研究課題/領域番号 |
23K20819
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補助金の研究課題番号 |
21H01013 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 和彦 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10335193)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
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キーワード | イオントラップ / 光周波数標準 / イッテルビウムイオン |
研究開始時の研究の概要 |
イオンは、電磁場で閉じ込めて長時間観測することができる。この長所は分光するレーザーの周波数ゆらぎのため、これまで活かされていない。そこで、遷移周波数の変化は許容して多数個イオンから得られる信号対雑音比の高いスペクトルにレーザー周波数を制御し、周波数ゆらぎを低減させる。そのうえで、自然幅のきわめて狭い別の遷移を単一イオンで長時間観測し、中心周波数を決定する。単一と多数個の役割分担を1種類でできる唯一のイオン、イッテルビウムイオンを用い、世界最良の不確かさの光時計を目指す。長時間連続運転と低消費電力に優れた可搬型光時計につながる。
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研究実績の概要 |
2S1/2-2F7/2時計遷移を励起するには2台のイオントラップ装置が必要である。2台目の単一イオン用RFトラップ装置の改良をおこなった。これまでこの装置では、冷却レーザー光が1方向からしか導入されていなかった。冷却が3次元には達成されないため、到達温度が7 mK と高かった。そこで、1台目の単一イオン用RFトラップ装置で昨年度までに確立した冷却技術を導入した。冷却レーザー光を2方向から導入し、永年運動を3次元とも冷却できるようにした。また、2方向の冷却レーザー光を利用したRF光子相互相関測定とトラップポテンシャルの変調を組み合わせて、マイクロ運動の3次元最小化を簡易的ながら実現した。 到達温度や不確かさ評価をおこなうことに加えて同位体シフトの測定を視野に入れて、2S1/2-2D5/2時計遷移励起用レーザー系に、2系統目の外部共振器型半導体レーザーのシステムを追加した。1系統目とは独立したオフセット周波数を与えて、1系統目の線幅狭窄化レーザーに位相同期させた。これまでに明らかになった長時間連続運転の必要性を考慮して、温度安定化した外部共振器型半導体レーザーを作製し、第二高調波発生は光共振器を用いない構成とした。1台目のトラップ装置を用いて、1系統目と同等に時計遷移分光が可能であること、位相同期を保って12時間以上の連続運転が可能であることを確認した。 並行して1台目のトラップ装置を用いて、ドップラー冷却限界達成のための条件を完全に見破るために、2S1/2-2D5/2時計遷移分光による到達温度測定を継続した。冷却レーザーのパワーを下げることで、2 mK 程度まではほぼ確実に達成できることがわかってきたが、冷却限界0.5 mK に近づくための条件は、なおはっきりしていない。 リニアRFトラップについては、真空槽内の電気配線を完了し、真空に保てることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2台目の単一イオン用RFトラップ装置の改良に手間取った。3次元に冷却するためには2方向から冷却レーザー光を導入する必要があり、そのために蛍光検出用レンズ系を今までの2倍近くトラップ装置から遠ざけざるを得なかった。この結果、蛍光強度が大きく下がってイオンのトラップ確認が困難になった。トラップ確認前から迷光強度が十分に下がるように調整しておくことで対応できることがわかり、さらに、トラップ確認後の調整によって、信号対雑音比は時計遷移分光が可能なレベルになった。現状で先に進みながら、蛍光強度を増加させる方法を考えていきたい。 また、1台目の単一イオンRFトラップを用いた時計遷移分光により温度計測をおこない、冷却の最適化を進めようとしている。しかし、イオンが単一で時計遷移分光に数時間を必要とするため、データがなかなか蓄積できない。研究時間を大きく使っているにもかかわらず、冷却に問題となる要因を特定できない事態となっている。測定時間の短縮に関しては、温度計測開始までの実験手順については、ほぼ限界まで最適化できたように思える。現在、レーザーのウォームアップ時間の短縮や、制御の長時間連続運転を目指した装置の改良を、並行して進めている。 以上のように単一イオンRFトラップの実験はある意味着実に進んでいるものの、リニアRFトラップの研究に十分な時間を取ることができなかったことで、上記自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
遅れているリニアRFトラップの研究を加速する。超微細構造をもたない174Yb+を用いて、多数個イオンのレーザー冷却技術を確立する。到達温度や冷却可能な個数などを調べ、冷却されたイオン数を増やす方法を探っていく。 単一イオンについては、トラップ装置が2台体制になった。まずは単一の174Yb+を用いて、2S1/2ー2D5/2時計遷移を2台同時に検出する技術を確立する。そして、磁場による周波数シフトなど、不確かさの評価方法の獲得を進める。一方、昨年度までに確立した冷却技術を、磁場に鈍感な時計遷移をもつ、171Yb+へ移転する。171Yb+では、2S1/2ー2D3/2時計遷移スペクトルを検出する。そして、171Yb+を時計遷移の波長サイズ以下の領域、すなわちラム・ディッケ領域に閉じ込める技術を確立する。また、検出した時計遷移スペクトルに対してレーザー周波数を安定化する技術の確立を目指す。2台のトラップ装置をうまく活用して効率よく進めたい。 171Yb+の2S1/2ー2D3/2時計遷移にレーザーが安定化できれば、報告されている2S1/2ー2F7/2遷移との周波数比を利用して、寿命数年の2S1/2ー2F7/2時計遷移を励起することが現実的になる。このために必要な2台のトラップ装置は実現できたので、励起用レーザーと、周波数設定のための光周波数コムの改良を進める。励起用レーザーについては高出力化の課題が解決できていないので、現実的な方法を探っていきたい。光周波数コムについてはある程度使えるめどが立っているが、より長時間の連続動作と低雑音安定動作を目指して研究を再開する。
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