研究課題/領域番号 |
23K20490
|
補助金の研究課題番号 |
21H00561 (2021-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03010:史学一般関連
|
研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
安村 直己 青山学院大学, 文学部, 教授 (30239777)
|
研究分担者 |
稲垣 春樹 青山学院大学, 文学部, 准教授 (00796485)
細川 道久 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (20209240)
横山 和加子 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 名誉教授 (30265946)
岡本 真希子 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (30298111)
佐々木 洋子 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (30332480)
西山 暁義 共立女子大学, 国際学部, 教授 (80348606)
小俣ラポー 日登美 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (90835810)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
14,430千円 (直接経費: 11,100千円、間接経費: 3,330千円)
2024年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
|
キーワード | トランスカルチュレーション / 帝国 / 植民地 / キリスト教布教 / 近世・近代転換期 / キリスト教の布教 / 異文化理解 / 植民地主義 / ナショナリズム |
研究開始時の研究の概要 |
本科研では近世スペイン帝国の本国と植民地のあいだでの文化的相互関係を出発点としてトランスカルチュレーション事象の原型を析出したうえで、スペイン帝国の場合とは支配、被支配の関係性が異なるハプスブルク帝国におけるウィーンと非ドイツ語圏諸地域、ローマ・カトリック教会と殉教の地たる日本、イギリスによるインド支配とカナダ統治、ドイツ帝国における中心と周縁、日本と植民地台湾の諸事例に即し、トランスカルチュレーションを歴史的概念として確立するうえでの座標軸を見出すことを目指している。
|
研究実績の概要 |
2023年7月15日、8月24日、12月27日、2024年3月16日に研究会を実施した。報告者は安村直己、横山和加子、佐々木洋子、安村直己であり、横山の報告に対しては外部の和田杏子を招き、コメントしてもらった。報告題目は「大西洋世界と翻訳をめぐるポリフォニー」、「マルティン・コルテスの反乱謀議(1566年)とメキシコ市参事会」、「19世紀オーストリア・ハプスブルク帝国の諸相にみるトランスカルチュレーション」、「東アジア世界、太平洋世界のなかの出雲、石見」である。安村報告が今後2年の研究展開に関して指針を示すものだったのに対し、続く2本は帝国の周縁におけるトランスカルチュレーション事象を具体的に解明するものだった。 3月16日には出雲大社とその周辺、17日に石見銀山とその周辺、18日に温泉津、沖泊、鞆ヶ浦等をめぐり、現地調査を進めた。出雲、石見が東アジア世界におけるトランスカルチュレーションの結節点を成していたと同時に、フィリピンのマニラを通じてスペイン領アメリカ植民地との大西洋規模でのトランスカルチュレーション・ネットワークと接続していた可能性を探ることができた。上述の4本目の報告は、日本中世史家の鹿毛敏夫の提唱したサルファー大名からシルバー大名への転換を意識したものだが、報告内容と現地調査は想定以上に連動していることを実感できた。 なお、稲垣春樹は2023年8月3日から19日までイギリスに出張した。2024年3月2日、日本植民地研究会での報告では、イギリスの文書館での調査を反映させることで、日本の植民地統治とイギリスによるインド統治の比較の枠組みをアップデートする方向性を示した。他方で小俣日登美は、テキスト・マイニングによってトランスカルチュレーションの隠れた様相に迫る可能性を探った。 今後二年間のトランスカルチュレーション研究のさらなる展開へとつながる1年間であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者、分担者による報告、討論は順調に進んできた。残りは1名である。その結果、プロジェクト参加者による相互理解、および時代、地域を越えてのトランスカルチュレーションの共通性、地域ごとの差異、時代による変化などの共通認識が深まった。 たとえば、ハプスブルク帝国のように支配地域がほぼヨーロッパ地域に限られていた場合、ドイツ帝国のように非ヨーロッパ地域の領有が短期間にとどまった場合、宗主国からの植民地の独立が漸進的に進んだ場合、スペイン領アメリカ植民地のように領有から半世紀も絶たないうちに宗主国からの独立を目指す動きが顕在化した場合など、比較研究を進めるための事例の収集を進めた。 他方で、顕在化しにくいトランスカルチュレーション事例を炙り出すための手法として、一次史料を精読する古典的な手法が地域、時代によって異なることを確認したのに加え、デジタル・ヒューマニティーズの手法をどう古典的な精読と組み合わせるべきかという新たな観点を共有するにいたった。 国内での合同調査は2回実施したが、京都市、茨木市と出雲、石見とでは、中世末期、近世初期と時代が重なっていてもトランスカルチュレーションの様相に相違点を確認できた。京都でも東アジア世界との接続の痕跡を万福寺で調査できた一方で、出雲、石見で確認できた接続の在り方はより広汎におよび、かつ持続的なものであった。 また、代表者、分担者はいずれも個別研究のかたちで成果を刊行しつつある。それらは、前記の小俣論文にようにトランスカルチュレーションに迫るための新たな手法を探るものから、安村直己「大西洋世界と翻訳をめぐるポリフォニー」のように同一地域を6世紀におよぶ長期の視点から捉えることで新たな視点を探るもの、個別地域の事例のミクロな分析まで多岐にわたる。 まとめると、本研究はおおむね順調に進んでおり、研究成果を総括する段階へと入りつつあると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度も国内合同調査、合宿を実施する。調査地としては、九州北部のキリシタン大名旧領、近世・近代転換期の東北ないし北海道を考えている。前者が安土桃山時代における西欧諸国との交流に焦点をあてるのに対し、後者は北東アジア世界と太平洋世界の接続によるトランスカルチュレーションの変容に光をあてるものとなろう。 研究会は3,4回の開催を予定している。岡本真希子による日本統治下の台湾をめぐる報告を中心とする研究会に加え、これまでは実施できなかった、外部研究者による報告も設定したい。昨今の円安により、海外調査は難しくなっているが、可能であれば2名程度を派遣する。 2024年度は最終年度でもあり、研究成果を全体としてどう公刊するかに関し、討論を通じて方針を決定する。本プロジェクトは、平田雅博を代表者とする科研を批判的に継承するかたちでスタートしたが、それと同様に、本プロジェクトが可能性を開いたが本格的に検討するにはいたらなかった問題群に関し、それらをどう新たなプロジェクトにつなげていくのかも、本年度の検討課題とする。研究会では適宜、これらについて議論をおこなうものとする。 昨今の円高は海外調査の実施を難しくしているが、可能であれば2名を派遣したい。 なお、研究成果を全体として公刊するからといって、代表者、分担者が個別に成果を公刊することを排除したりはしない。むしろ、全体像を提示するのと並行して、個別の事例に関する分析を深め、公刊することは、トランスカルチュレーション研究の広がりと深みを浮き彫りにする作用をもっており、相互補完的な効果を期待できると考えている。 このような方針のもと、本年度は研究を推進する。
|