研究課題
基盤研究(B)
本研究では、最新の衛星観測、客観解析データと数値モデルを用いて、成層圏力学場の変化が熱帯低気圧の発生・発達過程に与える影響を定量的に明らかにする。特にこれまで考慮されてこなかった熱帯低気圧の上部の力学過程の果たす役割を定量的に評価する。具体的には、観測データを用いて対象事例を選定し、2次元軸対称モデルで熱帯低気圧の上層大気に対する応答実験を実施する。また数値実験の初期値依存性や予測可能性、使用する積雲対流パラメタリゼーションによる積雲活動の特徴の違いといった課題に取り組む。さらに最新の数値モデルの成層圏を高解像度に改良し、より現実的な成層圏力学場による熱帯低気圧への影響を定量的に議論する。
本研究では、最新の衛星観測、客観解析データと数値モデルを用いて、成層圏力学場の変化が熱帯低気圧の発生・発達過程に与える影響を定量的に明らかにする。特にこれまで考慮されてこなかった熱帯低気圧の上部の力学過程の果たす役割を定量的に評価する。前年度、衛星観測データおよび客観解析データの収集及び解析を実施した。数値実験で対象とする事例の選定がほぼ完了した。具体的には、2019年9月に発生した南半球成層圏突然昇温現象(Sudden Stratospheric Warming; SSW)が発生した期間に多発した熱帯低気圧に関する数値実験を実施することになった。複数の数値モデル(非静力学モデルNICAMと気象研大循環モデル)を用いて、相互比較する計画である。非静力学モデルにおいて年度後半で重大なバグが見つかり、その修正を行い、以前実施した初期計算との比較を行った。また成層圏の力学場の再現性をより現実的なものとするため、モデル上端のダンピング層を上下させ、それによる影響評価を行ったが、大きな差がないことが確認された。また同モデルによる大量アンサンブル実験による結果をまとめ、熱帯低気圧の発生環境場やその発達に関する結果を論文等にまとめたり、国際学会等で発表を行った。気象研大循環モデルに関しても実験設定を開始した。その前提で、既存の大量アンサンブル実験による南半球成層圏突然昇温現象(SSW)時の統計解析を実施したのと、南半球のSSW時の極渦弱化イベントの統計的特徴と熱帯域循環場との関係について解析を実施した。他方、航空機観測データと簡易モデルによる上層大気の熱帯低気圧の発生・発達に関する理論的な考察を行った。特に熱帯低気圧の暖気核の定義を何に対して行うかによって、熱帯低気圧の上層の温位の分布に差が生じ、結果的に熱帯低気圧の強度の指標である中心気圧の推定に影響がでることを考察した。
2: おおむね順調に進展している
理論的な考察に関して、期待以上に上層の環境場が熱帯低気圧の発生・発達に影響を与える結果が得られている。数値実験に関しても統計的に有意な結果が得られる見込みが出てきた。観測データ解析に関しても、背景場の違い(ENSOやQBOの位相の違い等)による解析も進めており、相互に結果を参照しつつ目的の達成のために研究を推進していける環境場が整っている。
今年度はそれぞれの数値モデルによる実験の設定および計算を開始し、初期解析を実施する。以下で各数値モデルの実験概要を記す。1) 2次元軸対称モデルを用いた上部対流圏の低温化および力学場を変化させることによる疑似的な低温環境の形成による熱帯低気圧の発達への影響評価実験2) 成層圏全層を含めた全球非静力学モデルによるアンサンブル実験。数値モデルの初期値依存性を利用し、成層圏内の力学過程の再現の有無による熱帯低気圧の応答を診る実験3) 成層圏全層を含めた全球大循環モデルによる再現実験。上述と同じく、成層圏突然昇温現象の予測可能性とそれに応答する熱帯低気圧の発生、発達過程を精査する。特に次年度実施予定の積雲対流パラメタリゼーションスキームの違いによる影響をみるために、積雲対流の挙動について把握する。4) 上述の数値実験の結果を基に、次年度の数値実験計画を考える。また個々の結果をそれぞれまとめて学会等で発表する。
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すべて 国際共同研究 (10件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 7件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 25件、 招待講演 4件)
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