研究課題/領域番号 |
23K20439
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補助金の研究課題番号 |
21H00496 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
石原 友明 京都市立芸術大学, 芸術資源研究センター, 客員研究員 (60315926)
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研究分担者 |
建畠 晢 多摩美術大学, その他, 特定研究員 (50125217)
佐藤 知久 京都市立芸術大学, 芸術資源研究センター, 教授 (70388213)
砂山 太一 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 講師 (50750460)
石谷 治寛 広島市立大学, 国際学部, 准教授 (70411311)
藤岡 洋 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特定研究員 (80723014)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2025年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2024年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2021年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
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キーワード | 芸術資源 / 分散型アーカイブ / ブロックチェーン / 分散型 / デジタル・アーカイブ / 自律分散型 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、芸術資源のアーカイブに関し、近年実装されつつあるブロックチェーン技術をはじめとした分散型ネットワークに関する知見を活用し、中央集権的・集中管理的ではないデジタル・アーカイブのモデル(分散型芸術資源アーカイブ)の構築を目指すものである。従来のアーカイブは、特定機関による資料の集中管理モデルであり、保管できる資料の量に限界があると同時に、資料への一元的な権威的価値づけが回避できないという問題があった。本研究は、こうした問題意識にもとづいて、芸術学・アーカイブズ学等の研究者による国際的研究連携体制を構築し、理論構築と実装実験を通じて、分散型芸術資源アーカイブの可能性と有用性を検証する。
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研究実績の概要 |
研究3年目となる本年度は、前年度と同様、ブロックチェーン技術等の分散型技術を活用した芸術資源アーカイブに関する研究を、課題A: 研究ネットワークの構築と理論的研究、課題B: 実装のための技術的検討と実験、課題C: 分散型アーカイブの維持・運用・活用のための人的・組織的なエコシステムの構築に関する実践的研究、という3つのアプローチから行った。 課題Aについては、多摩美術大学アート・アーカイヴセンター、ブリティッシュ・コロンビア大学Blockchain@UBCなど、国内外の先端的な研究者たちとの交流を進め、①現代のコモンズ(とりわけ知識コモンズ)に関する実証的研究が本研究にとっての重要な理論的指針となること、②ブロックチェーン技術とアーカイブの関係は単に技術的・システム的なものではなく「socio-technical」(V. Lemieux)な現象であり、技術的検討に加えて実際の運用状況に関する社会学・人類学的研究を並行させるべきであること、といった重要な理論的視座を得ることができた。 課題Bについては、分散型芸術資源アーカイブの初期モデルにおいては「分散型 distributed モデル」よりむしろ「非中央集権型 decentralized モデル」から試行を開始すべきという視点を得たが、残念ながら具体的な実装のための設計には至っていない。 課題Cについては、①京都市立芸術大学沓掛キャンパス(2023年で利用終了)に関する記憶の収集と共有、②総合基礎実技(1971年から本学で行っている美術学部1回生向け課題)資料の再整理と活用法の検討、という二つの実践を継続し、人的組織化の方法についての検討を進めた。 以上を通じて本年度は、具体的な芸術資源アーカイブの整備を行い、その分散的共有に向けた理論的・技術的知見を得るとともに、今後の共同研究の可能性をさらに広げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題Aに関しては、国内外の研究者とのネットワーク構築を進めることができ、かつ本研究全体に関する理論的知見においても前進が見られており、どちらもおおよそ順調に推移していると言える。 課題Bの技術的実験については、やや遅れが生じている。本研究では、分散型芸術資源アーカイブの具体的なシステム設計について、当該領域の現場で働く技術者・開発者の協力を得ることを想定していた。だが一般社会におけるブロックチェーンやAIの進歩が当初の予想を上回り多くの開発者が現場に駆り出された結果、開発者の外注が予算的に困難となり、プロトタイピングに向けた技術的実験が予想通りには進んでいない。 また課題Cのうち、まず沓掛キャンパスのプロジェクトについては、個々人の記憶を分散的に収集する段階がひと段落し、今後の長期的な活用に向けた方途を探るフェーズに移行している。総合基礎実技アーカイブについては、資料の再整理を50年分進め、分散的に活用されうるひとまとまりの芸術資源アーカイブとしての整備を進めた。 以上から、研究全体としては理論的展望に進展が見られ、実際の芸術資源アーカイブについても活用のための準備が進んでいるものの、技術的にこれらを実現する方法にやや遅れが見られている。しかしながら、ファイルの共有法としてIPFSを使いながら、個々の情報の来歴をブロックチェーン技術等を記録する仕組みの構築に取り組むという方向性は得られており、この試験的実装に向けて注力していく段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以後は、研究の総括に向けた大きな方針として、技術的課題と組織的課題というふたつの柱をもとに研究を進めていく。 具体的には、「芸術大学」という場自体をひとつの大きな「共有資源アーカイブ」として捉え、複数の学部や専攻ごとに活用されてきた基礎課題の内容を、分散的に維持しつつ共有するための方途を検討していく。 芸術大学における基礎課題は、それをもとにさまざまな作品が創造されていく一種の「楽譜」であると同時に、複数の教員や学生によって長い時間を通じて練り上げられ蓄積されてきたという点で、アーカイブ的・共有資源的な性質をそもそも持っている。しかしながら実際には、これらの芸術資源は個々の学科ごとに、その専門性のなかで活用されることがほとんどである。そこで次年度は、これら個別・ローカルに蓄積・管理されてきた資源を、技術的には複数の仮想OSをVPNで結び、ローカルなIPFS環境を構築することによって、分散性を保ちつつ共有することを検討している。 上記の実験・実践的研究においては、socio-technicalな観点からの、分散型芸術資源アーカイブの具体的な運用時における課題の抽出も予定している。コモンズ研究や他のアーカイブ学的研究を参照しながら、学科ごとに保持されてきたローカルコモンズである芸術資源を、学科やさらには大学という枠組みを超えて、デジタル技術を介したコモンズとして共有資源化することによって、時間的・空間的に異なる創造的活動を共有するためのモデルとなることも予想される。 以上の研究から得られた成果は、公開研究会のほか、さまざまな媒体を通じて発表し、本研究を通じて構築されつつある研究者・実践者のネットワークにおいても共有・再検討していく予定である。
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