研究課題/領域番号 |
23K21324
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補助金の研究課題番号 |
21H02531 (2021-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2021-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44050:動物生理化学、生理学および行動学関連
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構直轄研究施設) |
研究代表者 |
曽我部 隆彰 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構直轄研究施設), 生命創成探究センター, 准教授 (70419894)
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研究分担者 |
長尾 耕治郎 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (40587325)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2021年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
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キーワード | 温度受容 / ショウジョウバエ / TRPチャネル / 脂質 / 温度走性 / 種間比較 / 脂質制御遺伝子 / 行動解析 |
研究開始時の研究の概要 |
環境温度を正しく受容するメカニズムとして、これまでにTRPチャネルなどの温度感受性タンパク質の寄与が報告されてきたが、それ以外のメカニズムはよく分かっていない。本研究では、時空間的に流動的な膜脂質へのアプローチとして脂質制御遺伝子という安定的要素を出発点にし、ハエの温度選択行動と脂質分析から脂質分子を同定してその機能に迫る。温度応答における脂質の働きを個体、細胞および分子レベルで解析することで、脂質とタンパク質の協働による温度受容プロセスを解き明かす。本研究の成果から、これまでのタンパク質を中心とした研究に脂質という新たな着眼点を与えることが期待される。
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研究実績の概要 |
本研究ではショウジョウバエの温度受容と温度走性、さらに機械刺激受容と応答の制御に関わる脂質関連遺伝子について、まずキイロショウジョウバエ(D.mel)で機能的関与を明らかにし、同時にD.mel近縁種間での温度選好性の違いを脂質異存的なメカニズムの違いで説明しようとするものである。 1.ショウジョウバエ変異体を用いた温度走性解析から同定したいくつかの脂質代謝遺伝子のうち、変異体の表現型が最も顕著だったアシルグリセロールアシル転移酵素AGAT(3種中の2種)と、それに関連した温度受容体Ionotropic receptorについて低温への集積について詳細な解析を進めた。また、キイロショウジョウバエ近縁種3種(D.mel、D.sim、D.moj)の温度走性と脂質組成、さらに温度受容に関わる遺伝子発現について解析するためのゲノム配列の解析を進めた。 2.感覚神経に発現量の多い脂質関連遺伝子の候補のうち、エーテル脂質の合成に関わる遺伝子について詳細な解析を進めた。エーテル脂質を持たないS2細胞に合成能を与えた細胞株を樹立し、TRPA1やPiezoイオンチャネルの活性に対する脂質の影響を電気生理学的手法で評価した。さらに、エーテル脂質が細胞膜の物理化学特性に与える影響について表面スキャンや蛍光プローブによって評価した。 以上の結果から、感覚機能が膜受容体そのものの機能に加えて、膜脂質によっても制御されていることが示され、新たな感覚機能の制御メカニズムの理解が進んだ。また、個体の温度走性と膜脂質組成の関係性についても新たな知見が得られた。上記の成果の一部について、2024年3月に北九州で開催された第101回日本生理学会大会などにて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 低温集積を示すAGAT2変異体について、Ir25aやIr21aを発現する頭部の低温受容神経でノックダウンすることで低温への集積が見られ、野生型遺伝子やヒトのMGAT遺伝子の特異的過剰発現で表現型がレスキューされた。AGAT2はIr21a陽性神経の一部に共発現することを突き止めた。低温受容神経においてGCaMPレポーターを使ったCaイメージングを実施し、低温刺激によるCa上昇が変異体では低下することと野生型遺伝子の発現で応答が回復することを明らかにした。この応答低下がIr25aとIr21aの発現量の低下に起因すること、さらにその遺伝子発現調節に関わる転写因子の一つを同定した。 また、近縁種3種(D.mel、D.sim、D.moj)の温度走性を評価し、全身の脂質組成について解析を始めた。このうち飼育の難しかったD.mojの飼育条件を最適化し実験に使用できるレベルまで繁殖させた。3種の飼育温度を22℃~27℃の間で3点設定し、それぞれで幼虫の発生段階を評価して行動解析に最適な飼育時間を決定した。また、発現解析に向けて定量PCRのための各遺伝子のプライマー設計を進めた。 2. ショウジョウバエS2細胞にエーテル脂質合成能を与えた安定発現株、および前駆体を培養液に添加する系を樹立し、TRPA1を発現させてパッチクランプ法で解析したところ、エーテル脂質の存在下で活性化温度の変化を見出した。PIEZOチャネルを発現させたところ、機械刺激応答の増強が観察された。さらに、エーテル脂質を含むS2細胞の細胞膜をAFMプローブでスキャンし、ヤング率(弾性)が上昇することを見出した。蛍光プローブを用いて膜の流動性を評価したところ、エーテル脂質が流動性を上昇させることも分かった。これらの結果をまとめて雑誌に投稿するとともにオンラインサーバー(BioRxiv)に公開した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた温度走性異常を示す脂質代謝遺伝子のうち、AGAT2、AGAT3、エーテル脂質合成酵素AGPSに注力して解析を進める。AGATについては、近日中に結果をまとめて国際雑誌への投稿を予定している。エーテル脂質合成遺伝子AGPSについては、投稿雑誌におけるレビューに対応するための追加実験の準備を進めている。またD.mel近縁種については、近縁3種(D.mel、D.sim、D.moj)の温度走性について飼育温度に依存した変化を評価つつ、それぞれの条件において全身および中枢神経サンプルを収集し、膜脂質組成解析を実施する。特に脂肪酸の不飽和度やエーテル脂質の量について比較を行う。同時に、温度応答に関わる各種遺伝子(TRPチャネル、ロドプシン、リパーゼ、AGAT、IRなど)について、定量PCRを用いた発現解析を進める。温度応答、脂質組成、および関連遺伝子の発現の相関から、種間で異なる温度走性のメカニズムの解析を進め、論文投稿を目指す。 これら以外で同定した遺伝子群(末梢感覚神経で高発現していた50種以上の脂質制御遺伝子)についても、特に機能的に関連性の高い遺伝子群の個体での温度走性評価を開始する。
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