研究課題/領域番号 |
23K21052
|
補助金の研究課題番号 |
21H01683 (2021-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26060:金属生産および資源生産関連
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鈴木 賢紀 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20610728)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 11,180千円 (直接経費: 8,600千円、間接経費: 2,580千円)
|
キーワード | 表面張力 / 表面イオン構造 / 表面緩和 / マランゴニ流 / 表面イオン構造緩和 / 軟X線吸収分光 / Polarization ion model / 表面活性成分 / 表面過剰エネルギー / 架橋酸素イオン / Polarizable Ion Model / 斜入射X線広角散乱 |
研究開始時の研究の概要 |
溶融酸化物の表面張力は、金属製錬の操業安定性やガラス製造プロセスの品質精度を左右し、宇宙空間など微小重力下では物質流動の支配要素となる。表面張力は一般に、表面で原子間の結合が一部満たされていない状態に起因した過剰エネルギーと解釈されるが、溶融酸化物の表面では過剰エネルギーを下げようとしてイオン配位構造の緩和が生じ、表面張力に多大な影響を及ぼす。しかし、表面イオン構造緩和の実態は未解明であり、表面張力を正確に予測できない。 本研究では、溶融酸化物の表面におけるイオン配位構造の具体的な緩和形態を明らかにするとともに、構造緩和が表面張力へ及ぼす影響度合を定量評価し、表面張力の新たな予測式を構築する。
|
研究実績の概要 |
溶融酸化物の表面張力は、高温材料プロセスの操業安定性や品質精度を左右する物性であるが、制御が非常に難しい。表面張力の値を大幅に変化させる表面イオン構造緩和の実態が未解明であり、表面構造の緩和が表面張力に及ぼす影響の定量化が未踏の課題である。 本研究の目的は、表面に特化した構造解析によって、溶融酸化物の表面構造緩和の実態を解明するとともに、表面構造緩和の各要素が表面張力に及ぼす影響度を定量的に評価し、溶融酸化物の表面張力の予測式を新たに構築することである。 本年度は、昨年度に引き続き、融体を急冷し、表面構造緩和を促したガラス試料に対する軟X線分光分析と、イオン間の分極を考慮したPolarizable Ion Modelによる分子動力学(MD)計算を行い、溶融酸化物の表面イオン構造を実験と計算の両面から解析する研究を行った。特に、表面活性成分であるが構造的性質が互いに異なるSiO2およびNa2Oが酸化物融体の表面イオン構造へ及ぼす寄与に注目して構造解析研究を実施した。 本研究の結果、SiO2単体の場合は表面緩和によって表面で多くのSiO4四面体が互いに連結し環状の架橋構造を形成するのに対して、Na2O-SiO2基酸化物の表面ではNaイオンが最表面に偏析し、表面に露出した酸素イオンへ配位する等の機構が生じて、非架橋酸素イオンが優先的に形成されることが示された。したがって、Na2O等アルカリ酸化物の添加は、溶融酸化物の表面イオン構造の緩和機構へ大きな影響を与えることを見出した。 また、MD計算から表面構造緩和の前後における表面過剰エネルギー(表面張力に相当)の定量評価を行った。SiO2単体の場合、表面緩和前では表面過剰エネルギーが非常に高く、表面緩和に伴うエネルギー変化も大きい。一方、Na2O-SiO2基酸化物では表面緩和に伴うエネルギー変化は小さいことがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、本研究課題において試作した局所レーザ加熱装置を用いて溶融、急冷して作製したガラス試料に対する軟X線分光分析と、MD計算による表面を含む融体に対するイオン構造のシミュレーションを実行し、表面イオン構造およびその緩和機構に関して複合的な解析を行うことができた。特に、表面活性成分であるNa2OおよびSiO2を含む酸化物を扱い、様々な組成の酸化物に対して表面イオン構造に及ぼすこれら成分の影響を定性的に見出すことができた。さらに、MDシミュレーションの結果を使用して、表面緩和に伴う新たなイオン配位形成が表面過剰エネルギーに及ぼす効果を定量評価することができた。 また、昨年度に得られた研究成果について論文投稿し、著名な国際誌に掲載された。特に、編者より"Outstanding article"との高い評価を受けた。 以上は当初想定していた計画通りの成果であり、研究は概ね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、(1)軟X線吸収分光分析によって調べた、融体を急冷し表面緩和を促したガラス試料に対する表面イオン構造と、(2)PIM-MD計算によってシミュレートした融体の表面イオン構造は、互いによく整合することが様々な酸化物系で確かめられた。今後は、MD計算による表面イオン構造シミュレーションを中心とした構造解析を実施し、表面を含む系内のイオン配位構造を可視化した上で、様々な系の溶融酸化物に対する表面緩和の機構を系統的に整理し、混合酸化物融体に対する表面張力推算式の構築を進める。一方で、ガラス試料に対する軟X線分光分析はMD計算と補完的に実施し、表面緩和後のイオン配位構造を反映した元素毎の吸収分光スペクトルを取得する。 計算機解析においては、まず、混合酸化物融体の表面を含む系におけるイオン配置のシミュレーションを行い、表面緩和がもたらす特定成分の表面偏析、短距離範囲のイオン配位ならびに中距離範囲におけるイオン配列状態の解析を行う。また、第一原理計算を用いて、上記のMD計算から得たイオン配置に基づいて表面原子に対する分光スペクトルのシミュレーションを行い、(1)の実験スペクトルと照合する。 次に、表面緩和に起因した表面特有のイオン配位構造の形成が表面張力に及ぼす影響を定量化する取り組みを行う。具体的には、MDシミュレーションによって得た表面構造の原子配置モデルに機械学習を適用して、表面緩和に起因する数~十数個のイオンが配位したクラスター体を抽出し、第一原理計算によってイオンクラスター体の形成エネルギーを評価する。上記の表面イオンクラスター形成エネルギーを既存の表面張力推算式へ組み込み、表面構造緩和の影響を反映した推算式の構築を試みる。 上記の研究を進めつつ、これまでに得られた成果を学術論文等へ順次公開する計画である。
|