研究課題/領域番号 |
23K20850
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補助金の研究課題番号 |
21H01095 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
森 浩二 宮崎大学, 工学部, 教授 (00404393)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,900千円 (直接経費: 13,000千円、間接経費: 3,900千円)
2025年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
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キーワード | カニ星雲 / 電磁流体加速 / X線CMOS検出器 / X線CMOS検出器 / X線CCD / パルサー星雲 / 加速 |
研究開始時の研究の概要 |
現在の人類の技術では到底再現できないような超高エネルギーの粒子が宇宙には存在する。そのような粒子を生みだす銀河系内最強の加速器の一つと目される天体に、カニ星雲がある。一方で、カニ星雲内部で「どこでどのように加速がおこっているのか?」という大きな謎が残っている。本研究では、X線の撮像分光により、そのカニ星雲の謎に迫る。カニ星雲の強烈な明るさのために、読出しの遅いX線CCDではパイルアップという問題がおこるが、シミュレーションを用いてこの問題を克服する。また、並行して、X線CCDの限界を克服するX線CMOS検出器を開発し、次世代衛星で「パイルアップフリーで」「広帯域での」X線撮像分光を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の主要観測対象であるカニ星雲の形態の時間変動について、昨年度に引き続き調査をおこなった。我々は以前に、month 以下のタイムスケールでの変動は示しており、ここでは year から decade のタイムスケールで変動する構造に着目している。このタイムスケールで最も目を引く変動は南側のジェットである。昨年度の調査で約15年でジェットが30秒角ほど延伸したことがわかったが、これに2022年度の観測結果を加えた結果、2010年頃から2022年にかけて、ジェットの折れ曲がりの位置が大きく変化しておらず、フィラメントとの相互作用によってジェットが同じ位置で曲がり続けている可能性があることを示した。これらの結果は、国内の研究会で報告をおこなった。
分光解析に向けては、2023年打ち上げの XRISM 衛星搭載のX線CCDにも応用されているモンテカルロ法を用いたシミュレータをベースに、Chandra 衛星搭載のX線CCDであるACISのX線応答を模擬するシミュレータ構築を進めた。点源観測については、パイルアップによる応答の変化を定量的に再現することに成功した。一方で、X線イベントの電荷分布のエネルギー依存性は完全に再現できておらず、広がった天体への適用に限界があることもわかった。
X線 CMOS 検出器の開発については、現在のセンサーに用いている PDD 構造の最終的なウェルの不純物濃度条件は特定したところである。その過程において、分光性能のウェルの不純物濃度依存性を調査した。定性的にはウェルの不純物濃度によるノード容量の変化が、分光性能に最も影響を与えていることがわかった。また、この新しい PDD 構造を持ち、前回の素子の問題点を修正した大型素子の評価もおこなった。これらの結果も、学会・研究会で報告した。さらに、この研究において新たに考案したセンサ構造を特許出願した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カニ星雲は時間とともに構造が変化していく天体であり、本研究の目的である空間分解したX線分光観測を行うために、まず構造の時間変化についてまとめているところである。Chandra 衛星のデータについては、2022年に5年半ぶりに新しい観測がおこなわれ、それも取り込んで解析を進めている。加えて IXPE 衛星による偏光観測の結果も報告され、その結果も踏まえて結果の解釈を進めている。また、XRISM 衛星搭載のX線CCD検出器用に開発されたシミュレータを Chandra 衛星の搭載のX線CCD検出器に適用することで、そこにおける CCD の電場構造の簡略化に問題があることもわかった。このように、カニ星雲の長期時間変動の解析におよそ目処をつけて、且つ、これから取り組む分光解析の準備も進めた。
X線 CMOS 検出器の開発については、ウェル不純物濃度を最適化した構造を持つ大型素子を製作・評価しているところである。まず、最適化条件を特定する過程で判明した分光性能のウェル不純物濃度依存性については、ノード容量と分光性能の関係の定量的な評価を実施している。これは今後の素子開発の指標となるものである。製作した大型素子については、電源供給パッドから近いところについては期待通りの分光性能が得られたが、遠いところでは分光性能が劣化していた。現在はデザインハウスと定期的に相談しながら、実験と解析を繰り返し、その原因追及をしているところである。大型化することで小型素子では見えなかった問題を炙り出すということはこれまでも実施してきたことであり、このプロセスでいよいよ大型素子の最終形態に近づくものと考えている。また、ADC 組込みの素子についても、ADC の動作実証をおこなった。以上により、衛星搭載用の大型X線 CMOS 検出器開発として確実に前進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後については、まず、カニ星雲の長期時間変動の解析結果をまとめる。南側ジェットが一番特異ではあるが、それ以外のトーラスや西側ベイなどの大きな構造についても特徴的な結果が得られており、それらがまとめの中心となる。パイルアップ推定用のシミュレーターについては、新に NASA の次世代X線天文衛星向けCCDに利用実績のあるシミュレータに更新することを検討する。これにより、これまでに検討したシミュレーターで単純化されていた電場構造を改善できる見込みである。シミュレーターの検証のためには、パイルアップの影響を受けていないデータと受けているデータの比較解析が必要であり、その解析にも取り組んでいく。
X線 CMOS 検出器の開発については、まずは引き続き大型素子の評価を進めていく。その結果をまとめて、次の設計に反映させていく。現在の焦点は分光性能が電源供給パッドからの距離に応じて劣化することであり、この原因の特定と対策が次回の大型素子製作に必須である。同時に ADC に加えて DAC や BGR を組み込んだ小型素子の製作もおこなう。これはデジタルX線 CMOS 検出器にむけた一歩であり、我々が開発する検出器の最終形態の一つの形である。また、これらと並行して、小型素子を用いて新しく確立した PDD 構造に対する放射線耐性の評価もおこなう。昨年度は予備実験をおこなってきたので、今年度は昨年度確立した手法を用いて定量的な評価を進める。
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