研究課題/領域番号 |
23K21033
|
補助金の研究課題番号 |
21H01602 (2021-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26010:金属材料物性関連
|
研究機関 | 公益財団法人豊田理化学研究所 |
研究代表者 |
大谷 博司 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, フェロー (70176923)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2024年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2022年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
|
キーワード | 熱力学的準安定性 / 活性化エネルギー / 第一原理計算 |
研究開始時の研究の概要 |
準安定物質は,自然界にも人工物としても豊富に存在し,その多くは優れた特性を持っている.準安定物質にはたいへん大きな可能性があるが,研究室での実験はいまだに試行錯誤のプロセスに留まっている.したがって準安定物質の合成方法は,まだほとんどわかっていないと言って良い.これは準安定相が現れる本質的な理由を理解できていないことに原因がある.このような背景から,本研究では準安定性の指標となるエネルギー障壁に関する熱力学的考察と実験的検討を実施する.
|
研究実績の概要 |
準安定物質は,自然界にも人工物としても豊富に存在し,その多くは優れた特性を持っている.準安定物質にはたいへん大きな可能性があるが,研究室での実験はいまだに試行錯誤のプロセスに留まっている.したがって準安定物質の合成方法は,まだほとんどわかっていないと言って良い.これは準安定相が現れる本質的な理由を理解できていないことに原因がある.このような背景から,本研究では準安定性の指標となる周辺相とのエネルギー差や活性化のエネルギー障壁に関する熱力学的考察と実験的検討を実施している.令和四年度は,研究拠点を豊田理化学研究所から東北大学に移したことに伴う実験装置立ち上げの遅れがあったため,この研究の基礎的情報である理論状態図の計算に注力した.このような理論状態図の精密化により,磁性材料の候補であるFe-Si-Ni三元系をはじめとする多くの理論状態図が構築された.そこで今年度は,このような理論合金状態図の構築の過程で見出される多数の準安定構造を合成する際の指標となるエネルギー障壁の計算による定量化と実験的検討を行う予定である.すなわち準安定物質を合成できるか否かは,生成物(母相)と反応物(目的の準安定物質)との間の反応の活性化エネルギーの大きさと外的な熱揺動によるエネルギーの関係が最も重要であることに着目し,第一原理的経路探索法を組み合わせて,活性化エネルギーの評価を行う.さらにその結果に基づいて,メカニカルアロイング法で原料粉末を均一なアモルファス状態に励起し,母相を不安定化したのちに放電プラズマ焼結法を用いて焼結し,その組織と構成相の組成を検討する.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
準安定構造の正確な探索のためには,エネルギー空間についての詳細な情報が必要である.本研究ではこれまでに一切のフィッティングパラメータを用いずに,原子番号だけから有限温度の状態図を計算する新たな研究手法の開発を遂行し,本研究課題の基礎的情報である理論状態図の構築に関する研究を行ってきた.この手法は電子論に基づく第一原理計算によるものであるので,第一原理計算に含まれるBorn-Oppenheimer近似や零点振動の影響,さらに交換相関相互作用への経験的パラメータの導入などのいくつかの仮定によって,第一原理計算といえども1kJ/mol程度の誤差は含まれることは経験的にわかっている.また第一原理計算の精度以外にも,非調和格子振動,磁性状態(特に磁性元素の強磁性,常磁性など),化合物の元素固溶効果,固溶体の振動エントロピー効果,液相の配置エントロピーの評価方法など,本研究手法におけるいくつかの課題が指摘できる.しかしこれらの多くはケースバイケースで作用している可能性があり,全ての系や相に対して常に同じように働いているとは限らない.したがって多くの要因が複雑に作用しているエネルギーの差異の起源を整理し,最も確からしい理論状態図を提示する手法の検討を行った.固溶体の振動エントロピー効果についてその一例を挙げれば,異種原子間の相互作用が小さな系では振動エントロピーの寄与は小さく,理論状態図は実験状態図と比較的良好な一致を示すことが明らかになった.一方相互作用が大きい系ではその寄与は大きく,これが固溶体と液相との平衡に大きな影響を及ぼしていることがわかった.このようなエネルギーの微小な差異に関する基礎的考察を行うことによって,磁性材料の候補であるFe-Si-Ni三元系をはじめとする多くの理論状態図を構築した.その結果磁性などの物性に優れるいくつかの準安定物質が探索された.
|
今後の研究の推進方策 |
理論状態図の計算結果に基づいて実際の準安定構造の合成を中心に研究を推進する.構造相変態における活性化エネルギーの計算は,この遷移状態を擬平衡状態として第一原理計算によって評価する.この構造遷移では,一般に最もエネルギーロスの少ない最小エネルギー経路(Minimum Energy Path: MEP)を通ると考えられるが,これは遷移過程の始点と終点を定めて,途中の構造のエネルギーを緩和により低下させることでパスの計算が行える.具体的には,このMEPを遷移過程の始点と終点のみから求めるNudged Elastic Band(NEB)法を適用すれば,鞍点である活性化エネルギーを基底状態において計算することができる.さらにこの結果に基づいて,メカニカルアロイング法で原料粉末を均一なアモルファス状態に励起し,母相を不安定化したのちに放電プラズマ焼結法を用いて短時間焼結し,その組織と構成相の組成を走査型電子顕微鏡,X線回折によって同定する.ここで予想される課題としては,計算された活性化エネルギーは,アモルファス状態に含まれる全原子が目的の準安定構造に変態する際に必要な励起エネルギーである点である.現実の相変態では外部から熱を与えることによって核生成が生じ,母相(アモルファス)との間にできた結晶界面の移動,すなわち核の成長によって変態が進行するはずである.従って,計算により予測された活性化エネルギーと放電プラズマ焼結法において印加する電力量の間には不一致が生ずる可能性が高い.そこで印加電力量を種々変化させた場合の組織と構成相の組成を走査型電子顕微鏡,X線回折によって同定し,目的の準安定構造が合成されるための実験条件を調査する.
|