研究課題/領域番号 |
23K21301
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補助金の研究課題番号 |
21H02455 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43040:生物物理学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
大岩 和弘 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所, 主管研究員 (10211096)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
13,260千円 (直接経費: 10,200千円、間接経費: 3,060千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2021年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 鞭毛・繊毛 / ダイニン / 顕微操作技術 / X線回折 / 試験管内機能再構築 / 鞭毛 / 精子 / キイロショウジョウバエ / 細胞運動 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、キイロショウジョウバエ精子鞭毛が示す双方向性の鞭毛波形成と伝播の解析を通して、真核生物の鞭毛運動に普遍的に存在する屈曲形成・伝播メカニズムを明らかにする。軸糸構造やその長さ、波形形成に豊富なバリエーションがある昆虫の精子鞭毛の中で、キイロショウジョウバエの精子鞭毛に着目する。その長短2種類のらせん波が重層した鞭毛波のCa2+依存的な両方向性伝播と、クラミドモナス鞭毛運動のCa2+依存的波形変化との共通項を探り、数理モデル化を通して鞭毛波形成と伝播の普遍的原理の解明に挑む。鞭毛波形成メカニズムの解明にとどまらず、昆虫の受精における鞭毛運動の役割の基礎的知見を与えるものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、キイロショウジョウバエ精子鞭毛が示す双方向性の鞭毛波形成と伝播の解析を通して、真核生物の鞭毛運動に普遍的に存在するメカニズムを明らかにするもので、以下の3課題に取り組んできた。既に課題1,2については、論文投稿や論文発表を完了し、本年度の実験の中心はキイロショウジョウバエ精子鞭毛の屈曲波の3次元波形解析となった。 1.軸糸のらせん対称性に起因する波形メカニズムのX線繊維回折による解明 2.自律的振動創発の必須要素の同定とメカニズムの理解 3.キイロショウジョウバエ精子鞭毛における屈曲波の両方向性伝播メカニズムの解析: この課題では、キイロショウジョウバエの精巣から運動性のある精子を採取して、位相差顕微鏡を使ってその動きを観察、高速カメラで撮像した。オフラインで波形のパラメータを決定した。鞭毛波は、左巻きのマイナーらせん波(周波数20-30Hz、波長=約28.1 ± 4.2 μm、振幅=6.2 ± 2.0μm)が左巻きのメジャーらせん波(周波数=2-3Hz、振幅=60μm)に重層したものであった。キイロショウジョウバエの精子単一鞭毛軸糸からのクライオマイクロ回折法を用いて記録したX線回折パターンは離散的な18回転対称の反射であり、軸糸が少なくとも観察領域200μmではねじれがないことを示している。軸糸自身にねじれがない状態でらせん波を作り出すとすれば、ダブレット微小管間の相対的滑りを引き起こすダイニン活性が、長軸に沿ってらせん的に移動することでらせん状屈曲波を発生させる可能性が示唆される。この仮説検証のために、局所的活性化を行うiontophoresis実験系のための刺激装置を導入して顕微操作を行える準備を進めた。鞭毛波の伝播に対する局所刺激の影響を明らかにするものであり、先行研究の記載の通りに両方向性の波の伝播があれば、刺激に対する応答に対称性があることが予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.X線繊維回折による軸糸のらせん対称性に起因する波形メカニズムの解明:シンクロトロン放射光(SPring-8, BL-40-XU)によるX線回折解析実験を完了して、クライオ電子線トモグラフィーの電子線密度から計算される回折モデルとの対応を確認している。基本構造周期96nmの高次反射の層線強度プロファイルがCa2+濃度に応じて変化することとらせん対称性の関連を確認しており、らせん対称性がダイニンの運動活性制御に関わる結果鞭毛波形を変化させるとする数理モデル化を進めた。また、本実験で用いた鞭毛を流動配向させる装置に関する論文を投稿した。汎用性のある手法であり、この論文の採択は大きな影響があると考える。 2.自律的振動創発の必須要素の同定とメカニズムの理解:鞭毛断片から重合させた微小管束に、鞭毛から粗抽出した外腕ダイニンを加えることで自己組織化させた構造を「シントネーム」と命名して論文発表した。これを用いて、ATP存在下で繰り返し座屈する様子を計測するとともに、束化を促進する試みを行った。この束化によって、屈曲周波数の向上が確認されている。研究成果を基礎にして新たな課題を明らかにできた点で重要な知見と考える。また、これまでに獲得した技術を使って関連論文を発表したことも重要な成果である。 3.キイロショウジョウバエ精子観察システムの構築:内部構造と鞭毛波パターンが多種多様である昆虫の精子鞭毛、特に、長さ2ミリメートルという非常に長い鞭毛を持つキイロショウジョウバエの精子に注目してきた。精巣から精子を分離し、位相差顕微鏡を使ってその動きを観察して、高速度カメラで運動を記録した。鞭毛波のパラメータを明らかにした結果を、国際学会等で発表できた。また、以前行ったX線回折法のデータをもとに、らせん波発生のメカニズムに関して新たな仮説を提唱できたことは大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
1.X線繊維回折による軸糸のらせん対称性に起因する波形メカニズムの解明:シンクロトロン放射光(SPring-8, BL-40-XU)によるX線回折解析実験は完了したので、集積したデータの解析と数理モデルの精緻化を進めて、論文を投稿する。 2.自律的振動創発の必須要素の同定とメカニズムの理解:再構成実験に関しては、微小管束の架橋条件を変化させた場合の振動挙動変化を網羅的に検証する。座屈周波数とばね要素の弾性係数との関連から、ダイニン列の活性化不活性化のメカニズムに迫る知見を得る。 3.キイロショウジョウバエ精子観察システムの構築:これまでの実験では鞭毛の活性化率が高くはない。これには、何らかの精子の運動の制御機構が働いていることが示唆される。他種の昆虫精子を用いた先行研究をもとに、精子を軽微なプロテアーゼ処理などの方法を導入して活性化率を上げる試みを進める。また、界面活性剤を用いて脱膜標品を作成して、iontophoresisによる局所活性化やガラス微小針による微細顕微操作による鞭毛の屈曲伝播の変化を観測する実験を行い、らせん的活性伝播の仮説証明に向けた取り組みを進める。
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