研究課題/領域番号 |
23K20521
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補助金の研究課題番号 |
21H00599 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03050:考古学関連
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
池谷 信之 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 特任教授 (80596106)
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研究分担者 |
中村 由克 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (10737745)
保坂 康夫 身延山大学, 仏教学部, 講師 (50810785)
金井 拓人 帝京大学, 付置研究所, 講師 (60779081)
堤 隆 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (70593953)
隅田 祥光 長崎大学, 教育学部, 准教授 (80413920)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
12,480千円 (直接経費: 9,600千円、間接経費: 2,880千円)
2024年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
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キーワード | 黒曜石原産地推定法 / EDXRF / WDXRF / p-XRF / 晶子形態法 / 黒曜石原産地推定 / エネルギー分散型蛍光X線分析装置 / ポータブル蛍光X線分析装置 / 可変的・総合的運用 / 原産地遺跡 / オブシディアン・ラッシュ / 全点分析 / 原産地推定法の可変的適用 / 構造変動 |
研究開始時の研究の概要 |
黒曜石の原産地推定は、旧石器時代や縄文時代の集団移動や交易に迫る最も有効な方法であり、国内には膨大な原産地推定結果が蓄積されてきた。その多くは蛍光X線分析によって実施されているが、ほとんどの指標として用いられているのは個別の機器に依存する強度データである。本研究ではこれを濃度(定量値)で行えるよう改良し、強度で実施する場合も複数の機器でデータを互換できるよう改良する。このようにして改良された原産地推定法を用いて、旧石器時代尖頭器段階、細石器段階~縄文時代草創期、縄文時代前期後半の黒曜石を分析し、原産地を共有する集団の移動・交易や集団の社会的関係に迫る。
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研究実績の概要 |
各分担者と連携をとりながら、重点項目を中心に研究を進めた。詳細は以下のとおり。 ①黒曜石の全岩組成とデータベース公表:列島内の原産地黒曜石の正確な化学組成を明らかにし、産出地の座標や産状・写真などとともにweb上で公開する作業を継続した。今年度は主に北海道内の原産地と黒曜石類似の下呂石(岐阜県)を対象とした。 ②非破壊分析法の改良:昨年度の検討で、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDXRF)を用いた「定量値比」による原産地推定法が可能であることを明らにしたが、その方法と結果について述べた論文が「文化財科学」誌に掲載された。またJEOL社製EDXRFの判別図を共有した可搬型蛍光X線分析装置(p-XRF・DELTA社製)による原産地推定を本格的に開始した。 ③晶子形態による原産地推定の復活:和田鷹山群に属する三峯・東餅屋他の産出地でのサンプリングと晶子形態観察を行った。その結果、和田鷹山群が晶子形態により細分できる可能性を再確認するとともに、晶子形態が火山活動のステージを反映している可能性が明らかとなった。蓼科冷山群黒曜石についても、晶子形態により麦草峠や大石川上流と冷山に2分できる可能性が高まった。 ④縄文時代前期後半「オブシディアン・ラッシュ」の解明:甲府盆地と八ヶ岳南麓の4遺跡から出土した約6000点の原産地推定結果にもとづいた黒曜石流通についての論文を「日本考古学」に投稿した(査読中)。八ヶ岳南麓に立地し、信州産黒曜石の流通拠点と考えられている天神遺跡について、石器属性の観察結果も加えて、その性格を再検討した。さららに甲府盆地から関東地方に至る黒曜石流通を検討するために、山梨東部~東京西部の9遺跡から出土した黒曜石を原産地推定した。その他、⑤旧石器時代後半の原産地遺跡である男女倉遺跡群ついての再検討と、⑥縄文時代草創期の黒曜石流通の研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①黒曜石の全岩組成とデータベース公表については、分担者の精力的な作業によって、当初目標の50%以上の作業が終了し、ホームページの内容も充実してきている。②非破壊分析法の改良については、当初の目標の一つであった定量値(比)による原産地推定が理論上可能となり、p-XRFによる原産地推定が実用化の段階に入っている。③これまでEDXRFでは分離できなかった信州原産地に属する判別群の幾つかについて、晶子形態によって分離可能であることを示すことができた。また晶子形態が、火山活動のステージを反映している可能性が明らかとなった。④縄文時代前期後半「オブシディアン・ラッシュ」の解明では、p-XRFを用いた大量の原産地推定が順調に進んでいる。この研究を通じて、甲府盆地を抜け、山梨東部の山麓地域に入ると急激に信州産黒曜石の供給量が減少することが明らかになり、従来いわれていた「オブシィディアン・ラッシュ」が原産地周辺に限定された現象である可能性が高まっている。⑤旧石器時代後半の原産地遺跡である男女倉遺跡群ついては、新潟県内への黒曜石の搬出先とみられる遺跡が推定され、さらに冷山原産地の原産地遺跡との比較研究により、男女倉遺跡群の性格がより明確になりつつある。⑥縄文時代草創期の黒曜石流通では、岡谷市丸山遺跡の原産地推定と石器実測が完了し、報告書刊行に向けた準備が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は4年間の研究計画の後半に入るので、最終的な到達地点を意識しながら研究を進める。具体的な推進計画は以下のとおり。①.黒曜石の全岩分析とデータベース公表:今年度は分析途上となっている北海道内の原産地および九州の原産地を分析対象とする。②.晶子形態による原産地推定の復活:昨年実施した和田鷹山群に属する鷹山・東餅屋・三峯山などの晶子形態観察にもとづく原産地推定法、および火山活動のステージとの関係について論文化する。また蓼科冷山群に属する産出地でのサンプリングを実施し、EDXRFによって設定された判別群をさらに細分できるかどうか検討する。③旧石器時代末細石刃石器群とその黒曜石利用:今年度は長野県野辺山遺跡で細石刃石器群が発見されてから70周年にあたり、その黒曜石利用と石材供給に関するシンポジウムを『資源環境と人類2023』として開催する。④縄文時代前期後半「オブシィディアン・ラッシュ」の解明:昨年度実施した山梨県東部~東京都西部の原産地推定結果をもとに、この地域の黒曜石供給に関する論文を執筆する。またこれまでの検討により、和田原産地から北回りで甲府盆地に向かう流通経路が存在する可能性が浮上したため、今年度は長野県佐久地方周辺の黒曜石を分析対象とする。⑤縄文時代草創期の黒曜石流通:岡谷市丸山遺跡出土石器の石材鑑定と石器形態の広域的な類似性の検討を行った後、その成果を「信州黒曜石フォーラム・シンポジウム」(9月開催予定)において発表し、さらに報告書を刊行する予定である。
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