研究課題/領域番号 |
23K20930
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補助金の研究課題番号 |
21H01316 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21010:電力工学関連
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
金澤 誠司 大分大学, 理工学部, 教授 (70224574)
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研究分担者 |
市來 龍大 大分大学, 理工学部, 准教授 (00454439)
立花 孝介 大分大学, 理工学部, 助教 (10827314)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
採択後辞退 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,070千円 (直接経費: 13,900千円、間接経費: 4,170千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 13,520千円 (直接経費: 10,400千円、間接経費: 3,120千円)
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キーワード | 励起窒素 / 放電 / 光励起 / レジリエンス作用 / レーザー誘起蛍光法 / ストリーマ / 活性酸素と活性窒素 |
研究開始時の研究の概要 |
空気や水には容易に多くの物質が混じりこんだり、溶け込んだりする。そのため空気の質が向上できれば、空気・水の環境改善からバイオ・医療系の応用にまで適用できる。 本研究では、空気の主成分であり、水に最も触れる「窒素」に着目して、放電プラズマによる励起窒素の利活用を目指す。励起窒素のなかでも準安定準位の窒素分子について、気相中ではレーザ誘起蛍光法で直接観測し、液相中はその化合物を化学プローブ法や電子スピン共鳴法により計測する。寿命の長い準安定準位の窒素に光エネルギーを注入することにより、再励起できれば、準位間でのレジリエンス(回復的)作用により放電プラズマの革新的な反応制御法となる。
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研究実績の概要 |
通常、空気中で放電させるとその発光は窒素のスペクトルが大部分を占める。そのため発光の元となる励起窒素とそれに基づく化学反応が、放電を利用するプロセスでは重要となる。空気中や水との界面で放電を発生させて空気や水の質を向上させることができれば、空気・水の環境改善に適用できる。 研究2年目では、昨年度観測に成功した放電では発光しない準安定準位にあって比較的長寿命な窒素の放電後の状況を精緻に観測した。すなわち、放電によりエネルギーが注入されたあとの、放電電流は流れていないアフターグローと呼ばれる微弱発光が減衰していくなかで準安定準位にある窒素がどのような振る舞いをするのかを解明することに注力した。 具体的には、レーザー誘起蛍光法を適用してシングルショットのレーザー照射で、準安定準位窒素分子の放電空間における2次元分布をリアルタイムでその場観測した。放電は大気圧より圧力の低い準大気圧(大気圧の数分の一程度の雰囲気)で実施した。準安定準位にある窒素には多くの振動準位が存在するが、上準位から脱励起されて最終的に落ち着く最下位の準位ではなくその一つ前の過程として経由する振動準位v”=2やv”=3からの蛍光強度が強く観測され、シミュレーションによる予測と一致することが実証された。それらは放電によるストリーマのフィラメント状の発光領域よりも時間経過とともに広がっていく分布をとり、蛍光が観測できる時間は数十マイクロ秒にもなる。この寿命は従来の論文で一般的に言われている2秒という長寿命ではないことがわかった。 さらに本研究の目標である光との融合を試みるために、その予備実験として放電で生成する気体成分と紫外光の相互作用を調べた。その結果、反応生成物にはヒドロキシルラジカルや一重項酸素が含まれることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シングルショットのレーザー誘起蛍光(LIF)法により放電で生成した準安定準位窒素分子の2次元分布の可視化という世界初の観測の強みを活かして、研究2年目ではさらに詳細な計測を行った。放電は環境改善装置として普及されている空気清浄機に用いられている特殊な形状の放電電極を使用した。平板電極と水平に配置する線電極(パラレル電極と呼ぶ)を用いている。針対平板電極と異なるため、その非対称性から観測は正面と真横の2方向から行っている。放電の立体形状に対応した準安定準位窒素分子の空間分布を掴むことに成功した。この電極を用いて、毎回の放電で異なるフィラメント状のストリーマ放電の経路に対応して生成する準安定準位の窒素分子の存在領域が観測により明らかになった。その結果はさらに電極形状の改良に役立つ知見を与えることに貢献できるものである。 次に、光との放電の融合という新たな試みに向けて、まずは放電生成によるガス成分と光(紫外線)との相互反応について調査を行った。こちらは電子スピン共鳴(ESR)法を利用したものである。すなわち、両者を組み合わせることで通常の放電だけでは起こりえない反応が起きないかを予備調査した。その結果、放電単独では発生をすでに観測していたヒドロキシルラジカルとは別に、新たに一重項酸素の生成が確認できた。これまでのところ準安定準位窒素分子の挙動も放電後の長寿命性に着目したものであり、そこに新たな励起源として光を加えることの有効性の先駆けになる兆しが掴めた。 今後さらにレーザーによるLIF計測と電子スピン共鳴によるESR計測を組み合わせて窒素系のみならず酸素も含む活性窒素と活性酸素に着目する展開により他の研究機関とは差別化した独自の計測が構築されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
1.準安定準位の励起窒素の精密計測 本年度はパラレル電極や標準となる針平板電極で発生するストリーマの形状による励起窒素分子の空間分布の様子やガス圧や酸素の影響などについてさらに調査する。放電直後からアフターグローまでの実時間(リアルタイム)での放電過程を追跡することで、各準位における生成と消滅の過程を解明し、励起窒素分子の密度推定の精度を高めて、反応モデルを提案する。さらに従来より所有する線幅の狭いナノ秒パルスレーザーと今回の科研費で導入した線幅の比較的広いナノ秒パルスレーザーの2台を使用した新たなレーザー計測システムで、両者の比較を行う。 2.プラズマと光の融合による新奇反応場の形成 紫外LED光源による光化学反応について予備検討を行った結果をもとに、放電と光の融合化を行う。紫外領域の光をパルス放電に重畳させて、放電と光の融合による新奇な反応場を構築する。これまでは線対平板電極やそれを変形したパラレル電極を用いた気相中でのレーザー計測を主に行ってきたが、下部電極をメッシュ電極にして光を導入する工夫を行う。放電と光の連鎖反応が確認されれば、励起窒素分子の長寿命化のための方策を検討する。 電子スピン共鳴によるESR計測では液体によるスピントラップESR法を適用するので、下部電極に水を導入した気液界面への展開も図る。計測例のない気液界面での準安定準位にある励起窒素分子の振舞いを調査する。気液界面に輸送された準安定準位の窒素分子が水に作用することで生成する液中の生成物を研究室独自の化学プローブ法や電子スピン共鳴法で測定し、総合的な評価を行う。その場合、励起窒素以外のヒドロキシルラジカルや一重項酸素にも注目していく。
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