研究課題/領域番号 |
23K21171
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補助金の研究課題番号 |
21H02110 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
氣駕 恒太朗 国立感染症研究所, 治療薬・ワクチン開発研究センター, 室長 (90738246)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2025年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2021年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | ファージ / 薬剤耐性菌 / 抗菌療法 / バクテリオファージ / バクテリオシン / 合成ファージ / 抗菌治療 / 細菌感染症 / 細菌 / 遺伝子工学 / 合成生物学 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、抗菌薬耐性菌の出現は深刻な問題となっており、新たな抗菌薬の開発が喫緊の課題となっている。従来の抗菌薬とは異なるメカニズムで作用する抗菌剤として、バクテリオファージが注目されている。本研究では、申請者独自の手法で開発された「非増殖性ファージ」と、臨床分離株からスクリーニングされた「高殺菌能バクテリオシン」を組み合わせた抗菌製剤を開発する。非増殖性ファージにバクテリオシン遺伝子を組み込んだクラスター型ナノバイオロジクスを合成し、大腸菌感染モデルマウスを用いて、抗菌治療効果を検証する。
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研究実績の概要 |
ファージ療法の実臨床を考えると、『強い抗菌力』と『高い安全性』の両立が必要である。しかし、これらを同時に満たすファージ製剤は存在しない。ファージ療法のメリットとして、感染局所でファージが増殖することが挙げられる。しかし、増殖性のファージが環境に流出すると、生態系に悪影響を及ぼす。特に「遺伝子組換えファージ」によるその危険性は高い。ファージの環境への流出を回避するために、『増殖しないファージ(非増殖性ファージ)』も合成可能である。しかし、非増殖性ファージは「感染局所で増幅できるファージのメリット」を喪失しており、抗菌活性が低いこともわかってきた。そこで本研究では、独自のファージ合成技術により、『強い抗菌力』と『高い安全性』を両立する革新的ファージ製剤の開発を目指した。 合成した抗菌ファージ製剤の殺菌力と宿主域を、薬剤耐性菌パネルを利用して精査した。ファージ製剤の宿主域は素材として利用した野生ファージの感染域に大きく依存していた。また、抗菌ファージ製剤は、臨床で問題となっているカルバペネム耐性大腸菌も問題なく殺菌した。生物学的封じ込めを確保しつつも、カルバペネム耐性菌を殺菌できたため、今後、抗菌治療薬への応用も示唆された。その一方で、ファージ製剤の宿主域はまだ十分に確保できていない。宿主域は、ファージのレセプター認識の特異性や、細菌のファージ感染に対する防御システムによって狭められていることが考えられる。マウスを利用した抗菌治療実験も予定しているが、それと同時に、より広範な細菌に効果のあるファージ製剤を合成していく必要もある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗菌ファージ製剤の合成に成功し、その殺菌活性まで確認できているため、本研究はおおむね順調に進んでいる。 すでに、アンバー変異を利用した方法や、必須遺伝子を欠損させる方法により、『非増殖性ファージ』の構築は終了している。また、400以上の臨床分離株をスクリーニングし、非常に殺菌活性の高い新規バクテリオシンも獲得している。コドン圧縮ファージの合成はまだできていないが、来年度には完了する予定である。その後、抗菌ファージ製剤の合成にも成功している。合成に成功した抗菌ファージ製剤の殺菌力と宿主域は、薬剤耐性菌パネルを利用してすでに精査しており、再現性の良い結果が取れている。また、抗菌ファージ製剤は、臨床で問題となっているカルバペネム耐性大腸菌も問題なく殺菌した。本研究は、深刻な薬剤耐性菌問題を克服することを最終ゴールに設定しており、その目的は達せられつつある。 その一方で、ファージ製剤の宿主域はまだ十分に確保できていない。宿主域は、ファージのレセプター認識の特異性や、細菌のファージ感染に対する防御システムによって狭められていることが考えられる。防御システムは当初予期していなかったことであるが、ファージは防御システムを回避するシステムを持つこともわかってきた。この防御システム回避機構を治療用ファージに導入することで、防御システムの効かないファージが構築できる。今後は、マウスを利用した抗菌治療実験も予定しているが、それと同時に、防御システム回避に関わる基礎的研究も進める。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の大幅な変更点、問題点は今のところない。 現時点では基礎的研究であるため、大きな問題となっていないが、今後、本研究で開発した抗菌ファージを薬剤耐性菌感染症の治療に用いるためには、防御システム(細菌がファージ感染から身を守る機構)を攻略していく必要があることがわかった。差はあるものの、ほぼ全ての臨床細菌は防御システムを有していることがわかっている。特に一つの細菌には10種類程度の防御システムの存在が示唆されており、抗菌ファージ製剤は防御システムに防御されないように設計することが必要である。まずは、防御システムに認識されないような抗菌ファージ製剤を合成する方法がある。防御システムは、ファージ由来の特定の遺伝子を感知して活性化するため、ファージからその遺伝子を欠損させるか、変異を入れるなどして防御システムに阻害されないファージを合成する。また、防御システムを阻害する因子をファージ製剤に搭載させる方法も試す。一部のファージは、防御システムを阻害する因子を保有していることが最近になって明らかになってきた。合成したファージ製剤に、阻害因子を搭載する実験も進める。また来年度からは、マウスを利用した抗菌治療実験をスタートする。マウス実験が滞りなく進められるよう、マウス室の準備を整える。日常的にマウス感染モデルを用いた遺伝子組換えファージによる抗菌治療実験は行っているが、動物実験の申請書類等を再確認する。
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