研究課題/領域番号 |
23K20846
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補助金の研究課題番号 |
21H01085 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
金児 隆志 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (20342602)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
2024年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
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キーワード | 量子色力学 / シミュレーション / フレーバー物理 / 新しい物理 / 数値シミュレーション / 格子QCD |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、B中間子セミレプトニック崩壊におけるQCDの非摂動効果を記述するハドロン行列要素を格子QCDのシミュレーションによって高精度で計算することを目指す。これによって、排他的崩壊と包括的崩壊から決定した小林・益川行列要素がずれているという長年の問題の理解と解決を進め、また、国内外の実験プロジェクトと協力して標準理論を超える新物理を探索する。そのために、カイラル対称性を保つ理論的にクリーンな定式化と世界最速クラスの計算機「富岳」を用いることによってシミュレーションの系統誤差と統計誤差の両方を制御し、実験に見合う理論計算精度を達成することを目指す。
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研究実績の概要 |
現在の素粒子標準理論を超える「新物理」を探索し、それを内包する新しい基礎理論を構築することは素粒子物理学の最重要課題の一つである。B中間子の多彩なセミレプトニック崩壊は、新物理の有望なプローブと期待されている。しかし、その一方で、終状態を指定するエクスクルーシブ崩壊と指定しないインクルーシブ崩壊から決定した小林・益川行列要素|Vub|、|Vcb|が有意にずれており、理論の不定性が十分に理解されていないことを示唆している。そこで、本研究では、理論計算の最大の不定性の源であり、量子色力(QCD)の非摂動効果を記述するハドロン行列要素を格子QCDの数値シミュレーションによって高精度で計算することを目指している。 当該年度は、小林・益川行列要素|Vcb|の決定を与えるB→D*lν崩壊に注目し、ハドロン行列要素を記述する形状因子を計算した。現在の計算機性能では、離散化誤差を十分小さく抑えつつ現実世界のボトムクォーク質量でシミュレーションを行うことは難しいが、カイラル対称性を保つ理想的な定式化を用いることによって系統誤差を削減し、高性能な富岳 コンピュータを用いて高統計精度を達成することにより、形状因子を現在の実験精度に見合う数%以下の精度で決定した。 実験データとの比較によって決定した|Vcb|は従来の値と一致しており、また、並行して進んでいるインクルーシブ崩壊のシミュレーションはエクスクルーシブ崩壊の結果とよく整合している。このため|Vcb|のずれは、ハドロン行列要素の不定性よりも、実験データとの比較による|Vcb|の決定方法の系統誤差が原因である可能性が高く、勉強会などの開催して現象論や実験研究者との情報交換を進めている。 また、より多くのB中間子崩壊で新物理探索を行うため、B中間子混合の研究を国際協力により開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
B→D*lν崩壊は小林・益川行列の決定を与え、超対称性が予言する荷電ヒッグス粒子などの新物理の有望なプローブでもある。そのハドロン行列要素を記述する形状因子を目標精度で決定できており、課題は概ね順調に進行している。 これまでにも、海外の2つのグループによって格子QCDによる計算が行われているがシミュレーションデータから形状因子を抽出する際、計算精度を有意に高める仮定をしている。その結果は実験結果との食い違いを見せており、論争を呼んでいる。本研究では、そのような仮定をせずに実験に見合う精度を達成し、実験結果と大きく食い違うこともない。得られた形状因子の結果から決定した|Vcb|はこれまでの値とよく一致しており、|Vcb|のずれの原因は、ハドロン行列用素の不定性ではなく、実験データとの比較による|Vcb|の決定方法にあると考えられる。 現象論や実験研究者との情報交換により、これまでの決定方法では実験データの強い相関によって|Vcb|の決定結果にバイアスがかかる可能性があることがわかり、これを取り除いた決定方法の検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、B→D*lν崩壊の格子QCD研究と|Vcb|のずれの原因の理解を大きく進めることができたが、高精度を達成するために運動量遷移の領域が限られていることが不満足な点である。より幅広い領域での実験との比較により新物理の探索を進めることが今後の課題となる。 また、|Vub|のずれの理解のためには、B→πlν崩壊の高精度研究が不可欠である。この崩壊では、シミュレーションで計算したハドロン相関関数に励起状態の大きな寄与が現れ、格子QCD計算の精度を大きく損なう可能性がドイツの研究グループによって示唆されている。翌年度は、この可能性に十分注意を払いつつB→πlν崩壊の研究を進め、|Vub|のずれの理解を進めていく予定である。
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