研究課題/領域番号 |
23K21118
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補助金の研究課題番号 |
21H01945 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
栗原 正人 山形大学, 理学部, 教授 (50292826)
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研究分担者 |
石崎 学 山形大学, 理学部, 講師 (60610334)
安東 秀峰 山形大学, 理学部, 講師 (00754946)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
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キーワード | 配位高分子 / カーボンナノチューブ / ナノ粒子 / プルシアンブルー / 二次電池 / エレクトロイオニクス / エレクトロニクス / イオニクス / 半導体 / ナノ薄膜 / 電子伝導 / イオン拡散 |
研究開始時の研究の概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)を用い、プルシアンブルー(PB)とその類似体(PBA)ナノ結晶からなる薄膜・積層構造・独立分散構造体などを自在に設計・構築する。CNTの光透過・物質透過性・高導電性を活かし、ナノ結晶の電子・イオン伝導挙動を系統的に解析し、配位高分子ナノ結晶のエレクトロ・イオニクスを展開する。最終年度の概要は、ナノ結晶が独立してSWNTと絡まった独立分散構造体を用いることで、結晶同士の接合界面の影響を排除し、その酸化還元に伴うアルカリ金属イオンの拡散挙動を追跡する。これを正極に用いてPB、PBAナノ結晶に留まらない亜鉛二次電池の超高速充放電とイオン拡散の機構を明らかにする。
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研究実績の概要 |
カーボンナノチューブの「無加圧転写膜」を用い2電極素子を自在に設計・構築することで、膜厚方向から電子情報を高効率で抽出する「配位高分子ナノ結晶薄膜のエレクトロ・イオニクス」を総合的に展開している。本年度は、「プルシアンブルー(PB)の多重結合骨格を介した半導体類似機構」、これに連動した「格子空間のアルカリ金属イオン拡散機構を解明」について研究を実施した。本研究の基盤技術「単層カーボンナノチューブ薄膜のフィルター転写法」については、Adv. Mater. Interfaces 2021, 8, 2100953 (inside back cover)に論文が掲載された。また、単層カーボンナノチューブ(SWNT)の導電性を補完する銀ナノワイヤや銀マイクロプレートを積層した新しい電極構造体の転写法を確立し、論文2報が投稿中である。PB及びその類似体PBAナノ結晶分散液を用いスピンコート法によりナノ結晶薄膜を作製した。その数十~数百nmの膜厚方向からの電気伝導・イオン伝導情報を効率よく抽出するために最適な電気化学セル構造を設計した。交流インピーダンス法を適用し、ナノ結晶薄膜中にナノ結晶個々の表面修飾フェロシアン酸イオン由来のアルカリ金属イオンの情報の抽出に初めて成功した。従来、電極間の距離に対して電極面積が小さい電極構造では、緩慢に動くイオン伝導は、周波数・伝導度領域から外れるためその特定が困難であったが、SWNT薄膜電極を使ったセル設計によりそれが可能であることを明らかにできた。PB及びPBAのd-π電子系骨格の電子/ホール伝導挙動を調べ、PBにおいては、その電子ドーピング型(プルシアンホワイト(PW))とホールドーピング型(プルシアンイエロー(PY))が伝導相であり、PBが絶縁相であることを明確にできた。表面修飾フェロシアン酸イオンがPBに伝導相を生じさせる現象も発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画を上回る進捗が見られた。研究実績に記載のように、ナノ結晶薄膜中のアルカリ金属イオンの電子情報の抽出に成功した。SWNT薄膜電極は、光透過性に加え、物質透過性を有する特徴から、アルカリ金属イオン伝導挙動に対する湿度応答性を調べることができた。PB及びPBAの結晶格子内に含有したアルカリ金属イオンの水和状態とその伝導挙動は未解明であったが、本研究により、湿度環境に周波数依存するアルカリ金属イオンの動的な情報を区別することに成功した。これは従来のペレットでは決して見出せない情報であった。その挙動はイオン半径の異なるNa、 K、 Csで区別されることが分かってきた。PB及びPBAのd-π電子系骨格の電子/ホール伝導挙動を調べ、PBにおいては、PWとPYが伝導相であり、PBが絶縁相であることを改めて明確にでき、表面修飾フェロシアン酸イオンが絶縁相であるPBに印加電圧0 V付近で伝導相を生じさせる現象も新たに発見できた。NiとFeの金属組成を系統的に制御したNi-PBAナノ結晶薄膜において、その組成比に依存した電子/ホール伝導挙動を調べた。結果、驚いたことに、当初の予想に反して、混合原子価状態で知られるPB (Fe(II)-CN-Fe(III))が絶縁相であるのに対して、Fe(III)-CN-Ni(II)が伝導相であることを初めて明らかにすることに成功し、現在、実験と理論計算の両面で、論文投稿に向けて、その成果の整理を進めている段階である。このように、本研究で設計したSWNT薄膜電極を活用した電気化学セルは、従来、見出されていないエレクトロ・イオニクスの展開に向けた独自研究のキーテクノロジーになることが分かった。SWNTとPBAのバインダーフリー薄膜電極の作製法を新たに確立した。金属組成の異なるPBAのアルカリ金属イオン種に依存した電気化学応答性を網羅的に調べている。
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今後の研究の推進方策 |
交流インピーダンス法において、アルカリ金属イオンNa、 K、Csの伝導挙動の調査への道が拓けた。これを実証するには、さらなる研究データの蓄積が必要である。具体的には、(i)ナノ結晶薄膜の膜厚依存性を調べる。スピンコート法では均質な膜が得られる膜厚範囲が限定される。スプレーコート法による均質膜の作製法を開発する。nm~μmまでの膜厚形成により、アルカリ金属イオンと電子/ホール伝導挙動の因果関係を明らかする。(ii) (i)と並行し、Li、Na、KをPBナノ結晶薄膜の電気化学還元により系統的に導入し、イオン伝導と電子/ホール伝導挙動を調べる。膜厚を厚くすることで、内部抵抗が増大し、イオン伝導挙動の追跡が困難になることが予想される。新たに開発した銀ナノワイヤを積層したSWNT薄膜電極を利用してその研究の妥当性を評価する。NiとFeの金属組成を系統的に制御したNi-PBAナノ結晶薄膜の新しい伝導相の発見について、PBのそれと比較し、実験と理論計算の両面整理し論文投稿する。また、他の金属組成のPBA薄膜を作製し、その電気伝導挙動を明らかにしていく。SWNTとPBAのバインダーフリー薄膜電極において、ヤーン・テラー歪を生じるCu-PBAでは、他のPBAと異なるアルカリ金属イオン応答性を示したことから、実験結果と理論計算の両面でその挙動を解釈する。既に、理論計算結果が纏まってきたことからその論文投稿を実施する。PB及びPBAはアルカリ金属イオン二次電池正極として、実用化を視野に入れた研究が活発になっている。一方で、その骨格の電子/ホール伝導挙動とアルカリ金属イオンの拡散機構は未解決のままである。これは、その正極が高分子バインダーによって形成されており、イオン拡散・キャパシタ機構が複雑化しているためであり、その点で、SWNTとPBAのバインダーフリー薄膜電極はこれを解決する手段になる。
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