研究課題/領域番号 |
23K22114
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補助金の研究課題番号 |
22H00843 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大塚 啓二郎 神戸大学, 社会システムイノベーションセンター, 特命教授 (50145653)
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研究分担者 |
真野 裕吉 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (40467064)
MAGEZI EUSTADIUS・FRANCIS 東北大学, 農学研究科, 助教 (40909222)
加治佐 敬 京都大学, 農学研究科, 教授 (50377131)
中野 優子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (60648674)
木島 陽子 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (70401718)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 貧困削減 / 緑の革命 / 灌漑水の稀少化 / 節水栽培 / 持続可能な灌漑稲作 / 栽培技術 / 灌漑 / アフリカの稲作 |
研究開始時の研究の概要 |
熱帯アジアでは1960年代中期以降、肥料感応的な高収量品種が次々と開発され、灌漑地帯を中心にして大幅な増産が実現した。これは、「緑の革命」と呼ばれる。しかしサブサハラ以南のアフリカ(以下SSA)では、今でも革命的と言えるほどの増産は起こっていない。それではなぜ、SSAでは緑の革命が起こらないのであろうか。それが、本研究の根源的な「問い」である。本研究の特徴は、SSAが緑の革命に失敗している最大の理由が、適正な栽培技術の普及(例えば畦の設置)をSSAでは怠ったこと、これと補完的な大規模灌漑の収益率が低く見積もられ、投資が不足したからであるという仮説を検証することである。
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研究実績の概要 |
本年度は、本研究課題の調査対象国の一つであるモザンビークの中部地帯にある天水田地域における稲作営農技術のインパクト評価を中心に活動を行った。本研究課題を遂行する中で、営農研修が重要であることが徐々にわかりはじめ、そのような研修を実施している同国の分析の重要性が増したため、当初の計画よりも大規模かつ詳細に調査を行うこととした。そのため予算を前倒しし、10月から1月にかけてインタビューデータの収集を行い、2月から分析を開始した。当初の計画では、技術採用(adoption)促進のための農家間ネットワークの役割を解明することを主な課題としていたが、実際に現地を訪れると、技術採用は比較的スムーズに進むものの、そのあとに一度採用した新技術から元の伝統的な技術へ戻ってしまうdis-adoptionとその結果として生じる収量の低下の問題が深刻であることが分かった。現段階のデータ分析からは、dis-adoptionが洪水リスクと関係していることが示唆されているが、他の要因も検証中である。他の要因としては、当初課題として設定していた農家間ネットワークの役割も分析している。この分析を進めDis-adoptionの要因が解明されれば、新技術の定着と生産性の持続的向上のための重要な政策含意が得られると考えている。本研究課題の他の対象国であるケニア、ウガンダ、タンザニアは、使途に制限のない他の予算も使い、予備調査や専門家との会議などが実施され、研究課題が明確化された。具体的には、ケニアでは、農業機械化に伴う適切な栽培技術の採用とその生産性への影響、ウガンダでは、農業普及員の人材育成と農家間普及の役割について、タンザニアはトラクター導入のインパクト評価である。これらの課題も持続的な生産性向上にとって重要なテーマとして調査分析を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ケニアのムウェア灌漑で収集された水稲生産に関する家計データの分析をさらに推し進めた。ムウェア灌漑は、アフリカで最も成功した大規模灌漑である。分析の焦点は、間歇灌漑と呼ばれる新しい節水技術の普及とその生産性や農家の所得への効果の評価である。この間歇灌漑は、灌漑水の使用料を40%程度も削減することが知られている。これが普及すれば、気候変動への対応策として効果があり、灌漑面積の拡大にも寄与することが期待される。しかしながら、間歇灌漑を選択するかどうかは、農家の選択変数であり、選択バイアスを抑制する回帰モデルを適用した分析をしなければならない。そうした回帰式の推定結果から、間歇灌漑は土地あたりの単収や利潤を有意に高めることが分かってきた。しかしながら、選択バイアスの問題をさらに抑制し、間歇灌漑の稲作の生産性や利潤への効果をいっそう厳密に検証するためには、この技術が導入される以前の状況と比較することが重要である。幸いムウェアでは、節水栽培が奨励される以前の2011年と2017年にも同じ研究ティームの一員が農家調査を実施している。そこで、同一の水田についての3年間にわたるパネルデータの構築を目指したが、データの整理が悪い等の理由で、想像以上に時間がかかってしまった。現在は、パネルデータの構築が終了し、回帰分析を実施しているところである。こうしたパネルデータは希少であり、もしこれに成功すれば画期的な研究成果が得られることが期待される。この研究と並行して、モザンビークの天水田地域における稲作営農技術の採用、その際の農家間ネットワークの役割、採用から不採用への変更の決定因についても、データの整理が終わり、回帰分析を開始する段階にある。モザンビークの稲作はアフリカでも最も生産性が低く、それをいかにして向上させるかの方策を見出すことはきわめて重要である。
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今後の研究の推進方策 |
円安によって調査費が実質的に減額したために、本研究プロジェクトを、ケニア、モザンビーク、ウガンダ、タンザニアの4カ国で実施するには資金の不足が予想された。そこで、この研究に以前から関心を寄せていた国際協力機構緒方貞子平和開発研究所と議論した結果、ウガンダとタンザニアの研究に対して、同研究所の支援が受けられることになった。2022年度はケニアのムウェア灌漑地域で、2023年度はモザンビークの天水田地域で農家調査を実施したが、2024年度と2025年度はウガンダの天水田地域とタンザニアの灌漑及び天水田地域で調査を実施する予定である。 これまでの研究で、アフリカの水稲の生産性が低いのは、天候に恵まれないからでもなく、優れた水稲品種が開発されていないからでもなく、畦の設置や水田の均平化等の基本的な栽培技術が普及していないことが最大の原因であることが分かってきた。したがって、2023年度は、モザンビークの中部地帯にある天水田地域での稲作の栽培技術の普及状況を評価することにした。今後ウガンダでは、JICA(国際協力機構)が実施中の「農家を普及員に育成する」というプロジェクトの効果を評価することにしたい。公的機関が雇用している農業技術普及員が真剣に仕事をしていないことは広く知られた事実であるが、とりわけアフリカではその傾向が強い。「農家を普及員」にするという試みは、斬新かつ有望であり、その効果を評価することは大きな意味があると思われる。タンザニアでは、どのようにすれば公的機関に所属する農業技術普及員のやる気を高めることができるかを、ランダム化比較試験(RCT)を用いて究明したい。具体的にどのような比較試験を実施するかについては、JICAや同国の農業機関とも相談しつつ、予備調査を実施し、効果がある可能性の高いと期待されるいくつかの代替的なシステム考案して比較試験の対象としたい。
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