研究課題/領域番号 |
23K21092
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補助金の研究課題番号 |
21H01875 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 圭一 東京大学, 物性研究所, 准教授 (90467001)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2024年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
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キーワード | タンパク質機能 / 微生物ロドプシン / 機能計測 / 構造解析 / 分光計測 |
研究開始時の研究の概要 |
タンパク質の様々な機能は生命の活動の根幹を支えるが、その多様性が生み出されるメカニズムの統一的な理解はいまだなされていない。そこで本研究では、多様な機能を持つ光受容タンパク質である微生物ロドプシンを、タンパク質の機能-構造連関を調べるためのモデル系として捉え、最先端の分光学、構造生物学、さらに計算科学的研究を行い、それらの知見を統合することで、共通のエネルギー入力から幅広い機能が生み出される根本原理の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の主たる目的である微生物ロドプシンの多様な機能発現の根本原理の解明ため、本年度は新たに構造解析に基づいたDTGロドプシンのメカニズム研究を行った(Suzuki et al., J. Biol. Chem. 2022)。DTGロドプシンは、一般的な外向きH+ポンプ型ロドプシンではH+ドナー残基のある位置に、H+移動に関わらないグリシン残基を持つことを特徴とするが、その輸送メカニズムは不明な点が多い。そして構造解析の結果、グリシンの小さなサイズに起因する、細胞質側の溶媒からレチナール近くまで続く大きな細胞質間隙がタンパク質の細胞質側に存在することが明らかとなった。またさらにグリシンを、一般的なH+ポンプ型ロドプシンでH+ドナーとして働くアスパラギン酸やグルタミン酸に変異したところ、H+ポンプ活性の向上が見られた。このことから、DTGロドプシンでは敢えて細胞質側のH+ドナーを消失させることで、H+輸送能の低下させる代わりに、細胞質側からのH+取込み過程を光反応サイクルの律速とすることで、細胞質内の極端なアルカリ化を防ぐ機構を獲得したことが示唆された。 また新たにゲノムデータ解析から、好熱アーキア由来の内向きH+ポンプ型ロドプシン(シゾロドプシン、SzR)を二種類(MtSzR、MsSzR)同定し、非好熱種由来のものと比べて高い耐熱性を持つことを報告した(Kawasaki et al., Chem. Phys. Lett. 2021)。この結果は、これまで高熱環境で使われている微生物ロドプシンは外向きH+ポンプだけだと考えられていた常識を覆すものであり、より幅広い機能の分子を好熱性の種が用いていることを示している。中でもMsSzRは既知の微生物ロドプシンの中で、最も高い熱安定性を示した。これらの分子は非高熱環境由来のものとアミノ酸配列が比較的似通っていることから、今後膜タンパク質の耐熱化のメカニズムを調べる上で、極めて良いモデル系になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は上記のDTGロドプシンの構造解析にもとづくメカニズム研究や、耐熱性SzRの発見に加え、既知のものと物性の異なるヘリオドプシンの機能解析(Chazan et al., Environ. Microbiol. 2022)およびヘリオロドプシンの機能の新たな多様性(Bulzu et al., mSphere 2021)、高機能性チャネルロドプシンChRmineの光反応素過程(Kishi et al., Cell 2022)に関する研究などについて成果の報告を行った。これらの成果はいずれも微生物ロドプシンの多様な機能の理解を大きく進めるものであることから、初年度において当初の計画以上に研究を進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は主にアミノ酸の配列の新奇性に着目することで、微生物ロドプシンの機能や吸収波長の多様性を調べていく。特にこれまでは大腸菌での発現が容易な原核生物由来のものが探索の中心であったが、今後は真核生物由来の者についても研究を展開していく。また振動分光測定系を確立することで、レチナールなどのより詳しい構造情報を得ることを可能とし、既に確立している過渡吸収分光系やレーザー電気生理学実験系と併せることで、レチナールの異性化から機能発現に至るメカニズムをさらに詳細に明らかにしていく。
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