研究課題/領域番号 |
23K21182
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補助金の研究課題番号 |
21H02148 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38050:食品科学関連
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研究機関 | 名古屋大学 (2024) 生理学研究所 (2021-2023) |
研究代表者 |
中島 健一朗 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (70554492)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2024年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2022年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2021年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
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キーワード | 味覚 / 肥満 / ストレス / 代謝疾患 / 精神的ストレス / 視床下部 / 糖尿病 / 不安 |
研究開始時の研究の概要 |
味覚は空腹や満腹など生理状態に伴って変化する。その一方、肥満や糖尿病などのメタボリックシンドロームや心理的ストレスによっても味の感じ方が変わることは経験的に知られている。しかし、そのメカニズムはこれまでのところ、不明な点が多い。そこで、本研究ではマウスをモデルに糖欠乏時・精神的ストレス時の検証を行った結果、様々なストレスに応答することが知られる、視床下部室傍核のコルチコトロピン放出ホルモン産生神経の活動が変化することで、味の感じ方が調節されることを見出した。本研究の成果は疾患によって変容した味の感じ方や食嗜好性を正常化させ、健康を回復させる上で大きく役立つことが期待される。
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研究実績の概要 |
味覚は空腹や満腹など生理状態の変化に伴って調節される。また、肥満や糖尿病などの代謝疾患や心理的ストレスにより味の感じ方が変化することは経験的に知られている。これら多様な原因で生じる味覚の変化はしばしば食生活の悪化につながり、さらなる体調不良を引き起こすきっかけになると考えられているが、そのメカニズムは、ほとんど分かっていない。そこで、本研究ではマウスをモデルに我々が最近見出した空腹に伴い食物を美味しく感じさせる効果を持つ視床下部のアグーチ関連ペプチド産生神経(AgRP神経)を起点とした神経ネットワーク(Fu et al., Nat. Commun., 10, 4560, 2019)に注目し、肉体・精神的疾患により味の感じ方を調節する神経メカニズムを特定することを目的とする。2022年度は心理的ストレスと糖代謝異常の2つのトピックに焦点を当てて研究を実施した。 前者についてはヒトの精神的ストレスのモデルとして知られる社会的敗北モデルを用いてマウスに心理的ストレスを与えた後にリックテストを実施し、味覚を評価した。その結果、苦味など忌避される味の感受性には大きな変化が見られなかったのに対し、甘味に対する嗜好性は高まることが明らかになった。糖代謝異常についてはグルコースアナログであり解糖系の働きを阻害し、糖欠乏状態を引き起こす2-Deoxy-Glucose (2-DG)を用いた検証を行った。2-DGをマウス腹腔内に投与すると摂食の促進が見られた。また、2-DG投与後に活性化している神経を神経活動マーカーc-fosを抗体染色することで探索したところ、これまでにわかっていたAgRP神経に加えて脳幹の複数の神経核が強く活性化することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々のグループはこれまでに、脳基底の視床下部弓状核に局在するアグーチ関連ペプチド産生神経(AgRP神経)を起点とした神経ネットワークが空腹時に活動することで甘味や苦味の嗜好性が変化することを明らかにした。2022年度は空腹や満腹などの生理的な変化だけではなく、精神的な変化が味覚に及ぼす影響について新たに検証を行った。攻撃性の高いICRマウスによる5分間の攻撃後、C57BL6マウスを金属製の仕切りを挟んでICRマウスと同じケージに一晩同居させ、社会的敗北ストレスを与えた。このマウスの味覚をリックテストにより評価したところ、興味深いことに、空腹は甘味に対する嗜好性が高めると同時に苦味の感受性を低下させるのと対照的に、心理的なストレスは苦味の感じ方は正常時と同等であるものの甘味嗜好性だけが高まることを明らかにした。また、代謝疾患のモデルとして、2-DG投与による糖欠乏時の検証を行ったところAgRP神経に加えて脳幹の複数の神経核の活動が特徴的に高まることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
心理的ストレスにより味覚が変化する現象のメカニズムを明らかにするため、空腹による味覚の調節に視床下部弓状核AgRP神経の活動が関与していることを解析した場合と同じく、視床下部室傍核にありストレス応答の引き金として知られるコルチコトロピン放出ホルモン産生神経(CRH神経)の機能に着目して解析を行う予定である。人工的に神経活動を操作できるDREADD受容体を用いてCRH神経の活動を制御すると味覚が調節されるという予備データを得ており、これについてさらに詳細な解析を実施する予定である。また、空腹時と心理的ストレス負荷時に共通に活動が変化する脳部位がないかどうかについて比較を行う。一方、代謝疾患と味覚の関係を調べる研究については2-DGおよび糖尿病モデルマウスでの味覚評価実験を実施し、AgRPを起点とした味覚調節の神経ネットワークの中で活動レベルが正常とは異なる部位がないかどうかを探索する予定である。
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