研究課題/領域番号 |
23K20536
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補助金の研究課題番号 |
21H00616 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03060:文化財科学関連
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
園田 直子 国立民族学博物館, その他部局等, 名誉教授 (50236155)
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研究分担者 |
日高 真吾 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 教授 (40270772)
小瀬 亮太 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60724143)
末森 薫 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 准教授 (90572511)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
15,990千円 (直接経費: 12,300千円、間接経費: 3,690千円)
2024年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2021年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
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キーワード | 酸性紙 / 強化処理 / 脱酸性化処理 / 微細セルロースファイバー / 塗工処理 / 劣化抑制 / 紙資料 / 保存環境 |
研究開始時の研究の概要 |
図書・文書資料の大半は、近代製紙技術が確立した19世紀半ばから中性紙製造技術が定着する1990年頃までに製造された酸性紙である。酸性紙の劣化対策として一般的に行われる脱酸性化処理は、紙の劣化を抑制する効果はあるが、紙の強度を回復させることはできない。そこで重要になるのは極度に脆弱化する前の、ある程度劣化が進んでいる酸性紙への対策である。本研究では、脱酸性化処理と微細セルロースファイバー(FCF)による強化処理を併用し、ある程度劣化が進んでいる酸性紙の長期保存のための実用化技術の確立を目指す。同時に、研究開発した手法が紙資料等に安全に適用できるかの検証と、保存環境の調査・整備までを総合的に扱う。
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研究実績の概要 |
本研究代表者らは、経年劣化酸性紙に脱酸性化処理を施した後、湿潤処理を経て、サクションテーブル上で脱水して、紙表面に微細セルロースファイバー(FCF)塗工処理を行うと、紙の劣化抑制効果のみならず、劣化紙の引裂強さや引張強さを向上させることを明らかにしてきた。これまでに、紙の両面に連続的な塗工処理を可能にする小型塗工機(東京農工大学既存設備)を試作し、中程度に経年劣化が進んだ市販の酸性上質紙や中質紙を用いて、FCF塗工処理による紙の強化及び劣化抑制効果を確認してきた。 経年劣化酸性紙に対する強化及び劣化抑制技術の実用化においては、一度に大量の処理紙を乾燥させる必要がある。そのため、乾燥効率向上のために、真空乾燥機の並列使用、空気タンク(東京農工大学設置)使用を試みたところ、真空乾燥機の並列使用によって乾燥効率を2倍に高めることに成功した。 研究課題(a)FCF塗工用小型塗工機による劣化紙資料強化法の最適化について、FCF塗工液の最適化を行うにあたり有用な評価軸として見出した保水度、顕微鏡観察画像解析の観点に加えて、FCF分散液の粘度を評価軸として検討したところ、FCF塗工液の温度や濃度範囲を定める上でFCF塗工液の粘度が有用な評価軸になることを示唆した。FCFの微細化の程度が大きくなるにつれてFCF分散液の粘度が増加し、FCF塗工液の粘度は濃度および温度による強い依存性を示した。 研究課題(b)中程度まで劣化の進んだ紙資料を用いたFCF塗工処理による強化効果の検証のために、自然劣化した酸性上質紙および中質紙に対して加速劣化処理を行い引裂強さ150 mN程度の中程度まで劣化の進んだ紙資料の調製条件を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸性紙の劣化対策としてこれまで広く実施されてきた紙の脱酸性化処理は紙の劣化を抑制する一定の効果が認められるものの、低下した紙の強度を回復させることができない。本研究では、セルロースナノファイバー(CNF、繊維幅:100 nm以下)のもつ高強度特性および光学透明性に着目し、CNFよりも繊維幅の大きな微細セルロースファイバー(FCF、繊維幅:数μ以下)に着目し、FCFを紙表面に塗工して紙の脱酸性化処理と併用することによって、紙本来の特性を維持しながら、判読性を低下させずに紙の強度向上効果及び劣化抑制効果を経年劣化紙に付与することを目的としている。 当初、本研究計画に記した(a)FCF塗工用小型塗工機による劣化紙資料強化法の最適化については、まず初めに市販CNFを用いて小型塗工機によるCNF塗工量を制御するための劣化紙の塗工及び乾燥条件の最適化を検討し、特定のCNF塗工濃度範囲において紙表面のCNF塗工量を制御することが可能となり、脱酸性化処理を施した経年劣化紙の引裂強さを向上させることが判明した。さらに、広葉樹漂白クラフトパルプを原料として塗工および強化可能なFCFの調製方法とFCF塗工液の特性を見出した。(b)中程度まで劣化の進んだ紙資料を用いたFCF塗工処理による強化効果の検証については、引裂強さ150 mN程度の中程度まで劣化の進んだ紙資料の調製を開始し、必要な紙資料の3分2程度が終了している。また、(c)劣化紙資料のFCF塗工後の乾燥処理法の開発―試料室分散型恒温真空乾燥システムの導入-については、真空乾燥機を並列で使用することで乾燥効率を高められることを示した。(d)実用化に向けたFCF塗工強化紙試料の安全性・長期保存性評価に向けて、保存科学の観点から資料の保存環境調査・整備を継続して実施している。また、ローリングテストおよび官能試験の実施計画が出来上がりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標は、劣化が進行する酸性紙資料を長期保存するための実用化技術の開発である。そこで研究課題細目として、(a)FCF塗工用小型塗工機による劣化紙資料強化法の最適化、(b)中程度まで劣化の進んだ紙資料を用いたFCF塗工処理による強化効果の検証、(c)劣化紙資料のFCF塗工後の乾燥処理法の開発、(d)実用化へ向けたFCF塗工強化紙資料の安全性・長期保存性評価の4つを設定した。 各研究課題の今後の推進方策としては、(a)では、FCF塗工液の最適化を行うにあたり有用な評価軸として新たに見出したFCF分散液の粘度を評価軸として、FCFの微細化条件だけでなく、FCF塗工液の温度や濃度における最適化も実施する。(b)においては、熱風循環式乾燥機を用いた加速劣化試験(熱風循環式乾燥機―東京農工大学設置)により中程度に劣化の進んだ上質紙、中質紙を人工的に作製し、これまでに見出した最適な処理条件によって得られたFCFを用いて塗工処理し、その強化効果を検証する。(c)においては、FCF塗工直後に紙に含まれていた乾燥前の水分が蒸発後に、真空乾燥機内に設置しているシリカゲルに吸着される、あるいは真空乾燥機系外に排出されるが、それぞれ水分量を測定することによって、乾燥効率のさらなる向上のための知見を獲得する。(d)では、FCF塗工強化紙のローリングテスト等を用いた劣化度評価とともに、紙を取り扱う専門家による紙の官能評価を行う。また、保存科学の視点から資料の保存環境の調査・整備に引き続き取り組む。 令和6年度が最終年度であることから、これまで研究によって得られた成果を2024年5月に開催されるThe American Institute for Conservation (AIC)主催の国際学会 AIC's 52nd Annual Conference in 2024 にて口頭発表で報告する。
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