研究課題
基盤研究(B)
集合管はネフロンの最終部に位置し、最終尿の量、成分、浸透圧を決定する管状の上皮組織である。淡水魚の腎臓は水の排出器官として重要であるが、集合管は水を透過しない状態でイオンを積極的に再吸収することにより尿中の塩濃度を希釈し、水の排出に寄与する。海水魚の腎臓は2価イオンの主要な排出器官として重要であるが、集合管はNaClと水を積極的に再吸収して尿量を減少して2価イオンを濃縮した等張尿を産生して排出する。本研究では淡水魚と海水魚の集合管機能の違いに着目し、顕微鏡下で単離した集合管組織の発現解析データから分子解剖を行い、その分子機構を組織学、細胞生物学、電気生理学などの手法により明らかにする。
集合管は腎小体(ネフロン)の最終部に位置し、最終尿の量、成分、浸透圧を決定する極めて重要な役割を担う管状の上皮組織である。淡水産真骨魚(以下、淡水魚)において、腎臓は水の排出を担う器官として機能する。淡水魚の糸球体は海水魚に比べて多くの原尿を産生し、原尿のブドウ糖やアミノ酸などの栄養成分は近位尿細管により再吸収される。その後、遠位尿細管と集合管が水を透過しない状態でNaClを積極的に再吸収することにより尿中の塩濃度を体液の1/10~1/20程度まで希釈し、水排出に寄与する。海産真骨魚(以下、海水魚)において、腎臓はMgSO4の排出を担う器官として機能する。海水魚の近位尿細管はマグネシウムイオン、硫酸イオン、塩化物イオンを含む水溶液を活発に原尿中に分泌し、この機能は淡水魚や陸上動物の腎臓には見られない性質である。その後集合管は、ナトリウムイオンと塩化物イオンと共に水を積極的に再吸収して尿量を減少させ、MgSO4を高濃度に濃縮した等張尿を産生し、これらの排出に寄与する。これら淡水魚と海水魚の集合管機能の共通性や相違点を担う分子機構や、その性質が環境水の塩濃度変化に応答してどの様に制御され切り替わるかを分子レベルで理解することは、魚類の淡水・海水順応のメカニズムを理解する上で極めて重要な課題であるが、その全貌は明らかでない。本研究では魚類腎臓の集合管の上皮輸送に着目し、淡水魚と海水魚の集合管におけるNaCl の再吸収機構、淡水魚集合管の低い水透過性を維持する分子メカニズム、海水魚集合管の高い水透過性を維持する分子メカニズム、集合管機能制御の分子機構について解明を試みる。本年度は特に集合管の水電解質代謝の制御を担うアクアポリン、ホウ酸排出を担う輸送体、NaCl共輸送体を中心に研究を推進した。
2: おおむね順調に進展している
海水魚・淡水魚の集合管の水透過性を制御する分子メカニズムの解析:海水魚集合管の高い水透過性は、集合管に発現する水チャネル(Aqp)によるものであり、RNA-Seq解析から得られた情報を基に、集合管に高発現するAqpx, Aqpy(仮名)を同定した。特異的抗体を作製して免疫組織化学による解析を行った結果、Aqpxは海水トラフグ集合管のapical膜に、Aqpyがbasolateral膜にそれぞれ存在することを明らかにした。一方、汽水トラフグ腎臓ではAqpxの染色像を得ることができなかった。トラフグ腎臓を用いた定量RT-PCR解析の結果、Aqpxの発現は希釈海水飼育時に1/10に低下することを観察した。これらの結果から、Aqpxのdown regulation及び転写抑制が汽水トラフグの低張尿産生に重要であることが明らかになった。海水魚集合管のホウ酸排出を担う分子メカニズムの解析:海水魚は海水に含まれるホウ酸を濃縮して排出することを過去の研究により明らかにしている。トラフグ腎集合管に発現するSlc4a11Aをアフリカツメガエル卵母細胞に発現させたところ、Slc4a11Aは起電性のホウ酸輸送体であることを見出し、Slc4a11Aが膜電位と細胞内外のpH勾配を利用してホウ酸を尿中に能動輸送する仕組みを明らかにした。またトラフグが持つ16のアクアポリン(Aqp)の中で、Aqp3a、7、8bb、9a、9bの5種がホウ酸輸送活性を有することを見出した。NaCl共輸送体(Ncc)の活性解析:アフリカツメガエル卵母細胞にNccの活性をNa電極やCl電極を用いて測定することに成功した。魚類はNcc1とNcc2を持ち、Ncc2は魚類特異的だと考えられてきた。比較ゲノム解析からNcc2の偽遺伝子を哺乳動物ゲノム中に見出したことから、Ncc2は広く脊椎動物に存在する輸送体であることを明らかにした。
淡水魚集合管の低い水透過性を維持する分子メカニズムの解析:汽水トラフグ腎臓では、basolateral膜のAqpy(仮名)は発現していたが、apical膜のAqpx(仮名)が消失していた。海水から汽水に移行した時に見られるAqpxのdown regulationをタンパク質レベルであきらかにするために、ウェスタンブロッティングを試み、また同時に作製した抗体の特異性を慎重に評価する。ウェスタンブロッティングが成功したら、Aqpxのdown regulationにおけるリン酸化やユビキチン化の関与を免疫沈降法により解析する。Aqpのホウ酸輸送活性を担う分子メカニズムの解析:トラフグAqpの解析から、魚類はホウ酸を輸送するアクアグリセロポリンと輸送しないアクアグリセロポリンを持つことを見出した。これらのアミノ酸配列の比較から、アクアグリセロポリンによるホウ酸輸送に必要な構造を明らかにする。NaClの再吸収機構の解析:淡水魚や広塩性魚類の集合管、及び淡水魚・海水魚の膀胱にはNaCl共輸送体(Ncc)が高発現し、NaClの再吸収に寄与している。Nccの活性をアフリカツメガエル卵母細胞で測定する技術を確立する。またNccの活性が淡水順応ホルモンとして知られるプロラクチンにより制御される仕組みについて、プロラクチン受容体との共発現系の構築により解析を試みる。海水魚の集合管においては、Na-K-2Cl共輸送体2(Nkcc2)が高発現し、NaCl再吸収の主要な経路になっている。Nkcc2の活性維持に必要なK channelの候補としてKcnX(仮名)を同定している。KcnXとNkcc2が集合管のapical膜上に共局在することを免疫組織化学により明らかにし、新たなNaCl再吸収機構の分子モデルを提案する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件) 備考 (5件)
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https://www.titech.ac.jp/news/2022/065516
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