研究課題/領域番号 |
23K21903
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補助金の研究課題番号 |
22H00631 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 法政大学 (2024) 明治大学 (2022-2023) |
研究代表者 |
琴 仙姫 法政大学, 社会学部, 准教授 (30928578)
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研究分担者 |
金 惠信 沖縄県立芸術大学, 美術工芸学部, 教授 (30448948)
矢野 久美子 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (70308394)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2023年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 東アジアの現代美術 / ポストコロニアル / パブリックヒストリー / 政治と美学の相関 / ソーシャリー・エンゲージド・アート / 自己検閲 / 沈黙 / 権力と現代美術 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究『「戦後」を再考する現代美術と東アジアをめぐる実践的研究』は、東アジアにおける「戦後」像の再定義に取り組むパブリックヒストリーを実践している現代美術作家と批評家、研究者、キュレーターとの学際的共同研究である。「平和」という概念と共に「戦後」を歴史化・記念碑化する文脈として美術作品を配置する動きがある一方、歴史的な葛藤に向き合いながら美術で支配的なナラティブを揺り動かす潮流も生まれている。「戦後」という言葉で歴史の流れを中断するのではなく「戦後」の東アジアと現代美術の相関を再考することで、公式・非公式の物語の中で欠けている破片を表面化させ、自己検閲から解放された新たな潮流を共同で生み出す。
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研究実績の概要 |
本研究の概要は、1945年以降を安易に「戦後」だと認識する政治的無意識をあらためて批判的に考察し、学術的アプローチに基盤を置く新たな美術のディスコースを研究者、アーティスト、アクティビストなどの学際的で領域横断的な共同作業により形成することにある。「戦後 (postwar)」という言葉は、世界的に1945年以降の状態を指す言葉として使われているが、世界の多くの地域で戦争は終息していない。「戦後」という言葉を使うことで、地球上のほとんどの地域で平和が達成されたかのような錯覚をもたらし、戦争や紛争に苦しめられている地域の人々は、自らが置かれた悲惨な状況への責任を個人的に負うことが求められている。旧植民地で暴力の残像が社会に未だ大きな影を落としている一方で、美術市場の経済的価値から距離を置く学術的美術理論とポストコロニアル批評に根差したディスコースを形成することは差し迫った責務である。2022年度には「戦後」の概念と美術史との相関を文書や文献を通して研究し、定期的な議論を活発に進めながら3年目に企画している国際展覧会・シンポジウムの内容と方向性を徐々に特定していく作業を行った。「戦後」をリフレーミングするというテーマを再考し、敢えて東アジアの現地調査から始めるのではなく、欧米のビエンナーレなどの国際展:ドクメンタ15、ベルリン・ビエンナーレ、ヴェネチア・ビエンナーレを視察することから始めた。また、南アジアでの実践を調査するためにインドでの展示会と現代美術施設の現地調査、資料収集を行った。欧米や南アジアの美術施設での実践を調査し、日本の美術界が置かれている現状と比較検証した。 アメリカでは現地の東アジア研究所や学者たちと連携し、シンポジウム、展示会、上映会に登壇することなどを通して議論を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) ヨーロッパの国際展を視察:ドイツのドクメンタ15、ベルリン・ビエンナーレ、イタリアのヴェネチア・ビエンナーレを視察し、ヨーロッパを中心とした国際展示会の現状についての調査を行った。 (2) インド・デリーでの現代美術の研究調査を行い、主にDelhi Art Weekに参加している美術館とギャラリーを訪れ、展示会を観覧した。政府が運営するアーティスト・イン・レジデンスの施設であるLalit Kala Akademi Garhi Regional Centreでは、アーティストへのインタビューを行い、Khoj Studios(現代美術センター)では、ディレクターのPooja Sood氏らによりKhoj Studios設立当初から現在に至るまで詳細な話をインタビューで聞くことができた。資料による調査と、施設の見学も行った。 (3) アメリカのカリフォルニアとニューヨークを訪れ、美術館・ギャラリーの動向を調査した。カリフォルニア大学の4キャンパスの学者と連携し、東アジア学と映像・アートの研究についてディスカッションと交流を行った。ニューヨーク州のコーネル大学では研究協力者のレベッカ・ジェニスンらと、美術館と東アジア研究所共同開催のシンポジウムに参加し、ブレット・ド・バリー氏や酒井直樹氏などの学者と議論を深めることができた。 欧米での国際展示会の調査では、南北問題、移民問題、人種差別、ポスト植民地論、紛争の問題など、政治社会的なイシューを扱った作品が多かったことが印象に残る。今回のヨーロッパとインド、アメリカでの調査研究により、世界的な現代美術の国際展覧会の最新の現状と動向を知ることができ、科研プロジェクトの2年目から始まる作品制作と、3年目に開催される展示会の構想のために不可欠であった大きなインスピレーションと刺激を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
美術館とそこでの展示は人々に芸術は何なのかを指し示す重要な戦略機関であり アートの知識を生産し普及する場でもある。一連の思想や記号言語が提示されると、それらが観客を馴化し「正常化」する。何が価値のあるアイデアであり、重要な芸術作品であり、賞賛されるべきものなのかという意識を浸透させる。この馴化のプロセスが 展覧会をプロデュースするキュレーターやアーティストの自己検閲の影響を受けているとしたら、インスティテューションでの展示から取り除かれた断片的な破片たちは、無数のかけらからなるある種の「沈黙」を形成することになる。しかし、目に見えない圧力のために、多くの文化生産者たちはこれらの「沈黙」に直面するよりも、むしろそれを避ける傾向にある。一方で、アーティストは隠喩や換喩を使いコード化された作品を作ることができるが、美的な選択からではなく、自己検閲としての高度な暗号化と抽象化が進むと、生み出された作品を観客が解読できずに十分なコミュニケーションがとれない事態が生じる。本研究が照らし出そうとする側面は、このような支配的な芸術のコンテキストから周縁化させられた美術におけるディスプレイスメント(displacement)の問題を検証し論じることである。影響力の強すぎる市場価値と、それに牽引される美術界の関係を再考し、政治と美学の相関を具体的な例を検証しながら解き明かす。同時に、文化の支配に異議を示し独自の抵抗の文化を生み出してきた現代美術作家たちにフォーカスを当て、彼らの実証的研究に即しながら、作品をめぐる言葉と思想を明示化することを目指す。プロジェクト3年目にはアーティストと研究者を招聘し、学術的美術理論を基盤とした展示会とシンポジウムを開催し、プロジェクトの最終年度である4年目には研究成果として書籍を出版する。
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