研究課題/領域番号 |
23K20828
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補助金の研究課題番号 |
21H01039 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 聡 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (10263063)
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研究分担者 |
水島 健 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 准教授 (50379707)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2023年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2022年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 超伝導 / トポロジカル物質 / マヨラナ粒子 / 磁性 / トポロジカル超伝導 / 重い電子系 / 強相関電子系 / ワイル超伝導 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では新規超伝導物質UTe2の発現機構と物性解明を目的とする。この物質は、近年、量子情報技術への応用の観点から注目されているトポロジカル超伝導体であることが、発見当初から期待されている。しかしながら、トポロジカル超伝導状態が実現している確たる証拠はまだ得られていないのが現状である。さらに超伝導が起こるメカニズムも従来の理論では説明できないため、その解明も重要な課題である。本研究ではこの問題を解決するため、この物質の超伝導の起源を明らかにし、さらにトポロジカル超伝導の証拠となる新規物理現象を理論予言することを目的とする。
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研究実績の概要 |
2023年度は以下の2つの研究業績を達成した。 1) UTe2におけるトポロジカル結晶超伝導の実現可能性を解明した。UTe2はトポロジカル超伝導の候補物質であるが、実際にトポロジカル超伝導が実現するか否かはフェルミ面の形状に依存する。量子振動測定で観測されている筒状のフェルミ面では、通常の時間反転対称性で守られたトポロジカル超伝導が実現しないことが知られているので、他の機構によるトポロジカル超伝導の実現可能性を探索する必要がある。本研究では、時間反転対称性に加えて、結晶対称性によって守られてたトポロジカル超伝導状態が実現可能であることを理論的に明らかにした。この系における結晶対称性で保護されたトポロジカル不変量を、全ての可能な超伝導対称性に対して解明し、それに由来するマヨラナ表面状態が実現することをモデル計算によって明らかにした。これによって、UTe2が筒形フェルミ面を持つにも関わらず、トポロジカル超伝導を実現することが確立した。この結果は専門誌 Physcal Review Bに公表された。 2) UTe2の圧力下における多重超伝導相の対称性を理論的に解明した。UTe2に圧力を印加すると常圧で存在する超伝導相とは別の超伝導相が現れることが実験的に知られているが、その発現機構と実現している超伝導対称性についてはまだ解明されていない。本研究では、この問題に取り組み、圧力印加による反強磁性スピン揺らぎの増大による超伝導発現機構について調べた。その結果、常圧で存在する強磁性スピン揺らぎと圧力印加で増大する反強磁性スピン揺らぎとの競合によって、異なる対称性の超伝導状態の間での転移が起こることが明らかになった。これによって、圧力下の多重超伝導相の起源と、実現している超伝導対称性について、有力なシナリオを提唱することができた。この結果は専門誌 Physcal Review Bに公表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題の目標の一つである圧力下の多重超伝導相の解明について、2023年度に行った研究の成果によって、解決に向けて一定の方向性が見えてきた。本研究で提案されている超伝導対称性は、目下のところ、他の多くの実験結果と矛盾がないので、今後、さらに最新の実験結果に基づいて、このシナリオを検証し、UTe2の圧力下多重超伝導相の完全解明へと研究を進めることができる。さらにまた、このシナリオを土台に、磁場下における多重超伝導相の解明にも研究を進めることができる。 また、本課題のもう一つの目標である、UTe2におけるトポロジカル量子物性の解明についても、重要な進歩を達成した。本課題の提案当初は、時間反転対称性の破れが実験から期待されていたので、ワイル超伝導としてのトポロジカル物性を念頭に置いていたが、その後の実験の進展により、時間反転対称性の破れの可能性が低くなった。しかし、その代わりに、時間反転対称性で守られたトポロジカル超伝導の可能性が高まった。この状況を踏まえて、本課題において研究を進めた結果、トポロジカル結晶超伝導が実現していることが明らかになった。これにより、今後は、このトポロジカル相で実現するマヨラナ粒子状態をいかにして実験的に検出するかを理論的に探索する研究へと展開していくことができる。さらにまた、UTe2のトポロジカル結晶超伝導状態における表面マヨラナ状態を検出する方法を探索するため、スピン磁化率に現れる表面マヨラナ状態の影響について研究を進め、磁化率の温度依存性を実験的に測定することによって、マヨラナ粒子を検出することが可能であることが明らかになった。このようにUTe2のトポロジカル物性について、当初の計画以上の成果が得られている
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、表面マヨラナ状態をいかにして実験的に検出するかが、今後の最重要課題の一つである。この問題に取り組み、磁気測定によって表面マヨラナ状態を検出する方法を確立することを目指して研究を進める。これまでの研究によって、スピン磁化率に表面マヨラナ状態の特徴的な寄与が現れることが分かったが、他方、これを如何にして実験で検出かという問題が残されている。スピン磁化率を微視的に測定するNMRでは、試料全体の寄与を観測するため、バルクからの大きい信号に表面からの寄与がかき消されて、検出が難しくなる。この点を克服するため、表面に何らかのNMR測定にセンシティブな金属物質をコーティングし、近接効果によって、コーティング金属領域に侵入したマヨラナ状態の信号を選択的に検出することが考えられる。この場合、UTe2試料の表面とコーティング金属との間の界面は一般に乱れを有するので、拡散的な界面におけるマヨラナ状態によるスピン磁化率への寄与を計算することが必要である。この方針に基づいて、拡散的界面におけるマヨラナ状態由来のスピン磁化率のモデル計算を実行する。さらにまた核磁気緩和率1/T_1にも、マヨラナ状態の寄与が特徴的に現れることが予想されるので、これの計算にも取り組む。 また、もう一つの重要な課題は磁場中における多重超伝導相の起源と実現している超伝導対称性の解明である。本課題のこれまでの研究によって圧力下の多重超伝導相の解明について大きな進展があったので、その成果を踏まえて、磁場下における、スピン揺らぎ誘起の多重超伝導相の実現可能性を検証していく。
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