研究課題/領域番号 |
23K21228
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補助金の研究課題番号 |
21H02264 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40030:水圏生産科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
足立 伸次 北海道大学, 水産科学研究院, 名誉教授 (40231930)
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研究分担者 |
井尻 成保 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (90425421)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2024年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | チョウザメ / 性分化 / 卵成熟 / 排卵 / 卵質 |
研究開始時の研究の概要 |
北海道沿岸で捕獲されるチョウザメの養殖産業化は拡大しつつある。良質卵生産や全雌生産技術を開発することで、キャビア生産が効率化する。本研究では、その基盤となる、チョウザメの性分化、卵成熟、排卵および卵質悪化の分子機構を解明する。また、各ステージに特徴的な多数の分子マーカーを選抜し、それらを利用して、早期性判別、安定的良質卵生産技術およびすべての結果を結集した全雌生産技術を確立する。
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研究実績の概要 |
本年度は下記の3項目について、分子機構解析と関連技術開発を行なった。 1)性分化: チョウザメ類の雌特異的ゲノム領域上に存在する遺伝子のうち、生殖腺で発現する遺伝子を探索し、未分化生殖腺で発現している遺伝子を特定することができ、これが性決定・性分化に関与しているのではないかと考えられた。また、ダウリアチョウザメの遺伝的雄(ZZ)および遺伝的雌(ZW)それぞれにおいて、生殖腺の分化・発達に伴う性分化関連遺伝子の発現変化を調べ、卵巣分化にはfoxl2、cyp19a1aおよび雌型hsd17b1の発現が、精巣分化にはgsdf-1の発現が重要であり、これらの発現の遺伝的雌雄差を初めて明らかにした。さらに、ダウリアでも他チョウザメ種と同様に孵化後5ヶ月前後に形態的性分化が開始しているが、卵成長の開始は他チョウザメ種に比べ非常に遅いと考えられた。 2)卵成熟および排卵:これまで、我々は排卵誘導が成功した個体のみでプロスタグランジン(PG)合成酵素の一種であるprostaglandin G/H synthase 2(ptgs2)がプライミング注射後にmRNA発現が誘導され、排卵能が獲得されることを明らかにしている。そこで、アムールチョウザメ卵濾胞で発現する2タイプのptgs2のクローニングと発現動態解析を行なった。また、PG受容体遺伝子の発現動態も調べた。その結果、卵濾胞が排卵能を獲得する際には、ptgs2aに加えてep3が誘導される能力が備わっている必要があることが示唆された。 3)卵質悪化:これまで、ニホンウナギにおいて、母性mRNA量および局在の差異から、孵化までの胚発生過程で異常が生じる不良卵の分子生物学的特徴の一部を明らかにしている。本年度は、様々な卵質のアムールチョウザメ卵サンプルを追加することができたが、非常に卵質が良い卵は得られていないため、それらのESTdbは構築できていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)性分化:昨年度は、各種純粋種および雑種においてAllWsex2プライマーを用いた遺伝的判別が可能であることは検証できたが、Allwsex2領域の近傍配列の遺伝子は同定できていなかった。しかし本年度は、雌特異的ゲノム領域上に存在する遺伝子のうち、未分化生殖腺で発現している遺伝子を特定することができた。本遺伝子内配列のプライマーを用いることで、すべてのチョウザメ種で偽雄や超雌を特定できる手法の精度をさらに高めることができた。また、本手法により、雑種ベステルの偽雄の子孫の中に超雌を発見することができたことは遺伝的全雌生産に向けて極めて大きな進展である。また、今回初めて遺伝的性判別と生殖腺における性分化関連遺伝子の発現を組み合わせて解析することができ、チョウザメ類の未分化生殖腺における性的二型性遺伝子発現の明確な存在を示すことができた。一方、未分化生殖腺の培養実験については、試験的培養に留まり、結果を得るには至らなかった。 2)卵成熟および排卵:昨年度は、排卵関連遺伝子のうち、Wntシグナルに関与する2個の遺伝子をマーカーとして、排卵誘導前に採卵適期を推定できることを示した。今年度はこれらに加えて、ptgs2aおよびep3がマーカーになり得ることを示し、卵濾胞の排卵能獲得機構の全貌をおおよそ明らかにできた。これにより、安定的良質卵生産技術の確立に向けてさらに前進できた。 3)卵質悪化:昨年度までに様々な卵質のアムールチョウザメ卵を得ることができたが、それらのESTdbを構築するには、非常に卵質が良い卵が必要と思われ、ESTdbは未だ構築できていない。
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今後の研究の推進方策 |
1)性分化:本年度は、雌特異的ゲノム領域上に存在する遺伝子のうち、未分化生殖腺で発現している遺伝子を特定し、本遺伝子内配列のプライマーを用いることで、雑種ベステルの偽雄の子孫の中に超雌を発見することができた。今後はアムールチョウザメを含む各種純粋種および雑種の中から、さらにZW偽雄およびWW超雌の存在を調べる。また、今回初めて遺伝的性判別と生殖腺における性分化関連遺伝子の発現を組み合わせて解析することができ、チョウザメ類の未分化生殖腺における性的二型性遺伝子発現の存在を示すことができた。今後は、遺伝的雄(ZZ)および遺伝的雌(ZW)それぞれにおいて、上記雌特異的遺伝子を含めた性分化関連遺伝子の発現変化を調べる。また、未分化生殖腺を各種ホルモンとともに培養し、発現誘導される遺伝子を調べる。さらに、養殖現場におけるチョウザメ類の遺伝的性判別の実用化を目標として、より簡便で低コストな遺伝的性判別法を検討する。 2)卵成熟および排卵:これまで、卵濾胞の排卵能獲得機構の全貌をおおよそ明らかにした。そこで、今後は排卵能獲得に関与する遺伝子の生体内および生体外における発現動態を調べるとともに、in situ hybridizationにより、その発現部位を特定する。また、それら遺伝子をマーカーとして、安定的良質卵生産技術をさらに改良する。 3)卵質悪化:これまで、様々な卵質のアムールチョウザメ卵を得ることができたが、それらのESTdbを構築するには、非常に卵質が良い卵が必要と思われた。本年度はアムールチョウザメに限らず、良質卵を得て、それらのESTdbを構築する。また、卵においていくつかの母性mRNAの局在が確認可能かを検討する。
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