研究課題/領域番号 |
23K20880
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補助金の研究課題番号 |
21H01157 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17020:大気水圏科学関連
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中村 啓彦 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (50284914)
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研究分担者 |
井上 龍一郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 主任研究員 (80624022)
堤 英輔 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 助教 (70635846)
仁科 文子 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 助教 (80311885)
加古 真一郎 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (60709624)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,070千円 (直接経費: 13,900千円、間接経費: 4,170千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 12,480千円 (直接経費: 9,600千円、間接経費: 2,880千円)
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キーワード | 黒潮 / 東シナ海 / 乱流 / 季節変化 / 東アジアモンスーン / 大陸棚斜面反流 / 近慣性内部波 / サブメソスケール擾乱 / エネルギー散逸 / 海洋観測 / 数値実験 |
研究開始時の研究の概要 |
世界有数の勢力をもつ黒潮は、北太平洋中緯度帯を広く覆う亜熱帯循環の一部である。この亜熱帯循環は、偏西風と貿易風の大規模な風のエネルギーで駆動されているが、定常状態を保つために、そのエネルギーが循環のどこかで散逸しなければならない。エネルギー散逸は、強流域の黒潮内で起こっているが、そのメカニズムの全貌はわかっていない。本研究は、東シナ海の黒潮を対象として、黒潮のエネルギー散逸のメカニズムを、海洋観測と超高解像度の数値計算を行うことによって調べることを目的としている。海洋観測では、日韓共同観測の一環として、研究期間の4年間にわたって、黒潮内に複数の係留型流速計や水温計を設置する。
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研究実績の概要 |
黒潮の運動エネルギーが乱流スケールにカスケードダウンし散逸するプロセスとして,陸棚斜面域における黒潮の不安定現象を通じ放出される近慣性内部重力波の砕波が想定さる。本研究は,現場観測と数値実験によって,東シナ海の大陸棚斜面における黒潮の運動エネルギーの散逸過程を明らかにすることを目的とする。 上記の一連の過程を観測することを目的として,2020年6月より北部沖縄トラフの黒潮流域に4台の多層式超音波流速計(ADCP/75KHz)を設置している。さらに,2022年6月~2023年6月の1年間,Thermistor Stringと流速計(3D-ACM)で構成された係留系を,大陸棚斜面付近の500~600 m深に設置した。4台のADCPにより,冬季に黒潮が不安定化するとき黒潮の擾乱から近慣性内部波が励起されるかどうかを確かめ,Thermistor String(水温センサーが3m間隔で24個取り付けられた紐状温度計)により,近慣性内部波エネルギーの増減が乱流強度の増減に繋がっているかどうかを確かめた。 その結果,黒潮下層が南下流傾向のときに近慣性内部波エネルギーが高くなる傾向があり,近慣性内部波エネルギーが高いときに鉛直混合(Thorpeスケール)が大きい傾向があることがわかった。この現象は,台風による夏季の間欠的な発生を除けば,黒潮擾乱の季節変動に関連して12~3月頃顕著に起こる傾向があった。さらに,上記の関係が明瞭な2021年12月2日~2022年1月2日の1か月間のデータを詳しく調べた結果,約20~30日周期の黒潮擾乱により,黒潮流軸が陸棚から離れ黒潮直下に南下流が形成されたとき,潮汐に由来する流速変動に連動して,Thorpeスケールが大きくなる特徴が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で述べた通り,2022年6月~2023年6月の1年間,多層式超音波流速計(ADCP/75KHz)を用いた係留観測網に,thermistor stringを加えて水温逆転から鉛直混合強度の1年間の時間変化を計測することに成功した。このデータを解析することにより,黒潮下層の鉛直混合は,黒潮擾乱に関係して生成された近慣性内部波が,日周潮と半日周潮に拘束されながら砕波している可能性を示唆することができた。この点は,本研究における観測面での大きな成果であった。 本研究は,観測と並行しながら,超高解像度数値シミュレーションモデルを用いて数値実験を実施し,黒潮擾乱から近慣性内部重力波が生成されるメカニズムを解明することを目指している。2023年度は,MITgcmを用いて超高解像度数値シミュレーションを実施した結果,大陸棚斜面上の黒潮の断面流速分布に、観測に類似した鉛直シアーのバンド構造が再現されることは確認したが,その詳細な解析には至っていない。数値実験の進行がやや遅れているので,評価として「やや遅れている」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
1)マルチスケール黒潮観測網の維持および回収データの解析 2024年6月の「かごしま丸」航海で,現在設置中の4台のADCPを回収するとともに,船上でデータ回収・電池交換を済ませたあと再設置しさらに長期観測を目指す。一方,これまでの観測により,黒潮の不安定化に連動して乱流エネルギー源となる近慣性内部波エネルギーが増加することにより鉛直混合が引き起こされる過程を証明するデータは十分に確保できた。2024年度は,昨年度に引き続き,この過程を証明するためのデータ解析を行い,最終年度としての成果を得る。
2)超高解像度数値シミュレーションモデルの開発と出力の解析 本研究では,乱流強度の季節変動の原因として,冬季の黒潮の傾圧不安定化に起因して中深層で高鉛直波数の近慣性内部重力波が形成され,水平流鉛直シアーが強化されるため鉛直混合が活発化するというプロセスを想定している。この一連のエネルギーの流れを確かめるために,一昨年度からMIT General Circulation Model (MIT GCM)を用いて,大陸棚斜面に沿って流れる黒潮を理想化した条件で,超高解像度数値シミュレーションを開始した。昨年度の段階で,観測で見られるような水平流の鉛直シアーのバンド構造が再現されることが確認された。今年度は,現実を模したモデル海底地形の効果,潮汐変動の効果を組み込んで数値計算を進め,観測結果との比較により力学プロセスの解明を目指す。鹿児島大学理工学研究科では,東シナ海の現実的な流動を再現するための超高解像度モデル(DREAMS_Ep)を運用している。2024度は,MIT_GCMによる理想化された条件での数値計算の他に,DREAMS_Epの中で起きている近慣性内部重力波の励起過程の解析も試みる。
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