研究課題/領域番号 |
23K21929
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補助金の研究課題番号 |
22H00657 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
呉人 惠 富山大学, 人文学部, 名誉教授 (90223106)
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研究分担者 |
堀 博文 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (10283326)
児倉 徳和 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (70597757)
江畑 冬生 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (80709874)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2026年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2025年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
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キーワード | 環北太平洋域 / 地域類型論 / 危機言語 / 形成プロセス / 系統と類型 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,2018年に設立された日本北方言語学会を母体とし,シベリアから北米北西部にまたがる環北太平洋域に分布する先住民諸言語(ENAL)を研究対象とする。研究では,ENALの類型的・系統的多様性を生み出してきた言語接触の様々な痕跡や,歴史的背景を解明することにより,地域類型論の構築を目指す。具体的には,①各メンバーの専門言語(シベ語,トゥバ語,コリャーク語,ハイダ語)の文法記述,②日本北方言語学会第7回大会開催,③学会誌『北方言語研究』刊行,④学会会員の資料刊行支援などを行なっている。国内外の学会員も約100名に増え,その活動は国内のみならず国外にも着実に認知されてきている。
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研究実績の概要 |
本研究は,日本北方言語学会を母体とし,シベリアから北米北西部に分布する先住民諸言語(ENAL)を対象として,ENALの類型的・系統的多様性の背後にある,言語接触のプロセスの様々な痕跡を探るための地域類型論の構築を目指す。平成4年度は,①各メンバーの専門言語の研究,②日本北方言語学会第5回大会の開催,③学会誌『北方言語研究』13号の刊行,④学会会員の言語資料刊行支援を計画し,これらの事業を実行することができた。学会員もさらに増え,その活動が国内外に認知されてきている。 ①について:呉人は,コリャーク語の語類設定の諸問題に取り組み,その成果のひとつを不定詞の位置づけに関する論考(呉人 2023)として発表した他,ENALの系統関係に関するFortescue (1998)を検証した(呉人 2022)。堀はハイダ語の類別詞に関する考察(Hori 2022),ハイダ語の系統に関する考察(堀 2022)を発表した。江畑は,サハ語,トゥバ語の副動詞(江畑 2022),WH疑問文(Ebata 2022),トゥバ語の受動(江畑 2023),サハ語,トゥバ語,キルギス語の時制(江畑 2022)など広範な文法現象について発表した。児倉は,シベ語の通時的発展解明のため,17c前半の古典満洲語の行政文書の転写・翻訳を作成した他(児倉他私訳編 2023),シベ語のテンス・アスペクト形式の発展と借用について音韻的振る舞いをもとに論じた(Kogura 2022)。 ②について:2022年11月26-27日に,静岡大学での対面とオンラインを併用して第5回大会を開催した。全12件の研究発表がおこなわれた。 ③について:2023年3月に『北方言語研究』13号を刊行した。全14本の論文・資料が採択され掲載された。 ④について:『北方言語研究別冊』として,山田祥子氏の『エウェンキー語音声資料』(CD付)を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「おおむね順調に進展している」と自己評価するのは,「研究実績の概要」で述べたように,当初計画していた①各自の専門言語の研究,②日本北方言語学会第5回大会の開催,③学会誌『北方言語研究』13号の刊行,④学会会員の言語資料刊行支援をすべて計画通り実行することができたためである。 とりわけ,日本北方言語学会の研究成果である第5回大会では12件の研究発表,『北方言語研究』13号では14本の論文・資料の掲載が実現し,コロナやウクライナ侵攻の影響を感じさせない内容面での充実が見られた。『北方言語研究』に投稿する外国人若手研究者に対し,日本語校閲支援制度を2022年度から導入したことにより,採択件数も増加した。また,本研究が目的としているENALに関する地域類型論的な研究が大会でも学会誌でも多々見られたのは,本研究の研究内容面での大きな進展であると言える。具体的には,ツングース諸語における目的形式,アルタイ諸語における再帰表現,さらに広範な言語を対象とした北東シベリアの数詞加法表現の比較対照研究などがその代表的なものとして挙げられる。 『北方言語研究別冊』として刊行支援をした『エウェンキ語音声資料(CD付)』は,ウイルタ語研究者である編者が現地調査の際に遭遇したエウェンキ語話者から聴き取った音声資料を編纂したものであり,そうでなければ入手困難なこの言語の一次資料を収めたものとして,きわめて高い価値を持つ。 各メンバーの専門言語の研究について,当初はロシア,中国,カナダでの現地調査も視野に入れていたが,状況は好転せず,実現しなかったのは残念であった。とはいえ,各自が現地調査ができない場合も想定して,これまでに収集してきた一次資料を利用しながら,フィールド文献学的手法により,停滞させることなく着実に成果を出すことができたことは,高く評価できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の母体として2018年12月に日本北方言語学会を設立して4年余になる。その間,会員数も着実に増加し,現在は90名弱を数えるに至っている。特に旧大陸のアルタイ諸語やアイヌ語などを中心とした会員の増加が目覚ましい。日本人だけではなく,外国人研究者(韓国,フィンランド,アメリカ,ロシア)の入会も増えてきた。各自の研究についても,今後は中国やカナダなど地域によっては現地調査の可能性も見えてきた。ロシアについては今後もすぐには好転は望めないが,2022年度に培ったフィールド文献学的手法を活用しつつ,研究を継続していくことは可能であると考える。以上から,これまでの方針に基本的には大きな変更を加えることなく,継続的に研究を推進していくことが望ましいと考える。 その一方で,旧大陸側の研究者層の厚さに比べ,新大陸の北米側の研究者層はまだまだ手薄と言わざるを得ない状況である。北米のハイダ語を専門とする堀が2022年度から会長を引き継いだことにより,北米側の研究のさらなる進展が期待されるところである。すでに堀を中心として,北米先住民語研究の著名な研究者に学会への入会や協力依頼を徐々に開始しているが,今後より一層力を入れていくことが必要である。そのひとつの方策として,2023年11月に予定している第6回学会大会では,北米先住民諸言語をテーマに特別企画を組み,内外の専門家に発表をしていただくことを計画している。また『北方言語研究』14号への寄稿も合わせて奨励することにより,北米先住民諸言語研究の発展に重点的に取り組んでいく所存である。
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