研究課題/領域番号 |
23K21041
|
補助金の研究課題番号 |
21H01642 (2021-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26030:複合材料および界面関連
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
本間 敬之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80238823)
|
研究分担者 |
柳沢 雅広 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, その他(招聘研究員) (20421224)
國本 雅宏 早稲田大学, 理工学術院, 准教授(任期付) (60619237)
齋藤 美紀子 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 上級研究員(研究院教授) (80386739)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2025年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
|
キーワード | 亜鉛負極 / 多階層モデリング / 表面増強ラマン散乱 / 大規模エネルギー貯蔵 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、次世代大規模蓄電デバイス用電極材料として有力視される亜鉛(Zn)が、充電過程においてその表面に生じさせる異常析出形態を制御する最適電解液の設計を目指し、そのような電極形態抑制に有効な添加剤の特定とその抑制機構の提案のための解析に取り組むものである。対象となる添加剤としては無機系、有機系など様々な候補が挙げられるが、それらの効果を系統的な電気化学測定データによって評価し、特に有望なものを特定する。さらにそれらの作用機構を、第一原理計算と、独自の高表面感度分光法を用いて解析し、ひいてはZn電極実用化を可能にする、より有効な添加剤設計の指針を得る。
|
研究実績の概要 |
令和4年度に引き続き、充放電に伴う亜鉛(Zn)負極表面の形態変化の抑制に効果を有する添加剤の作用機構を、電気化学測定と多階層モデルシミュレーションを用いて解析した。中でもスズ(Sn)についての解析を重点的に進めた。 まずSnの働きを実験的に理解するために行った電気化学測定の結果から、Snの電解液中における存在状態を特定すると共に、析出過程の主反応種であるジンケートイオンの反応素過程に対するSnの作用様式を見出した。Zn負極を大規模エネルギー貯蔵に適用する想定で本検討では数mol/Lレベルの水酸化カリウム溶液を電解液に用いているが、このような高塩基性電解液中では、Snは錯イオンの形で存在しており、この錯イオンが負極表面上で直接ジンケートイオンと相互作用することが示唆された。また多階層モデルシミュレーションを適用 することによって、そのような相互作用が、ジンケートイオンの各素過程間の反応速度のバランスを制御し、ひいては析出形態を制御するという機構が明らかになった。さらにSnの錯イオンとジンケートイオンが相互作用する際の構造に関しても分子レベルで特定できた。これに加え4年度末時点で懸案となっていた、独自プラズモンセンサ実装の電極表面反応解析用ラマン分光測定用セットアップのハンドリング上の課題を解決する仕様改良にも取り組んだ。代表的な添加剤であるポリエチレングリコールを典型例として対象にした 試験の結果、当該改良セットアップが、Zn負極表面における添加剤の吸着構造の表面電位依存性を解析できることを実証した。 以上、電気化学測定と多階層モデルシミュレーションを利用しZn負極添加剤の代表例であるSnについての作用機構を体系的に理解できた。また界面分光測定セットアップの構築に至れた。今後は分光測定も適用しながら対象添加剤の範囲を広げた解析に取り組み添加剤作用機構の知見の体系化を進めたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の研究もおおむね順調に進捗したと判断している。以下の通り当初計画した検討内容それぞれにおいて、目標の成果を得ることができたためである。まず令和5年度の当初計画では、Zn負極表面の形態変化抑制に効果を有する添加剤の作用機構解析の一環として次の3点を実施する事としていた。(1)電極表面における添加剤挙動の電気化学的in-situ測定、(2)多階層モデルシミュレーションを用いた析出形態制御機構解析、そして、(3)表面増強ラマン散乱分光(surface enhanced Raman scattering: SERS)測定セットアップの確立である。 電気化学測定では、これまでの検討で着目してきたSnや鉛(Pb)等の重金属系添加剤の挙動を解析した。その結果、SnはZn析出反応における各素過程の相対的な速度に対しイオンの状態で作用する一方、Pbは固相状態で析出Zn原子に作用するなど、それぞれが示す特徴的な挙動を整理して理解するに至った。これら電気化学測定の結果を原子・分子レベルから解釈するため、当研究者らが前年度までの当事業研究で開発したkinetic Monte Carlo(KMC)シミュレーションと、密度汎関数法(density functional theory: DFT)を連結させる多階層モデルシミュレーションに取り組んだ。この結果、Zn還元析出反応の主反応種であるジンケートイオンと添加剤イオン種との間の電極表面上での相互作用が、電気化学測定で得られた結果の説明、ひいては添加剤作用機構の説明に重要であることを突き止めた。またその際のジンケート―添加剤間相互作用の詳細な様式も同時に明らかにすることができた。このほか、SERS分光測定用の新方式分光電解セルの開発にも取り組み、Zn負極に作用する典型的な添加剤の計測を通じてその実証試験も終えられ、当該手法の確立に至った。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度までの検討を通じ、電気化学インピーダンス法を含む電気化学測定と、KMC法とDFT計算を連結させた多階層モデルシミュレーションとを組み合わせる研究手法の適用によって、充放電中におけるZn負極表面の形態変化の抑制に効果を有する代表的な重金属添加剤の作用機構をマルチスケールで提唱すると共に、それを通じその研究方法論の提案にも至れた。また、独自のプラズモンセンサを実装した電極表面反応解析用SERS分光用の新様式分光電解セルに関し、令和4年度末までに抽出、特定されていたハンドリング上の課題を解決し、試験を通じてZn負極表面上の添加剤挙動解析に有用であることを実証、計測セットアップを確立した。これら成果を基に、確立された方法論を適用しながら、令和6年度はさらに対象添加剤の範囲を広げて検討することによって、Zn負極表面形態変化に効果を有する添加剤の作用機構の体系化を目指す計画である。 具体的には、重金属添加剤として、5年度までに重点的に検討してきたSnのみならず、Pbやインジウム(In)などにも着目し、Snの場合の作用機構との共通点や相違点を整理し、それによって有効添加剤の条件を探る。特にPbに関しては、5年度までの研究を通じて既にその電極表面挙動の部分的な解析が進んでおり、それに基づき、今後シミュレーションを含めた多角的な検討を進めていきたい 。Inも、Snと同等程度にZn負極表面異常形態析出を抑制し形状変化を抑制する効果を有する重金属種である事が、5年度末までの検討で確認されているため、Snとの類似性などに注目している。一方これらの重金属種の中には、近年使用が規制の対象となる ものも含まれており、本研究で得られた知見を踏まえ、非重金属種の添加剤を新たに開発する必要性も高い。このため、そのような新規添加剤提案に資する設計指針の策定も徐々に進めたい。
|