研究課題/領域番号 |
23K21236
|
補助金の研究課題番号 |
21H02285 (2021-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
植木 尚子 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (50622023)
|
研究分担者 |
隠塚 俊満 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(廿日市), 主任研究員 (00371972)
小原 静夏 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(廿日市), 日本学術振興会特別研究員 (10878276)
近藤 健 地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所(環境研究部、食と農の研究部及び水産研究部), その他部局等, 主査 (70883065)
小池 一彦 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (30265722)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2021年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
|
キーワード | 赤潮 / 植物プランクトン / 海洋細菌 / リン欠乏条件 / 細菌貪食 / 細菌 / 栄養塩 / 赤潮原因藻 / 代謝補完 / リン欠乏 / 栄養代謝 / 環境細菌 / ヘテロシグマ / 環境動態 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、自然界での赤潮発生に必要な栄養条件形成および赤潮原因藻による栄養代謝に、環境細菌が貢献する可能性を追求する。本研究の成果は、海洋における細菌・藻類を含めた栄養代謝・循環の理解をもたらすとともに、新規な観点からの赤潮発生機序の解明に向けた展開への端緒を開く。特に、本研究で既に明らかになった、リン欠乏条件下における赤潮原因藻の細菌貪食による増殖促進は、海水中の溶存栄養素とは別に、赤潮原因藻の増殖に必要な栄養素が細菌貪食によって補完される可能性を示している。本研究は、これまで見逃されてきた細菌物質代謝能の重要性に着目した点が独自性が高く、新たな発想に基づいた赤潮防除技術の開発につながる。
|
研究実績の概要 |
本研究は、赤潮発生に必要な栄養条件の形成における環境細菌の役割解明を目指す。赤潮発生は、窒素、リン、鉄などに制限され、これらが高濃度に達する場合に赤潮が発生するとされる。一方、赤潮原因藻を自然界での赤潮に匹敵する密度まで培養するには、自然界での実測値に比べて高い濃度の栄養塩が必要となる。また、培地中の栄養塩は、藻類に利用されやすい形態である一方、環境中には藻類が直接利用できない形態の物質を多く含む。つまり、赤潮形成には、全必要栄養素が自然界ではほとんど観測されない高濃度で揃う必要があることから、自然界で、赤潮原因藻は、どのように赤潮形成に必要な栄養素を獲得するのか?という点に疑問が湧く。本研究は、環境中の細菌が、赤潮原因藻増殖に必要な栄養摂取を補完する可能性に着目し、赤潮原因藻の一種ヘテロシグマの増殖を栄養欠損 下で可能にする細菌の同定と、その機序解明を目指す。 現在まで、ヘテロシグマ赤潮を採取し、溶存栄養濃度を測定し、ヘテロシグマ随伴細菌を単離同定した。また、赤潮が発生している海域の底泥中の細菌が、ヘテロシグマ栄養摂取に貢献する可能性に着目して、海底泥より細菌を単離した。その結果、ヘテロシグマに随伴する細菌及び底泥中の細菌について、異なるサンプリング地点より数種の共通した細菌種が単離された。特に、ヘテロシグマと共存することで、可溶性鉄の欠乏を補完する、Siderophore産生能を持つ細菌が数多く単離された。また、底泥中より、リン欠乏下でヘテロシグマ増殖を促進する細菌を二種単離した。 Siderophore産生細菌が、藻類の鉄取り込みを促進するという報告は多数ある。一方、リン欠乏条件下で藻類増殖を促進する細菌についての報告は存在しないため、特に重点を置いて研究を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘテロシグマ随伴細菌で、かつ siderophore産生能を示す細菌を26株単離した。また、海底泥中より単離した細菌のうち、Vibtio comitansと推察される株がリン欠乏培地でヘテロシグマ増殖を促進することが明らかになった。興味深いことに、V. comitans とともに、同じビブリオ属細菌であるV. owensii やV. rotiferianusなども単離されたが、これらの細菌は、ヘテロシグマ増殖効果を示さなかった。つまり、近縁種にもかかわらず、V. comitansは種特異的に、リン欠乏条件下でヘテロシグマ増殖を促進するらしいことが明らかになった。V. comitansは、好気性条件・嫌気性条件ともに増殖する。V. comitans中の、ヘテロシグマが利用する含リン物質を同定する一助として、異なる培養条件にて培養したV. comitansを添加してヘテロシグマと共培養を行ったところ、嫌気性条件で生育したV. comitansが、好気性で生育したV. comitansよりも、ややヘテロシグマ増殖促進能が高いことが明らかになった。現在のところ、ヘテロシグマ増殖に関わる含リン化合物は、無機ポリリン酸ではないかと推察している。そこで、V. comitans中の無機ポリリン酸の検出・定量を試みたが、こちらは未だ検討を続けている。また、無機ポリリン酸を生合成する酵素として、ポリリン酸キナーゼが知られている。V. comitans、V. owensii 、V. rotiferianusの、既に発表されているドラフトゲノム配列を検索したところ、全ての細菌がポリリン酸キナーゼ遺伝子を持つが、サブタイプが異なることが明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、まずヘテロシグマが、どのようにV. comitansと相互作用して、リン欠乏条件下で増殖するかについて詳細に検討を進める。現在のところ、私たちは、ヘテロシグマがV. comitansを貪食する可能性に着目している。ヘテロシグマは、細菌貪食能を示すと言われているが、発表されているデータに未だ疑いを挟む余地があり、この点の検討に着手する。また、もしもヘテロシグマが細菌貪食することが確認できた場合には、次に、ヘテロシグマの増殖を促進するV. comitansと、促進しない V. owensiiとV. rotiferianusが貪食されるか、されないかについて検討する。全て貪食される場合には、V. comitansのみが保有する物質が、ヘテロシグマ増殖を促進していると考えられる。一方で、 V. owensii 、V. rotiferianusは貪食されず、V. comitansのみが選択的に貪食される場合には、三種のバクテリアが共通に保有する含リン物質が、ヘテロシグマ増殖を促進する可能性が考えられる。この点をまず検討する。また、ヘテロシグマが細菌を貪食する場合に、暗所で培養しても増殖するか、それとも光合成条件下で培養しなければ貪食しないかについて検討する。前者であれば、ヘテロシグマが細菌貪食により、従属栄養的に、増殖に十分な栄養を摂取することができることを示しているが、光合成が必要な場合には、貪食した細胞に含まれる物質を、光合成により同化することでヘテロシグマ増殖が実現すると考えられる。どちらにしろ、細菌貪食の結果として藻類が増殖するという報告はないため、ヘテロシグマ生理の理解を進める上で重要な知見となる。
|