研究課題/領域番号 |
23K21005
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補助金の研究課題番号 |
21H01533 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分24010:航空宇宙工学関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
各務 聡 東京都立大学, システムデザイン研究科, 教授 (80415653)
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研究分担者 |
竹ヶ原 春貴 東京都立大学, システムデザイン研究科, 客員教授 (20227010)
橘 武史 東京都立大学, システムデザイン研究科, 客員教授 (50179719)
中野 正勝 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 教授 (90315169)
西井 啓太 東京都立大学, システムデザイン研究科, 助教 (10980245)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2021年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
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キーワード | 電気推進 / 宇宙推進 / 水推進剤 / MPD推進機 / 電磁加速 / MPD / MPDスラスタ / 大規模宇宙輸送 / 水 / PPT / 直噴 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,火星の有人探査などの大規模宇宙輸送に供する大電力電気推進機の実現を目指している.電気推進は,燃費の良さを表す比推力が高いが推力が小さいことが欠点であった.ミッション時間の短縮を考えると,大推力と高比推力を両立する電気推進が求められている.また,推進剤に関しても,宇宙空間で入手できる物質であることが望ましい.近年,様々な天体で水がみつかり,有人探査では飲用などで水は必ず携帯されることから,水の入手性は高いと考えている.そこで,1MWクラスの作動が可能で高比推力と大推力を両立できるMPD推進機に水推進剤を適用し,水滴をプラズマに直噴する方式を研究している.
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研究実績の概要 |
2023年度の研究目的は,1MWクラスの水滴直噴型MPD推進機において,多孔噴射により水滴の空間分布を調整して性能を向上させることにある.そこで,高い周波数でon/offできる小型噴射器が,真空中で0.04~1.4 mgの水滴を1 mPaの高真空下で供給できることを示し,噴射口を多数搭載した試作機を製作してその作動を実証した. 噴射器は,工業用の小型バルブで,噴射孔径は0.178 mmであり,水タンクを製作した.はじめに,水タンクと噴射器に水を充填した状態で真空容器に2時間放置し,推進剤のリーク量を計測したところ,リーク量は推進剤供給量の10%未満であった.よって,水タンクと噴射器を適用できると判断し,500回の作動試験を真空容器内で実施した.実験の結果,各噴射で推進剤流量のばらつきは小さく,目標流量である0.04 mgから1.4 mgの水滴を供給できていた.また,噴射器の電圧パルスの印加時間と水滴の噴射量が比例し,印加時間で水滴噴射量を調整できることを示した. 新噴射器を利用した水滴直噴型MPD推進機を試作した.試作機は,2023年度の研究でセラミックノズル型の性能が高かったことから,セラミックノズルに噴射器を埋め込む形状にし,アノードとカソードの半径比を同じにした.結果,2023年度の単孔噴射型(噴射孔径0.3 mm)の推力電力比が約5 mN/kWであったのに対し,小型噴射器(噴射孔径0.178 mm)を用いた新試作機では単孔・多孔噴射にかかわらず約6 mN/kWとなった,よって,多孔噴射による性能の向上は確認できなかったが,噴射孔の直径を小さくすることにより,性能が高くなることを示した.なお,最高の性能は噴射孔径0.178 mmの単孔噴射で得られ,放電電力1.3 MW,推力8.4 N,比推力3180 s,推進効率10%,推力電力比6.5 mN/kWを得るに至っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの状況を俯瞰すると,2020年度までに,200 kW以下で水MPDが作動することを実証して放電電流と電圧特性を明らかにし,2021年度は,放電電力2 kA以下,放電電力200kWまで性能を評価して,2NというMPDの推力としては他の推進剤に遜色のない性能を得ることを示した. 2022年度は,新しいpulse forming network (PFN)を用いて10 kAまでの性能を精査した.その結果,セラミックノズル型では放電電力3MWまでの,円環型では2.4 MWまでの作動を実証し,最高性能は,セラミックノズル型を10 kAで作動させたときに得られ,比推力3200秒,推進性能7.5%を得た.このように,様々な形の電極を用いて性能評価し電極形状の最適化に近づきつつある. 2023年度は,円環型,円筒型,セラミックノズル型の3種類の水推進剤MPDを試作し,電極形状の性能への影響を評価した.また,高速作動が可能な小型噴射器が1 mPaの真空環境下で目標量の水滴を供給できることを示して,多孔多段噴射の予備実験のために多孔噴射型試作機を製作し1.3 MWまでの作動実験を行った.結果,放電電力1.3 MWの時に最高性能(比推力3180 s,推進効率10%,推力電力比6.5 mN/kW)を得るに至っている.なお,多孔噴射と単孔噴射で差が見られなかったが,噴射タイミングの設定が不適切であるためであると考察している. 内部観察に関しては,2022年度に10,0000コマ/秒の高速度カメラを用いてプラズマジェットを観測し,セラミックノズル型で理論と反する結果となった原因に関する知見を得ている.以上のように,提案する推進機の性能を評価して3 MWでの作動を実証し,内部観察に資するさらなる高速度撮影を実施し,多孔噴射型の作動が可能なことを示したことから,おおよそ順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は,放電室形状や噴射器の配置を改良して性能向上を図る.また,多孔噴射で性能が向上しなかった理由として,水滴がセラミックノズル内の流路を移動中に放電が完了したため,推力に寄与せず無駄になったと考えられるため,MPDのイグナイタ,各噴射器の作動タイミングを調整して,水滴が放電室内で有効に使われるための駆動タイミングを明らかにする. また,噴射器の噴射孔径にも着目する.2023年度の結果より,同じ単孔噴射であっても,噴射孔径が小さい方の性能が高くなった.そこで,噴射孔径0.076 mmの噴射器を購入して多孔多段噴射を行い推力測定によって性能評価を実施する. 以上の試験を終えてから多孔多段噴射に挑戦する.すなわち,各噴射口から水滴を複数回噴射することで,より柔軟な水滴の空間分布を実現するのである.これにより,水滴の空間分布とプラズマの空間分布を最適化して,性能向上と電極の長寿命化を図る. 真空環境に微小量の水滴を供給できる噴射器を見いだしたことから,小型の噴射器をMPDと同じ原理だが10マイクロ秒程度の短時間作動により低電力化が可能なPPTに本噴射器を適用する.水PPTもこれまでに代表者らが研究してきたが,単孔の単段噴射であったため性能向上に限界があった.そこで,この噴射器を複数搭載した水PPTを試作して多孔多段噴射を適用し性能評価を行う. さらに,高速度撮影と分光計測を実施して,水滴の空間分布を明らかにする.また,分光や高速度撮影により,放電中のイオンやラジカルの空間分布を明らかにして,蒸発や解離,電離の状況を知悉し,放電室内の現象にアプローチする. 以上を通して,大推力から微小推力に対応できる水推進剤を用いた電磁加速型電気推進の性能を向上させると共に,内部現象に関する知見を得て最適な推進機形状を明らかにする.
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