研究課題/領域番号 |
23K21180
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補助金の研究課題番号 |
21H02139 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38050:食品科学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
矢中 規之 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (70346526)
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研究分担者 |
藤井 力 福島大学, 食農学類, 教授 (40372198)
大久保 剛 仙台白百合女子大学, 人間学部, 准教授 (40513172)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2021年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | コリン / グリセロホスホコリン / 小腸 / グリセロホスホジエステラーゼ / GDE5 / GPC / 酒粕 / TMAO / glycerophosphocholine / choline / trimethylamine N-oxide / 腸管上皮細胞特異的欠損マウス / trimethylamine / ゲノム編集法 |
研究開始時の研究の概要 |
コリンはリン脂質やアセチルコリンの合成、メチル基供給など極めて重要な生理機能を有するが、先進諸国での摂取量不足が指摘されている。コリン補充を目的とした遊離コリンの過剰摂取は消化管内でのトリメチルアミン生成を介した種々の疾病リスクとの関連が指摘されており、本研究ではグリセロホスホコリン(GPC)の腸管内での代謝や吸収機構をGPC分解酵素欠損マウスなどを用いて解明することで安全なコリン供給体として提案する。さらに日本古来の食品素材である酒粕がGPCを高含有していることを見出しており、ヒト酒粕摂取試験によってコリン代謝物に与える影響を確認し、日本発のコリン供給型食品素材を提案する。
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研究実績の概要 |
choline供給の栄養素材としてglycerophosphocholine(GPC)に着目し、正常マウスにGPC経口投与した結果、投与3時間後から血中trimethylamine N-oxide(TMAO)濃度が持続的に上昇したことから、TMAO産生機構の解明に着手した。さらにGPC投与後にGPCは血中に直接移行する可能性も示されたことから、ヒト消化管上皮細胞株Caco-2細胞を用いたGPCの透過性試験やGPCの十二指腸投与による門脈血中でのGPC代謝物濃度の測定を行った。Caco-2細胞の管腔側に添加したGPCは管腔側においてcholineへ代謝されることが示された。また単離した管腔側培養上清中にGPCを添加した際にもcholineへの分解が確認され、Caco-2細胞由来のGPC分解酵素の培養上清中への分泌が示唆された。またGPCの十二指腸投与での門脈血中でのGPC濃度の一過性の上昇が確認されたことから、GPCは消化管管腔内において分解される一方で、門脈への直接的な吸収機構の存在が示唆された。GDE5(Gpcpd1)をGPC分解の鍵酵素とする仮説を立て、ゲノム編集法により作出したGDE5 floxマウスとvillin Creマウスとの交配により腸管上皮細胞特異的GDE5欠損マウス(GDE5KOマウス)を作製し、GPC経口投与を行った結果、野生型マウスと比較して血中のTMAO濃度の低下が示された。 さらにGPC高含量酒粕を摂取後の血中choline代謝物に与える影響を検討するため、酒粕(普通酒)のGPC含量を測定し、同酒粕を用いた臨床試験を倫理審査会に申請し、承認を得た。インフォームドコンセントを行った後、12名に対する経口投与試験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの十二指腸からのGPCの投与後、門脈血中のGPC濃度は短時間で上昇することが示され、消化管より直接吸収される可能性が示された。また、ヒト消化管上皮細胞株Caco-2細胞の単層培養を用いた透過性試験によってGPCは細胞内へは移行せず、Caco-2細胞層の細胞間隙を通過することで基底膜側に移行した可能性を示唆するとともに、培養細胞上清中、特に管腔側の培養上清中にGPCの分解を担う酵素活性の存在を明らかにした。Caco-2細胞でのGDE5の機能解析を行うことを目的としてGDE5 mRNAに対するsiRNAを導入し、GDE5 mRNA量の低下を確認した。GDE5 floxマウスとvillin Creマウスとの交配により腸管上皮細胞特異的GDE5欠損マウス(GDE5KOマウス)を作製し、GPCの経口投与を行った結果、野生型マウスと比較して血中TMAO濃度の低下を示したことにより、管腔内での腸内細菌を介さず、宿主由来酵素であるGDE5の活性に基づく新たな代謝経路の存在を見出した。特に細胞内酵素と考えられていたGDE5タンパク質の消化管内でのGPCの分解を担う消化酵素としての生理的役割を示唆するものである。 さらにGPCなどの高含量酒粕の成分解析を遂行し、酒粕を用いた臨床試験について倫理審査委員会で承認を受け、臨床試験の実施まで到達した。
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今後の研究の推進方策 |
1) GPCの吸収・代謝の鍵酵素、および機構の解明 GDE5(Gpcpd1)をglycerophosphocholine(GPC)分解の鍵酵素とする仮説を立て、ゲノム編集法により作出したGDE5 floxマウスとvillin Creマウスとの交配により腸管上皮細胞特異的GDE5欠損マウス(GDE5KOマウス)を作製し、GPC経口投与を行った際の消化管内容物中、および血中choline代謝物への影響を検討する。特にTMAOの前駆体であるtrimethylamine (TMA)濃度の測定系を質量分析法を用いて確立し、測定を行う。同時に、野生型マウスに対して抗生物質を前投与し、腸内細菌量を減少させた後にGPCを投与し、消化管内でのGPC代謝に与える腸内細菌の役割を検討する。さらに、GDE5KOマウスより摘出した小腸組織を用いてd9-GPCの還流実験を行うことで、GDE5の小腸管腔内でのGPC分解へ機能的関与を検討する。 Caco-2細胞の管腔側に添加したGPCは管腔側培養上清中においてcholineへ代謝されることが示されたことから、GPCからcholineへの分解活性についてGDE5 siRNAの形質導入の与える影響を検討する。Caco-2細胞由来のGPC分解酵素の培養上清中への分泌が示唆されていることから、GDE5タンパク質の動物細胞発現vectorを作製し、遺伝子導入することで、細胞内、および培養上清中のGDE5タンパク質の発現解析を行う。 2)GPC供給に効果的な食資源の提案 GPCの高含量型の酒粕のヒトに対する経口試験により得られた血中サンプルの分析を行う。特にGPCやcholineなどの代謝物の解析を行うことで、酒粕の摂取効果の確認を行う。
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