研究課題/領域番号 |
23K20557
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補助金の研究課題番号 |
21H00647 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
稲村 哲也 放送大学, 教養学部, 客員教授 (00203208)
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研究分担者 |
鶴見 英成 放送大学, 教養学部, 准教授 (00529068)
木村 友美 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (00637077)
山本 太郎 長崎大学, 熱帯医学研究所, 客員教授 (70304970)
苅谷 愛彦 専修大学, 文学部, 教授 (70323433)
鳥塚 あゆち 青山学院大学, 国際政治経済学部, 准教授 (70779818)
山本 紀夫 国立民族学博物館, その他部局等, 名誉教授 (90111088)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,900千円 (直接経費: 13,000千円、間接経費: 3,900千円)
2025年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 野生ラクダ科動物ビクーニャ / アンデス文明 / 社会的レジリエンス / 先住民社会 / チャク / アンデス / ラクダ科動物 / ビクーニャ / アルパカ / 毛色 / 肉の摂取 / 宗教図像 / 高所環境 / レジリエンス / 牧民社会 / ヒマラヤ / ラウテ / 社会変容 / 動物 / 牧畜 / 狩猟 / アンデス高地 |
研究開始時の研究の概要 |
チャクはかつてインカ皇帝が指揮して行った追い込み猟で、ビクーニャは毛を刈られたあと生きたまま解放された。その良質な毛は皇族に献上されたが、復活後の現在ではヨーロッパに輸出されている。チャクは新たな「生業」して普及し、野生動物保全の効果により個体数が増加している。蘇ったチャクは「狩猟と牧畜の関係」(生態人類学)、「ドメスティケーション」(考古学)、「新たな『生業』の背景や影響」(文化人類学)などの学術的課題を提起し、祭宴の復興は先住民社会の「内戦や感染症流行への対応」という現代的課題につながる。本研究は、これらの課題群をレジリエンスのダイナミズムとして究明し、研究に新たな領域を切り開く。
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研究実績の概要 |
本研究は、山岳高所をフィールドとして、環境=動物=人の相互作用に着目し、通時的課題と現代的課題を統合し、人類史や民族誌の観点から「社会レジリエンス」を究明することを目的としている。2023年度の研究としては、新大陸(アンデス)と旧大陸(ヒマラヤ・チベット)の比較を含む牧民社会における、環境=動物=人の相互作用を中心に研究を進めた。本研究の研究テーマの中心のひとつを占める「チャク」については、2023年度のペルーでの現地調査(8~9月に実施)において、農業省における聞き取り調査の結果、全国統一組織による管理体制から地方分権的な県ごとの管理体制に変化し、実施時期も変わり6月から7月に実施されていることも明らかとなった。そこで、現地調査は、アンデスのラクダ科動物の飼養システムと牧民社会の変容、ラクダ科家畜の毛や肉の利用とその変化等を中心に実施した。 乳利用がないアンデスの牧畜において、アルパカの毛の利用は、ドメスティケーションの契機としても、現代社会における家畜飼養の目的としても、きわめて重要であり、環境=動物=人の相互作用の核心的な部分でもある。一方で、現代の牧民社会と外部世界の関係はますます重要度が増しており、毛の利用においても、肉の利用においても、新たな変化が生じつつある。研究分担者の鳥塚を中心とする研究において、牧民共同体と都市・海外(繊維産業と市場)の関係のなかで、染色が容易な白色毛の圧倒的な優先から多様な毛色の再評価の傾向がみられることが明らかとなった。 アルパカ肉の摂取については、山岳地域の先住民共同体と都市を対象に数か所でグループインタビューの手法による調査を実施し、観光客を含めた都市における「健康」イメージとの相互作用が明らかとなった。また、アルパカ肉の流通・販売状況に関する調査を実施し、アルパカ肉の流通ルート等も明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者(稲村)は、別科研(新学術JP19H05735)と連携し、研究分担者の木村、研究協力者の佃麻美、アラン・ハイメらと共に、8~9月にペルーで現地調査を実施した。アンデス牧民社会の研究フィールドとしてきたプイカ、伝統的に土器生産を行ってきた近隣の共同体オルコパンパ、また、クスコ市とその周辺などで、社会変容、とくに牧畜システムの変化、信仰と祭りの変化、アルパカ肉の流通・消費などについての現状を調査した。アルパカ肉については、栄養価に関する情報と「健康」、アルパカ飼養環境と牧民に対する「自然」イメージ等との結びつきがみられ、多様なアクター間の相互作用により、アルパカ肉は「先住民族の人々の伝統的な食」から、「健康的な食」へと変化している。研究分担者の鳥塚は、8~9月と3月にペルー南部の牧民共同体と都市繊維企業において、アルパカの有色個体回復および獣毛製品の制作・流通に関する調査を実施した。共同体ではアルパカの有色個体を色彩計で計測し、色の民俗名称を採録した。都市部では個織物工房等を調査し、織物産業の現状を把握した。 研究分担者の鶴見は、アンデス文明形成期のラクダ科動物飼養に関する研究課題を中心として、共同研究の成果を取りまとめるとともに、北部ペルーにおいて次年度の現地調査の準備として、ペルーに渡航して情報収集と実施準備を行った。山本太郎は、2023年度はフィールド調査ができなかったが、比較研究として、ネパール高地における関節リウマチと高度適応に関する関連を報告した。山本紀夫は、先住民の視座からの世界史の再構築を行い、著書を慣行した。 また代表者は、12月にネパールのカトマンズ盆地とその周辺地域において、信仰と神々の形態等について、図像研究者のイシュワリ・カルマチャリャと共に調査を実施し、宗教図像における動物の象徴性が、本研究プロジェクトの豊かなテーマたりうることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の具体的なテーマの核心に「チャクの再生」があり、このテーマは多様な課題群を提起する。本研究は、そうした課題群を「環境・動物・人の相互作用」の視座から「社会レジリエンス」の動態の諸相として究明することを目的とする。チャクは、インカ時代に皇帝が人民を指揮して実施していた一種の集団猟であるが、野生ラクダ科動物ビクーニャを人垣によってとらえ、毛を刈ったあと生きたまま解放した。チャクはスペイン人による征服・植民地化のあと長く途絶えていたが、近年、新しい技術と市場経済化の脈絡のなかで復興した。 野生動物の合理的利用としての「チャクの再生が提起する課題群は、通時的課題として、①ラクダ科動物のドメスティケーションと文明形成への影響、②スペイン征服の衝撃がある。①は考古学研究のレビューを中心として究明する。②についてはクロニカ(年代記)を民族誌的研究のデータと突き合わせる。これはアンデスの「伝統」とレジリエンスへ の打撃であり、先住民社会は現在もそこからの復興過程にあると捉えることができる。 本プロジェクトでは、パンデミック終息に伴い、チャクについての予備調査を含む現地調査を実施した。現在もチャクは盛んにおこなわれているものの、実施・管理体制や実施時期が変更され(調査の調整が難しい6-7月)、チャク自体の参加型調査の再開は果たせていない。そこで、今後の研究では、数例のチャクの観察調査を優先したい。その後は、チャクの復興メカニズムとプロセスを解明し、先住民社会の現代的課題への対応とともに、考古学研究を中心とする通時的課題との接合を試み、アンデスにおける「社会レジリエ ンス」の諸相とそのプロセスを究明する。 また、ネパールにおける環境=動物=人の相互作用の事例として、遊動する狩猟採集民ラウテ(サル狩猟=木地師)の現状、信仰(ヒンドゥー教、仏教)における動物との関係性についても究明を続ける。
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