研究課題/領域番号 |
23K21207
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補助金の研究課題番号 |
21H02217 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39060:生物資源保全学関連
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
大泉 宏 東海大学, 海洋学部, 教授 (30366009)
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研究分担者 |
中原 史生 常磐大学, 人間科学部, 教授 (10326811)
吉岡 基 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (30262992)
北 夕紀 東海大学, 生物学部, 准教授 (30710917)
三谷 曜子 京都大学, 野生動物研究センター, 教授 (40538279)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
2025年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2024年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2021年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
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キーワード | シャチ / 北海道 / 個体群動態 / 加入状況 / Orcinus orca / 北海道東部海域 / 個体識別 / フォトグラメトリー / 呼気飛沫由来DNA |
研究開始時の研究の概要 |
北海道東部海域は現在日本で唯一知られるシャチの定期的な回遊水域である。我々はそこでこれまでに約500頭のシャチを個体識別してきたが、個体群の動態は分かっていない。本研究では主要な回遊海域である根室海峡においてシャチの個体群動態を予測する基本データの整備を開始し、保全的取り組みを視野に入れた今後の長期研究に向けてその基盤を構築する。よって、本研究では北海道沿岸のシャチについて個体識別を行い経年的な加入と死亡および成長率の推定を行うと共に、親仔関係を中心にした個体の血縁関係の特定を行うために非侵襲的DNA採取法の開発する。将来的にはシャチの加入率変化は生態系変動の指標となっていくことも期待される。
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研究実績の概要 |
本研究では根室海峡のシャチの若齢個体の加入状況と個体間の血縁関係を調べ、個体群動態の予測に必要な情報を得る。その目的を達成するために、仔の個体識別と経年的追跡、仔の成長推定、親仔関係の推定の三つを研究の柱として行う。本年度には2016年以降のデータによる仔の経年追跡、長期観察個体の性別・成熟判定、ドローンによる高精度の体長データの収集、呼気DNAのフィールドでの採集と分析を計画した。 根室海峡の現地調査は5月と6月の2回行った。どちらの調査でも多数のシャチが観察され、個体識別写真、呼気 DNA分析用標本等が得られた。しかし、ドローンを用いた観察は機会が非常に限られ、体長測定に関するデータは得られなかった。今年度までに蓄積された個体識別写真を全て年ごとに精査し、登録済み全個体のデータから仔の経年追跡、長期観察個体の性別・成熟判定を行った。その結果、登録個体には現在成熟雄が93頭、成熟雌が33頭、成熟雌の可能性のある個体が20頭、成熟・性別不明個体が202頭、幼児・若齢が100頭含まれると判定された。また、観察群に含まれる個体同士の同伴係数から群れ構造に関する分析を行い、根室海峡に頻繁に来遊する群れは3つに大別され、さらにそれぞれの群れ中に内部構造が存在することも明らかになった。これらの群れの個体の内、繁殖に参加出来る成熟個体は雌雄それぞれ約30頭いると推定された。雄は2016年以降、8年間に16頭が成熟加入したことが明らかになった。幼児・若齢個体は多いが、経年的に再発見された個体は11頭しか見つからなかった。呼気DNA分析では予備実験から選ばれた媒体を使用し、フィールドで手持ちの採取棒および防水ドローンを使用しての採取を試みた。12SrRNA領域において57.1%のサンプルにてシャチ由来配列の検出に成功した。 これらから得られた結果について、学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査:2023年5月9日から13日、および6月21日から22日に根室海峡にて調査を行い、その結果12群のべ133頭の撮影に成功した。防水ドローンと呼気採取棒によるDNA採取にも成功した。 個体識別・加入状況:本年度にこれまでに蓄積されていた識別写真を用い、本研究計画の核心部分である個体の経年的な分析から加入状況に関する重要なデータ得られた。その結果、根室海峡に頻繁に来遊する群れについての個体数の動態を評価する最も基礎的な部分を構築することに成功した。特に現時点で生存している可能性が高い成熟個体の頭数が明らかになったこと、雄については成熟加入の速度が年間2頭程度であることが明らかになったことで、海外の個体群動態に関する研究事例との比較が可能になった。このことは非常に重要な進展であると評価出来る。 成長分析:前年度までに測量用ドローンを用いた高精度の体長測定法を完成できたが、今年度の調査ではドローンを飛行させる機会が非常に限られ、DNA標本採取用ドローンの飛行を優先的に行ったため、体長測定用の撮影を行うことは出来なかった。 DNA分析:呼気DNA分析では、得られたサンプルを直接保存して研究室に持ち帰ることをせず、現場で抽出キットを用いて急速に一次処理をする方法で飼育下での予備実験で得られていた結果とほぼ同様に12S領域の検出に成功した。しかし、おそらく全体的な採取量が非常に微量であることや、シャチに最適化されているわけではない薬品類を使用していることが原因で、12Sという非常に短い領域の検出までしか野生のシャチでは成功していない。そのため、親仔など血縁関係を推定するのに必要な領域の検出にはまだ技術的検討の余地を残している。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度以降も基本的にこれまでの調査で行ってきた事と同様の活動を継続していく。特にこれまでの調査で比較的進展に遅れが見られるドローンによる体長推定に関するデータの蓄積と、呼気DNA分析の方法の見直しと再試行が重要な課題となる。 ドローンの飛行は海況等による制限が大きいが、できるだけ積極的な運用を試み、高精度の体長等計測可能なデータの収集と分析を行う。特に今後の再発見が期待できるような若齢個体と個体識別が容易な個体の撮影に重点を置き、今後の成長推定に必要なデータを取得する。ただし呼気DNA採取目的では非常に低空を飛行する必要があり、背鰭の高いシャチには衝突する危険性も予見された。今後は別の方法を中心に行っていくこととする。それにより飛行機会が限られるドローンの使用は体長測定のための飛行に集中することにする。 また呼気DNA分析では生態型を判断可能なD-loop領域やCyt-b領域の検出に至っていないことから、採取する噴気量の増大やより精度の高い試薬の検討を行っていく予定である。そのため水族館における予備実験を行い、そこから選ばれた媒体と採取器具、薬品類を使用し、フィールドで手持ちの採取棒およびエアーサンプラーを使用しての採取と安定的なDNA保存を試みる。 仔など個体の経年追跡では前年度の研究を継続し、加入定着した個体と経年確認できない個体について情報整備して加入状況に関する検討に必要なデータ蓄積を行う。また、広域的な個体群構造の把握のため、鳴音分析を行う。 これらの活動から今後は特に根室海峡でよく観察される複数の群れについて加入状況について一定程度の評価を可能にすること、体長のデータを得て成長に関する将来の発展的研究の礎を確立させること、群れの構成を血縁関係に基づいて分析する方法の開発を発展させることを目標とする。
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