研究課題/領域番号 |
23K20493
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補助金の研究課題番号 |
21H00564 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
石居 人也 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (20635776)
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研究分担者 |
阿部 安成 滋賀大学, 経済学系, 教授 (10272775)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 日本史 / ハンセン病 / 療養所 / 寄せ場 / 老い / 近現代史 / 生 / 伝染病/感染症 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、近代の日本において社会をその周縁ないし底辺から「支え」、近年その終焉がみすえられつつあるふたつの場、ハンセン病の療養所と日雇労働者の街(寄せ場・ドヤ街)に着目して、「老い」ゆく場と人びとの生の軌跡をとらえるとともに、その表象のあり方について考察し、やがて失われるであろう場と人びとの生の軌跡の歴史化を構想する。具体的には、大島青松園・沖縄愛楽園や山谷をおもなフィールドとして、人びとが自らの生きてきた場の「老い」や自身および身近な者の生・老・病・死をどのようにとらえ、むきあってきたのかを跡づける。それをとおして、「老い」ゆく場とそこに生きる人びとの生から、近代の日本社会をとらえなおす。
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研究実績の概要 |
本研究の3年目にあたる2023年度は、政府・所属研究機関・調査先それぞれの感染症対策の指針にしたがって、研究計画を随時修正しながら研究を進めた。 具体的には、既撮影の歴史資料(史料)や文献などを活用するとともに、沖縄県立図書館・岡山県立図書館・国立ハンセン病資料館などでの調査や、沖縄での踏査、オンラインミーティングツールを用いた打ちあわせ・研究会などを実施しながら研究を進め、その成果の一端を発表した。加えて、韓国・台湾や長野でも調査をおこない、「老い」ゆく場の問題を、より広い視座で捉える方向へと舵をきった。おもな成果として、以下の3点をあげることができる。 1点目は、沖縄愛楽園の創設に大きな役割を果たした青木恵哉と愛楽園の草創期について考察する共著に関して、昨年度に決断した軌道修正にもとづいて調査・踏査を進めたことである。あらたな内容・構成をふまえて、那覇・名護両市内の史料保存・利用機関での調査や、那覇市内・本部半島周辺での踏査をおこなうなど、質の高い作品の完成を目指して、作業を続けている。 2点目は、私立のハンセン病療養所「回春病院」の系譜をひく、リデル、ライト両女史記念館(熊本県)で開催されることになった「青木恵哉展―青木がリデルとライトに出会って100年―」(2024年4月20日~)の準備に協力したことである。具体的な成果は、2024年度に、展示というかたちであらわれる。 3点目は、台湾(新北市・桃園市)にある、日本統治期に設けられた、かつてのハンセン病療養所「楽生療養院」(現在は同名の総合医療機関)の踏査をおこなったことである。同院の療養所時代の建物は現在、保存をめぐる議論と併行して工事が進められている。これは、近い将来、日本の療養所が直面する事態であるのは確実で、「老い」ゆく場をめぐる議論のひとつの焦点でもある。2024年度以降も、調査を続ける予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度も、政府・所属研究機関・調査先それぞれの感染症対策の指針にしたがって、研究計画を随時修正しながら研究を進めることが求められた。具体的には、国立療養所大島青松園・沖縄愛楽園、リデル、ライト両女史記念館には足を運ぶことができた一方で、山谷のふるさとの会には足を運ぶことができなかった。こうした状況は、今後も続く可能性があるため、計画の柔軟な見なおしは不可避だと考えている。 A.ハンセン病 園の方針にしたがって長く訪問を控えてきた国立療養所大島青松園に、4年ぶりに赴くことができた。この間に療養者の数はさらに減少して、30名ほどとなった。まずは、4年の空白期間における療養所内の変化を確認するところから、調査を再開した。国立療養所沖縄愛楽園は、訪問自体に関する制約は少ないが、この間の体制変更にともなって、史料の公開に慎重な姿勢が示されるようになった。そうした変化をふまえながら、可能な範囲での調査をおこなうとともに、園外での調査や踏査にも注力した。青木や沖縄愛楽園の草創期について考えるスタンダードを目指す書籍の刊行にむけて、丁寧かつ慎重に作業を進めている。また、回春病院の系譜をひくリデル、ライト両女史記念館では、企画展「青木恵哉展―青木がリデルとライトに出会って100年―」(2024年度)の準備に、これまでの成果の提供も含めて、協力をおこなっている。 B.寄せ場 現地調査を控えざるを得ない状況が続いたため、予備調査時の撮影画像にもとづく情報の整理や調査計画の修正、研究文献を用いた情報の収集・蓄積を進めている。 C.その他 「老い」ゆく場について考察し、展望するうえで参照する必要があると考えている、楽生療養院(台湾)、ソウル周縁の労働者地区(韓国)、松代地下壕(長野県)などにおいて、調査・踏査をおこない、新たな視座を獲得した。 以上より、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に得られた成果をもとに、以下の調査・研究を実施する。 A.ハンセン病療養所・療養者(各項末尾のカッコ内は、主たる担当者をあらわす) 【国立療養所大島青松園】①大島の療養者の自治組織に残る2万点におよぶ蔵書の整理と目録作成作業を進める。②療養者の減少と高齢化が続く療養所における「老い」を、個々の療養者や療養者の「コミュニティ」(自治組織 ・サークルなど)に着目して考える(石居)。【国立療養所沖縄愛楽園】③沖縄のハンセン病をめぐる歴史研究の現状をサーベイしたうえで、青木恵哉の生や愛楽園の草創期を問いなおす(阿部・石居)。【リデル、ライト両女史記念館】④大島から熊本の回春病院に移り、伝道と同病者の救済という使命を与えられ、沖縄にわたった青木恵哉をめぐって、渡沖後も続いた、回春病院とのつながりの痕跡をさぐる。⑤同館の企画展「青木恵哉展」に協力する(阿部)。【楽生療養院】⑥日本統治期の台湾に設立された楽生療養院は、現在は総合医療機関となっている一方で、その敷地の一角に残る、かつての療養所の建物は、保存/解体をめぐる議論と工事のただなかにある。その過程を、「老い」ゆく場の延命と再生をめぐる実践として考察する(石居)。 B.寄せ場・寄せ場生活者 【山谷】⑦日本三大寄せ場のひとつとされる山谷に、1990年に設立されたボランティアサークル、ふるさとの会(現、NPO法人自立支援センタ ーふるさとの会)に残る史料の調査・整理を進める(石居)。 C.A・Bを通じて ⑧書籍・映像・画像・写真・展示などで、療養所・寄せ場や療養者・寄せ場生活者の「老い」ゆく生がどのように表象されているのかを分析するとともに、その作者や企画者と議論する機会を設け、その成果を公開する。⑨療養所や寄せ場の将来をみすえ、そこに生きる人びとのおもいとむきあいつつ、史料を適切に保存・活用する手だてを講ずる(阿部・石居)。
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