研究課題/領域番号 |
23K22134
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補助金の研究課題番号 |
22H00863 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07060:金融およびファイナンス関連
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
胥 鵬 法政大学, 経済学部, 教授 (60247111)
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研究分担者 |
田中 亘 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (00282533)
松井 建二 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (20345474)
森田 果 東北大学, 法学研究科, 教授 (40292817)
蟻川 靖浩 早稲田大学, 商学学術院(経営管理研究科), 准教授 (90308156)
高橋 秀朋 法政大学, 経済学部, 教授 (90583659)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,900千円 (直接経費: 13,000千円、間接経費: 3,900千円)
2025年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | コーポレートガバナンス / 経営者バイアス / 所有構造・取締役会 / 雇用調整 / 産業構造と企業収益 / 事業撤退 / 事業売却 / 敵対的買収 / 自己株式取得 / 経営者属性と行動 / 労働とファイナンス / 複占企業戦略 / 取締役会多様性 / 女性取締役 / 証券損害訴訟 / イベントスタディ / 市場買付 / 指名委員会等設置会社 / 経営者行動バイアス / 事業再編 / 吸収合併 |
研究開始時の研究の概要 |
行動コーポレートファイナンスの視点から、赤字衰退事業が復活すると信じる行動バイアス(behavioral biases)がゾンビ投資につながると考えられる。だとすれば、企業統治への重要な課題は、経営者の行動バイアスの悪影響をどのように抑えるかということになる。具体的には、経営者指名選任プロセスの改良、経営改革の設計と実施、経営者インセンティブだけでなく、経営者の行動バイアスを考慮した企業統治の再構築などが挙げられる。本研究の目的は、事業再編、雇用調整、投資、研究開発、人的資本投資及び企業統治の経営者行動バイアスとの相互作用を明らかにすることである。
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研究実績の概要 |
近年、ゾンビ企業に関する一連の研究は、銀行と事業会社の退出の難しさを端的に物語っている。ゾンビが大幅に減少したにもかかわらず、経済産業省2019年度日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査で事業退出を検討の俎上に載せるため特定の形式的な基準は定められていないと回答した企業が78%あり、退出基準の整備が進んでいない状況となっていることが分かる。事業退出の判断基準とプロセスの有無の決定要因を解明する代表者・胥と分担者・高橋の分析から、経営者持株比率や外国投資家持株比率が高く、負債比率が高く、取締役会規模が小さいほど、社内基準、担当部署やプロセスが設けられる傾向にある。つまり、事業退出・事業売却は、会社が自ら退出を判断して行うよりも、資本市場の圧力や倒産の脅威に迫られるものである。研究分担者・田中は、効率的な事業再編や経営者行動の規律にとって重要性が高い同意なき買収(敵対的買収)と買収防衛策について、最近の買収防衛策に関する裁判例を分析するとともに、現在検討が進められている公開買付規制の改正が実現した後の防衛策のあり方について研究し、研究成果である雑誌論文を公表した。研究分担者・田中は、オンラインサーベイ実験を通じて,非友好的な買収提案に対する賛否を問うことで,高年齢層における海外買収者への反対傾向,女性の対象会社への賛成傾向などを明らかにした。研究分担者・高橋は、自己株式取得や大空襲経験経営者の行動特徴を分析した共著論文を国際学会で発表した。研究分担者・蟻川は、株式投資リターン分布の歪みを検証した。研究分担者・松井は、複占企業の戦略のあり方を分析した論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
規制緩和、技術革新と新興経済の参入などによる過剰生産能力に起因する事業の売却や撤退などの事業再構築が重要な経営判断である。他方、さまざまな要因によって事業の撤退や売却などの退出が妨げられる。とりわけ、ゾンビ企業に関する一連の研究は、銀行と事業会社の退出の難しさを端的に物語っている。われわれの研究成果は、事業退出・事業売却、すなわち、ダイベストメントは、会社が社内基準やプロセスをもって自ら退出を判断して行うよりも、資本市場の圧力や倒産の脅威に迫られるものだと示唆する。これと対照的に、投資、すなわち、インベストメントの判断基準として割引現在価値法や内部収益率法を用いることは、広く知られている。このようなインベストメントとダイベストメントの非対称性、または投資の不可逆性をコーポレートガバナンスの視点から解明する2023年度の研究実績は、資本市場、労働とファイナンスなどの文献に対する重要な貢献となる。
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今後の研究の推進方策 |
事業撤退や事業売却に雇用調整が伴う。1期の大きな赤字、または2期連続の赤字で解雇・希望退職を含めた大規模な雇用調整がおこなわれるという経験則がよく知られている。われわれの研究実績は、実際にこのような赤字調整モデルが当てはまる上場企業はわずかだと示唆する。また、正社員一人あたり現金保有が実際の撤退を行う上で組合や従業員の同意を得る困難を和らげる分析結果から、早期退職募集などの正社員の雇用調整の難しさが投資の不可逆性の重要な要因になると考えられる。今後の推進策として、今までの研究実績を踏まえて、正社員割合、現金保有と雇用調整の相互作用を考慮しつつ、企業統治改革と事業再編を分析することが挙げられる。将来の雇用調整を行うために自主早期割増退職金を支払うことに備えるために企業が現金を保有するということは、雇用調整などの事業再編費用を賄う資金制約を意味する。言い換えれば、投資と同様にダイベストメントが資金制約を受ける。資金制約に直面する経営不振企業が十分な現金を有しなければ事業再編を先送りしてゾンビ化する。したがって、1期の大きな赤字、または2期連続の赤字に陥った経営不振企業の事業再編は遅すぎる。今後、代表者と分担者はこの新しい方向で企業統治改革と事業再編の分析を引き続き行う。
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