研究課題/領域番号 |
23K20518
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補助金の研究課題番号 |
21H00596 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03050:考古学関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
杉井 健 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (90263178)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
12,870千円 (直接経費: 9,900千円、間接経費: 2,970千円)
2024年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2021年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | 古墳 / 肥後地域 / ヤマト政権 / 在地墓制 / 首長墓 / 古墳時代 / 人吉盆地 / 阿蘇地域 / 亀塚古墳群 / 平原古墳群 / 長目塚古墳 / 四ツ塚古墳群 / 十蓮寺石棺 / 高塚横穴群 / 立田山南麓古墳(上) |
研究開始時の研究の概要 |
肥後地域(熊本県地域)は前方後円墳分布の南西端域であって前方後円墳の築造も盛んであるが、その一方で在地特有の墓制も継続的に営まれており、ヤマト政権と地域権力の関係を探るうえでは格好のフィールドである。そうした肥後地域における首長墓と在地墓制の相互関係の分析を通して、地域の主体性を重視する立場から、ヤマト政権の地域支配のあり方を具体的に描き出す。古墳時代は日本国家形成の端緒となる時代であるため、この研究は、日本国家の領域が定まっていく過程の一端を明らかにすることに通じている。
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研究実績の概要 |
2023年5月、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に変更されたことをうけ、大学による行動制限措置はすべて解除された。そのため、長期の宿泊を伴うフィールド調査を4年ぶりに実施することができた(平原古墳群)。また、未報告資料の整理作業の過程で注目すべき発見があった(長目塚古墳)。具体的には以下の通りである。 【フィールド調査:阿蘇地域】①阿蘇市平原古墳群3号墳の発掘調査を実施した。墳端近くで石材集積部の存在を確認し埋葬施設構造推定の材料を得たが、墳形確定には至らなかった。さらなる調査が必要である。②平原古墳群北尾根グループよりも北側の尾根を踏査し、新たな古墳数基を発見した。③高森町中大村古墳群・慶恩古墳の現状を調査した。また、中大村古墳群発掘調査時の状況について聞き取り調査を実施した。 【フィールド調査:人吉盆地】錦町亀塚古墳群は九州島西半部における前方後円墳築造の最南端にあたり、昨年度測量した錦町四ツ塚古墳群とあわせ人吉盆地では最有力の古墳群である。その現地に残る前方後円墳3基の測量図を作成した。さらに、未報告の亀塚古墳群発掘調査時作成図面の分析を開始した。 【資料調査・分析:阿蘇地域】①阿蘇谷における古墳築造系譜について論文にまとめ投稿した。②高森町上の園古墳群出土として保管されていた土器を整理し、行方不明となっていた阿蘇市長目塚古墳(前方後円墳)出土土器の混入を確認した。さらに、長目塚古墳出土土器には朝鮮半島系土器(陶質土器等)が含まれていることを発見した。③高森町・南阿蘇村幅・津留遺跡の集落構造についての分析を開始した。 【資料調査・分析:その他】①三好栄太郎氏の協力を得て、菊池市七城町十蓮寺石棺出土遺物の調査を実施した。②前田真由子氏の協力を得て、宇城市国越古墳出土形象埴輪の調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、前方後円墳分布の南西端域であって前方後円墳をはじめとする大規模な首長墓が盛んに築造される地域である一方で、肥後型横穴式石室墳や板石積石棺墓、装飾古墳といった多様な在地墓制も継続的に営まれるという全国的にも希有な特質を有す肥後地域(熊本県地域)に焦点をしぼり、当該地域の首長墓と在地墓制との関係を具体的な考古資料の調査・分析に基づいて明らかにし、さらにそれを通してヤマト政権による地域支配のあり方を考察するというものである。 その目的を達成するためには、古墳を実地に調査することが必須である。コロナ禍であった2021・2022年度は、さまざまに工夫を凝らしたが当初計画に掲げていた阿蘇市平原古墳群の発掘調査を実施できなかったことなどを理由に、上記区分を(3)と判断した。 しかし、今年度(2023年度)は、平原古墳群での合宿による発掘調査を再開できたほか、コロナ禍で有効性を確認した業務委託および三次元計測を駆使して、九州島西半部では最南端の前方後円墳が築造された人吉盆地所在亀塚古墳群の測量調査も実施することができた。さらに、亀塚古墳群に関しては未報告の既発掘調査時作成図面を熊本県文化財資料室で発見し借用することができた。これを今、分析中である。くわえて、未報告資料の調査に関連し、行方不明であった阿蘇市長目塚古墳出土土器を発見し、それには朝鮮半島系土器が含まれていることを見出した。これは、ヤマト政権と地域首長の関係を考察するための新たな資料となりうるもので、注目すべき成果である。また、研究協力者による古墳出土資料の調査も着実に行われている。こうした点から、上記区分を(2)と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
人吉盆地は、前方後円墳分布の南西端域であるため、ヤマト政権につながる首長墓と在地墓制のあり方を分析する上では格好の地域である。また、阿蘇地域は、九州島の東西南北を結ぶ交通ルートの結節点であるため、九州島各地の在地墓制の情報のみならずヤマト政権に関わる古墳の情報も色濃く交錯する地域である。こうした点から、これら両地域の分析は、ヤマト政権の地域支配のあり方を考察するうえでの良好なケーススタディとなりうる。人吉盆地については、コロナ禍が明け、その調査・分析がようやく軌道に乗り始めたところである。来年度(2024年度)は本研究課題の最終年度であるが、しかし、今年度(2023年度)の成果を引き継ぎつつ、阿蘇地域および人吉盆地に所在する首長墓と在地墓制に関する新たなデータ収集を継続する。そして、これまでの調査・研究成果をまとめる。そのうえで、次につながる新たな研究展開を模索し、新規の研究計画の構想を練る。 ただし、来年度は、学務において、文学部入試委員長および文学部歴史学科長の要職にあるため、フィールド調査のための時間確保が困難になることが予想される。このことも念頭に置きつつ、さまざまに工夫をしながら調査・研究時間の確保をはかり、着実に研究を推進したい。
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