研究課題/領域番号 |
23K21084
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補助金の研究課題番号 |
21H01842 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
廣理 英基 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00512469)
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研究分担者 |
佐藤 駿丞 筑波大学, 計算科学研究センター, 助教 (90855462)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2022年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2021年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | テラヘルツ / メタマテリアル / 強結合 / 磁性体 / 半導体 / 反強磁性体 / ペロブスカイト半導体 / テラヘルツメタマテリアル / テラヘルツ分光 / キャビティ強結合 |
研究開始時の研究の概要 |
これまで原子や固体中の電子準位の制御に適用され、化学の分野において応用的研究がされ始めている振動強結合の光化学反応制御の発想を、固体のフォノン制御へと世界に先駆けて展開する。この目標を達成するために、テラヘルツ帯に存在するフォノンとゼロ点振動場を強結合させる新たな光技術の開発に挑戦する。光の量子揺らぎによる物質中のフォノン駆動によって電子フォノン相互作用によって特徴づけられる物性を制御することで新奇な物質相・量子状態を実現する。
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研究実績の概要 |
本研究では、テラヘルツ(THz)周波数帯の「電磁場の量子揺らぎ」(ゼロ点振動場)やレーザーから発生したテラヘルツ波を、金属メタマテリアル共振器(キャビティ)を通して閉じ込め、物質中のフォノン(格子振動)やマグノン(スピン集団運動)との強結合状態を実現することで物性の制御を目指している。これまでにハロゲン化ペロブスカイト半導体のCH3NH3PbI3の0.95THzのフォノン(Pb-I-Pb結合の振動)をナノ構造の分割リング共鳴器(SRR)で真空光子に結合した。SRRのギャップを100nmに狭めて超強結合筐体を実現し、SRRの吸収ピークの周波数がフォノン周波数と等しいときにラビ分裂を観測した(Phys. Rev. Research 3, L032021(2021))。さらに、マグノンとテラヘルツ波の高効率な結合を目指し、らせん型の金属アンテナを作製した。これにより、傾角反強磁性体HoFeO3における、テラヘルツ磁場とマグノンを高効率に結合させ、大きな磁化変化をもたらすことを観測した(Nature Communications 14, 1795(2023))。観測したファラデー回転信号の周波数スペクトルには、強磁性ベクトルMの基準振動に対し2倍、3倍の周波数に対応する非線形な振動を意味する明瞭なピーク構造が含まれることがわかった。従来の研究でも2倍波のスピン振動が観測される例はあったが、理論的に反強磁性ベクトルの基準振動も強磁性ベクトルの2倍の周波数を持つため、非線形性を示す十分な証拠はなかった。今回、3倍波の非線形信号を観測できたことにより、強磁性ベクトルMの振動の非線形性が明らかとなった。またジャロシンスキー・守谷相互作用によって反転対称性の破れたスピン系の磁気秩序と対応する系のエネルギーが高周波成分発生の選択則を決定することを理論的に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに、ハロゲン化ペロブスカイト半導体のCH3NH3(MA)PbI3の0.95THzのフォノン(Pb-I-Pb結合の振動)をナノ構造の分割リング共鳴器(SRR)で真空光子に結合し、SRRのギャップを100nmに狭めていわゆる超強結合の実現を目指することを目指した。実際に、強いフォノン吸収(TOフォノン)をもつペロブスカイト半導体MAPbI3試料上にキャビティ強結合するリング型の金属メタマテリアル構造を試作した。結合強度を調べるために、ペロブスカイト膜でコーティングしたSRRの透過スペクトルを検出するTHz分光法の構築を行った。SRRの吸収ピークの周波数がフォノン周波数と等しいときラビ分裂を観測し、強結合によるフォノンモードの制御に成功した(Phys. Rev. Research 3, L032021 (2021))。昨年度は、反強磁性体(HoFeO3)中のマグノンをテラヘルツ波と高効率に結合させるために、らせん型の金属構造を作製した。テラヘルツパルス励起が金属構造と結合し、物質内部に最大で2テスラを超える磁場強度が発生させ、反強磁性体の自発磁化の振動振幅を約90パーセント増大させることに成功した。以上の研究成果の一部は出版論文として公表した(Nature Communications 14, 1795(2023))。さらに、アトミックスケール領域でのテラヘルツ波と物質の相互作用を実現するための研究に着手しており、当初の計画以上に研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、テラヘルツ周波数帯の電磁波と物質の素励起(フォノン、マグノン)とが強く結合させることが可能な金属構造の作製に成功した。この物質とテラヘルツ波との強い結合は、物性の劇的な変化をもたらす可能性がある。今後はとくに、磁性体中の秩序パラメーターである磁化の制御を目指して、金属構造によるテラヘルツ磁場の増強と、これによる磁化スイッチングの可能性を追求する研究を行う。このために、室温付近でスピン配向相転移を引き起こす反強磁性体物質のマグノンモードの温度依存性やテラヘルツ磁場励起依存性に関する実験を行う。さらに、高強度なテラヘルツパルス励起による超高速な磁化のスイッチング現象の観測に挑戦する。得られた研究成果は、学会や論文などで適切に公表する。
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