研究課題/領域番号 |
23K21096
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補助金の研究課題番号 |
21H01880 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
篠田 渉 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (70357193)
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研究分担者 |
浦野 諒 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任助教 (00836976)
宮崎 裕介 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任助教 (10963324)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
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キーワード | 脂質ナノ粒子 / エンドソーム脱出 / 分子シミュレーション / 粗視化 / 膜融合 / 粗視化分子動力学シミュレーション / 粗視化力場 / 分子動力学シミュレーション / 自由エネルギー解析 |
研究開始時の研究の概要 |
脂質ナノ粒子(LNP)を使った核酸医薬デリバリーは新型コロナウイルスのワクチンにも使用されている。核酸の細胞導入における最大の障壁は核酸のエンドソームからの脱出のステップで、pH変化に伴って核酸を細胞質側に放出するようなLNP設計が試行されており、つまりLNPの主成分の一つであるpH応答性脂質が重要な役割を果たす。しかしLNPの構造やエンドソーム膜との相互作用についての実験情報は乏しい。本課題では分子シミュレーションによってLNPの構造、安定性、核酸のエンドソーム脱出の分子機構を解析し、送達する核酸の種類や分子量に合わせたpH応答性脂質の分子設計、LNP組成を最適化する計算技術の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、pH応答性カチオン脂質を含む脂質ナノ粒子(LNP)の構造と安定性、エンドソーム脱出の分子機構を分子シミュレーションで解明することを目指している。まず、定量性を持つ粗視化モデル(SPICA力場)を開発し、脂質膜、コレステロール、核酸のモデルを構築した。pH応答性脂質としてMC3、ALC-0315、SM-102を使用し、全原子分子動力学シミュレーションのデータを基に粗視化モデリングを行った。MC3については表面圧測定でモデル精度を確認した。核酸モデルには短いdsDNAを用い、LNPのモデリングを行った。 LNPの内部構造を実験データから予測し、MD計算で構造を緩和させた。その後、水溶液中で外場を使って球状構造に変化させ、さらに1マイクロ秒のMD計算で安定構造を確認した。LNPの最外膜は脂質二重層膜構造を持ち、異方性を示した。特にALC-0315やSM-102を使用したLNPでは脂質分布に相分離が観察された。 次に、エンドソーム膜を混合脂質膜としてモデリングし、LNPとエンドソーム膜の融合過程を調査した。pH約5の条件下で、カチオン性脂質とエンドソーム内のアニオン性脂質が相互作用し、LNPがエンドソームに引き寄せられることが確認された。ただし、相互作用の強さは塩濃度に依存した。融合ポア形成のタイミングは接触面の構造や脂質組成に大きく影響され、10マイクロ秒以上の長時間MD計算が必要であった。ストーク構造の安定性と融合ポア形成への構造緩和過程では、ストーク近傍での脂質組成の変化が重要な要素であった。 膜融合による核酸のエンドソーム脱出の成功確率は低いが、異なる系で複数回のMD計算を行うことで、各種脂質の役割を明らかにすることが可能である。本研究で開発した粗視化モデルは、LNPに限らず、他のドラッグデリバリーシステム(DDS)キャリアにも有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SPICA力場の拡張により、核酸モデルの構築、3種のpH応答性脂質のモデル構築、また、エンドソーム膜をモデリングするために、ほぼ全ての種類のリン脂質のモデルを完成させ、これらの分子間相互作用モデルについても、力場を完成させることができた。また、新たなpH応答性脂質を追加するには、またその相互作用モデルを作成する必要があるが、一部、オートメーション化することによって、粗視化力場モデルの拡張を比較的容易にできるようになっている。 また、このSPICA力場を用いて、3種のpH応答性脂質を用いたLNPのモデリングと長時間MDによる構造安定性の検証がすでにできており、特にMC3脂質を用いたLNPについては、エンドソーム脱出を複数回繰り返し観察することに成功しており、その分子機構の解析が可能となってきている。また、LNPのエンドソーム脱出は融合によって常に成功するわけでもなく、場合によっては融合ポア形成が律速となって、300マイクロ秒まで計算時間を延ばしても核酸のエンドソームからの抜けだしができない場合も見つかっている。エンドソーム脱出のうまくいく条件などを明らかにすることで、よりトランスフェクション効率の高いLNP設計へのヒントが与えることができるものと考えている。 計算が大規模なため、膜融合のような試行MD計算を数多く行うことが困難ではあるが、すでに3種類のpH応答性脂質を用いたLNPで検討をできており、それぞれの脂質の特徴によって、LNPの構造変化やエンドソーム脱出における機構の違いなどが議論できるようになっている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに3つのpH応答性脂質(MC3, ALC-0315, SM-102)を用いたLNPモデリングに成功し、膜融合を介してエンドソーム脱出機構についても観測に複数回、成功している。今後、このエンドソーム脱出の分子機構の詳細を、脂質構造と組成について、系統的に解析を進め、融合経路を特徴づける変数の同定を試みる。このために、エンドソーム脱出の観測回数を増やす必要があり、特にALC-0315、SM-102を用いたLNPにおけるエンドソーム脱出のMD計算を複数回試行する。また、一方で2,3種類のpH応答性脂質の粗視化モデリングも同時に進め、準備が出来次第、LNPモデリングと膜融合計算を進める。一方、ここまでの検討では、核酸としてdsDNAを用いてきた。これはモデリングの簡便さのためであるが、実際の薬物搬送システムはsiRNAやmRNAである。今後の検討において、核酸の違いによるLNPの構造や物性への影響や、エンドソーム脱出の分子機構に与える影響を明らかにすることに挑戦する。特にmRNAは1000塩基以上の高分子となるため、LNP物性にも大きな違いをもたらす可能性が考えられる。SARS-CoV2用のワクチンにはmRNAが使われており、そのニーズが高いため、高分子性のためにモデリングが容易ではないが、最終年度に挑戦すべき課題と位置づけている。
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