研究課題/領域番号 |
23K21902
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補助金の研究課題番号 |
22H00630 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
港 千尋 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (40407820)
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研究分担者 |
香川 檀 武蔵大学, 総合研究機構, 研究員 (10386352)
山城 知佳子 東京藝術大学, 美術学部, 准教授 (20937932)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
13,260千円 (直接経費: 10,200千円、間接経費: 3,060千円)
2025年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
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キーワード | 記憶と美術 / 平和学習 / 触覚的体験 / 美術教育と社会活動 / 痕跡と記憶 / 現代美術のアーカイヴ化 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、現代美術の社会的取り組みとして注目を集める「記憶の継承」の機能について、美術に携わる〈制作-研究-教育〉の3者の視点を有機的に結びつけ、次世代への継承に向けた新たな方法論を構築する。そのため、まず現代美術家・岡部昌生の創作活動を対象とし、岡部が長年実施してきたワークショップ資料、制作プロセスの記録や各種作品をデジタル・アーカイブの手法で整理・解析し、〈制作〉を〈研究〉や〈教育〉へと媒介するために有効かつ必要な美術アーカイブ論を深化させる。さらに現代美術を広義の教育に活用している国内外の事例を調査し、今後発展が期待される参加型教育のためのメソッドを構築する。
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研究実績の概要 |
本研究のテーマは近年、現代美術の社会的取り組みとしても注目される「記憶の継承」である。初年度の基礎調査を経て、2年目にあたる2023年度は東アジアにおける岡部昌生の活動に焦点を定めて、制作とワークショップを台湾および韓国で記録し、東アジアの近現代史と記憶の問題について、現地で意見交換の場を設けることができた。具体的には研究代表者が6月から8月にかけて開かれた台湾史上最大の芸術祭「浪漫台3線国際芸術祭」の国際部門キュレーターとなり、合わせて参加作家として岡部昌生が選ばれたことによって、昨年度の研究期間に制作したシリーズ『石ニ聴ク』(2023)を、国際的な場で発表することができた。一般対象のワークショップと特別制作が実施され、フロッタージュの手法が文化の違いや現代美術の枠組みを越え、多くの参加者の共感を得ることが可能であることが確認できた。 いっぽう韓国でも、済州島とソウルで開催されたグループ展に岡部が参加して、戦争の歴史から想起の場を作り出す方法としてのフロッタージュが紹介される機会となった。展覧会はいわゆる「済州島四・三事件」の祈念事業のひとつとして続けられてきたもので、他の参加アーティストやキュレーターとの意見交換を通じて、現代美術の平和教育の実践を知ることができた。 これら2カ国における事例を地元の北海道に持ち帰り、根室の旧牧の内飛行場でインタビューを収録するとともに、札幌で研究会を開催した。研究会では「浪漫台3線国際芸術祭」のディレクターが基調講演を行うとともに、ワークショップが開催された地元である台湾客家の文化を紹介することができた。沖縄からパラオへの慰霊訪問団の調査(山城)と石巻の震災津波遺構と慰霊施設の調査(香川)もあわせて、本研究のテーマである過去をどのように共有し、記憶を未来へ繋げてゆけるかという課題が明確になってきたように思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定どおり、国内ではライフワークの広島と並んで、重要な仕事である東日本大震災関連の作品とワークショップの記録を調査した。特に福島県立博物館の協力により、10年におよぶ被災地での制作作品の膨大なデータと、ワークショップの記録の提供を受けることができた。 国外ではまず台湾で市民と学童の参加によるワークショップを2か所で開催し、これを記録することができた。地元の共同体やメディアの協力もあり、大きな成功を収めることができた。これらの成果の一部を札幌で開催された研究会で展示発表し、特に「樹木」のテーマをめぐって台湾側との議論ができた。次に韓国の済州島では、日本統治下に帝国陸軍によって建設され、第二次世界大戦時には爆撃機の基地として使用された、旧アルトゥル飛行場での作品制作を記録した。済州島での制作は、岡部の生まれ故郷である根室に残る、旧牧の内飛行場に残る戦争遺構につながることから、根室と釧路でも制作とインタビューを行った。済州島とソウルで開かれたグループ展への出品作は、根室の旧滑走路に残る人夫の足跡痕を摺り取ったシリーズであるが、この作品をめぐって韓国の歴史家や批評家と有意義な意見交換ができた。 研究分担者はそれぞれ震災遺構と現代美術の関わり、太平洋戦争の戦跡における慰霊団の記録を行いながら、今年度の研究計画である、東アジアにおける現代美術と平和の取り組みについて、多くの知見を得ることができた。また今年度はアーカイブに動画記録を含めることを前提に、撮影を行った。特に済州島と根室では地元の協力により、写真、ビデオ記録と合わせてドローンによる空撮を行うことができた。 岡部昌生氏からは、1970年代以降の新聞や雑誌をはじめとした多くの資料をはじめ、研究論文のデータの提供を受けることができた。進捗状況は概ね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年に行った記録とデジタル化をベースに、今年度はデジタルアーカイブ化に着手する。具体的には多摩美術大学アートアーカイブセンター(AAC)が制作した「アーカイバー」と呼ばれる検索システムを利用して、岡部作品を中心にワークショップの記録写真や論文等を含め、オンラインでの公開を前提としたアーカイブを準備してゆく。英語翻訳を進めながら、国際的に利用できるアーカイブ構築を目指したい。 海外研究者との交流を継続するため、今年度は国際シンポジウムと連動した展示と研究会を企画する。具体的にはフランス文化庁との協力により、平和学習とアートをテーマにしたパネルディスカッションや参考展示などを通して、岡部昌生の原点とも言えるフランスの戦争犠牲者の記憶をめぐる仕事を、同時代の映画作品などと比較しながら検討する。 福島県立博物館の協力により、東日本大震災被災地や北海道旧炭鉱施設での制作とワークショップの記録が提供されたので、今年度はこれをアーカイブ化したい。具体的は作品とテキストをオンライン公開を前提としながら、現地でのインタビューを記録する。 2年間に得られた成果を紀要論文として発表するとともに、電子書籍の形態で読むことの出来るオンラインの報告書を制作する。コロナ終息後に再開した世界の現代美術界は国際情勢を反映して、平和への具体的な取り組みを思考する態度が鮮明である。本研究のテーマも、海外のアーティストや研究者と共有することが大切であると考える。
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