わせて、前帯状回に投射する選択的なシナプス伝達が可塑的変化を示すか調べた。炎症性モデルマウスを作製し持続痛の初期と後期のそれぞれの時期で、前帯状回を含む脳スライス標本を作製した。前帯状回は、我々がCUBIC法でこれまでに明らかにしている視床ー前帯状回の投射以外にも痛みに関連する複数の脳領域から投射を受けてシナプスを形成している。従って、視床ー前帯状回とその他の領域ー前帯状回シナプスが持続痛もモデルの初期と後期で可塑的な変化を示すか比較検討した。次に、持続痛の初期に前帯状回で増加するターゲット因子の同定を行った。さらに、この標的分子マーカーの下流である受容体を前帯状回で阻害した時に炎症性マウスによる感覚過敏や嫌悪行動が緩和できるかについて行動薬理学的手法を用いて経時的および経日的に調べた。本年度は、炎症性モデルで発現が増加する分子マーカーの上流を電気生理学的および分子生物学的に調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの左後肢にComplete Freund's adjuvantを投与して炎症性モデルを作製した。炎症マウスの初期と後期において、前帯状回に投射する選択的なシナプス伝達がいかなる可塑性を示すか光遺伝学と電気生理学的手法を組み合わせて調べた。前帯状回に投射する視床と他の脳領域2つにそれぞれAAV-synapsinI-ChR2-eYFPを局所投与してウイルスを感染させた後、前帯状回を含む脳スライス標本を作製した。前帯状回の第II/III層の錐体細胞から記録を行い、それぞれの投射選択的なシナプス伝達を調べると、視床ー前帯状回と領域Bー前帯状回は持続痛の初期と後期で強いシナプス可塑性を示した。一方、領域Cー前帯状回は持続痛の初期と後期で正常であった。 次に、持続痛の初期に前帯状回で増加するターゲット因子の同定をマイクロアレイ法を用いて調べた結果、いくつかの候補因子が増加した。1つの因子である脂質に着目し、脂質の産生が炎症モデルの前後で増加するかを経日的に調べると、脂質は炎症初期をピークに経日的に減少していく初期因子であった。さらに、この脂質に関連する受容体を前帯状回で薬理学的に阻害すると、炎症モデルの疼痛関連行動(感覚過敏と嫌悪行動)が緩和できるか調べた。炎症初期に示す感覚過敏と嫌悪行動は、脂質に関連する受容体の阻害薬を前帯状回に局所投与することで緩和された。また、浸透圧ポンプを用いて、受容体阻害薬を前帯状回に持続投与すると、疼痛関連行動は正常状態に近い状態を維持した。現在は、脂質を増加させる上流と脂質が増加した後の下流のメカニズムについて分子生物学的および電気生理学的に調べている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、急性痛から持続痛に発達する時の疼痛初期と後期の着目して、持続痛の発達に伴うシナプス可塑性と分子ターゲットの神経基盤を明らかにすることを目的にしている。 これまでに、以下の結果を得ている。1.前帯状回に投射する領域特異的な興奮性シナプス伝達が炎症性モデルマウスの初期と後期でシナプス可塑性を示すことが明らかとなった。2.持続痛の初期に前帯状回で増加するターゲット因子の同定をマイクロアレイ法を用いて調べた結果、脂質が炎症マウスの初期で増加していることが明らかとなった。3.脂質に関連する受容体の発現部位についても電子顕微鏡を用いて明らかにした。4.脂質が炎症モデル初期の前帯状回においてどのようなメカニズムで増加するか、特に脂質を増加させる上流と増加した脂質の下流シグナルについて、分子生物学的手法を用いて調べた結果、興奮性シナプス伝達に関わる受容体を活性化すると、脂質が増加する可能性を明らかにしている。 今後はどのシナプス伝達がこの脂質の増加に関わるかの投射選択的なシナプス伝達を光遺伝学と電気生理学的手法を組み合わせて明らかにする。これらの仕組みを明らかにして来年度は論文を作成する予定である。
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