研究課題/領域番号 |
23K20874
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補助金の研究課題番号 |
21H01150 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17010:宇宙惑星科学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
三好 勉信 九州大学, 理学研究院, 教授 (20243884)
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研究分担者 |
品川 裕之 九州大学, 国際宇宙惑星環境研究センター, 博士研究員 (00262915)
藤原 均 成蹊大学, 理工学部, 教授 (50298741)
陣 英克 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所電磁波伝搬研究センター, 主任研究員 (60466240)
垰 千尋 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所電磁波伝搬研究センター, 主任研究員 (80552562)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,120千円 (直接経費: 12,400千円、間接経費: 3,720千円)
2024年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2022年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2021年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | 超高層大気変動 / 大気上下結合 / 数値シミュレーション / 大気波動 |
研究開始時の研究の概要 |
過去20~30年間において北極域の海氷は急速に減少している。北極域の海氷減少は,対流圏の大気循環(気候変動)を引き起こしていることが知られている。本研究課題では,北極域の海氷減少に起因する対流圏循環変動が,より上空にある超高層大気(熱圏・電離圏)の大気循環にどのような影響を及ぼすかについて明らかにする。研究は,地表面から大気上端までの全大気を含む大気モデルを用いた数値シミュレーションにより実施する。さらに数値シミュレーション結果の解析から,海氷減少が遠く離れた超高層大気に,どのような過程を経て影響しているかについて明らかにする。
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研究実績の概要 |
近年の北極域の海氷減少が,成層圏循環の変化を経由して熱圏・電離圏に影響を及ぼしているという仮説を実証するための研究を実施した。2000年代以降は成層圏突然昇温が数多く発生したのに対して,1990年代には成層圏突然昇温はほとんど発生していない。このことから,近年の海氷減少との関連で,成層圏突然昇温とそれに伴う熱圏・電離圏変動に焦点を当てて解析を,大気圏―電離圏結合モデルによる数値シミュレーションにより実施した。北半球冬季に発生した成層圏突然昇温に伴い,移動性プラネタリー波が励起され中間圏・下部熱圏にまで伝播することが示された。さらに,成層圏突然昇温の影響は,反対半球(南半球)の成層圏・中間圏での東西風・温度変化を引き起こし,南半球での移動性プラネタリー波や大気重力波の活動度に影響することが明らかとなった。大気波動の変動は,中間圏のみならず熱圏にも影響することが明らかとなった。解析事例が少ないので,事例数を増やしてより定量的な見積もりを実施する必要性があることがわかった。下部熱圏領域での変動は,電離大気との相互作用(E層ダイナモ過程)を通じて電離圏に影響を及ぼすことが明らかとなった。 熱圏・電離圏は,成層圏突然昇温などの下層大気の影響だけではなく,太陽活動の影響を強く受ける。そこで,太陽活動(今回は,中規模の地磁気嵐)の影響がどの程度なのかについての解析も実施した。2022年2月の地磁気嵐を事例に,数値シミュレーションにより調べた(この期間に成層圏突然昇温なし)。地磁気嵐に伴い熱圏大気密度は30~50%程度,子午面循環は5~10倍程度の変動が生じるのに対して,成層圏突然昇温に伴う熱圏変動は10%程度であることが示された。そのため,成層圏突然昇温などの下層大気の影響を見積もるためには,地磁気嵐の影響をどのように排除するかに注意して解析をする必要があることが改めて明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大気圏―電離圏結合モデルによる,2010年代以降の数値計算結果をもとに,成層圏突然昇温が熱圏・電離圏変動に及ぼす影響についての解析を実施することができた。北半球冬季での成層圏突然昇温の有無による大気波動の活動度の違いと熱圏への影響に焦点を当てた解析を行った。その結果,北半球冬季に発生した成層圏突然昇温に伴い,移動性プラネタリー波が励起され,中間圏・下部熱圏にまで伝播することが示された。これらのプラネタリー波は,下部熱圏領域で電離大気との相互作用を通じて電離圏に影響を及ぼすことが明らかとなった。このような,電離大気への影響は,大気圏ー電離圏結合モデルによる数値シミュレーションを基にした解析により明らかにできる現象である。さらに,成層圏突然昇温の影響は,反対半球(南半球)での東西風・温度・子午面循環にも影響していることが明らかとなった。このことから成層圏突然昇温は,熱圏の大気循環全体への影響を示すことができた。 また,1980年代の気象再解析データ(対流圏・成層圏)の取得を進め,数値モデルに組み込みができるように設定を行った。1980年代の観測結果に基づく下部境界条件での計算を開始した。その結果,1980年代と1990年代の熱圏循環の違いを調べることが可能となった。1980年代は,北極域の海氷面積が1990年代に比べて大きいのにもかかわらず,成層圏突然昇温が1990年代より多く発生している。このことから,海氷変動と成層圏突然昇温との関連および熱圏への影響を調べるうえで,重要であり,今後のさらなる解析が期待できる。 このように,成層圏突然昇温時の熱圏・電離圏での変化の様子を,国際会議および関連する国内学会で発表ができたことは,研究成果の発表促進の観点からも意義は大きい。また関連論文を査読付き雑誌に公表できた。このようにおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
近年の北極域の海氷減少が下層大気の循環変動を介して,大気波動の活動度変化と熱圏・電離圏変動を引き起こしているという仮説の検証を引き続き実施する。引き続き2000年代以降の熱圏・電離圏循環(成層圏突然昇温多発)と1990年代の熱圏・電離圏循環(成層圏突然昇温極少)の違いに着目して解析を実施する予定である。その際には,成層圏突然昇温の有無による対流圏・成層圏・中間圏・熱圏の各層での大気波動(移動性プラネタリー波・大気潮汐波・大気重力波)の活動度や,成層圏より上の高度域での大気波動活動度の変調がどの程度発生しているかについての解析を引き続き実施する。特に,2022年度の解析で明らかになった,反対半球の大気循環への影響について,本年度はより詳細な解析を実施して定量的な描像を明らかにする予定である。たとえば,北半球の成層圏突然昇温の際に,南半球の中間圏・熱圏での大気波動のふるまい変化やそれに伴う子午面循環変化についての詳細な解析を実施する。特に,大気重力波や移動性プラネタリー波(2日波や6日波など)の活動度変化を定量的に明らかにする。さらには,熱圏の子午面循環変動に伴う中性大気の大気組成変動や電離圏への影響に注目して解析を行う。必要があれば,1980年代の10年間についても大気循環計算を実施する。これらを基に1980年から2020年までの40年間の熱圏・電離圏循環の長期変動が見積り可能かどうかの検討を実施する。 観測との比較に関しては,成層圏突然昇温時の電離圏変動に関連して,地上観測より得られた全電子数についての解析を中心に行った。今後は衛星観測を用いた解析を行っていく予定である。COSMIC衛星などの電子密度データ,ICON衛星による中性大気風速データ,気象衛星ひまわりによる極域中間圏上部での中間圏雲データなどを利用して,数値シミュレーション結果との比較・検討を実施する。
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